2021年10月9日(土)から10月31日(日)まで、Yoshimi Artsとthe three konohanaで開催されていた「2つの時代の平面・絵画表現-泉茂と6名の現代作家展」に足を運んだ。
本展は2ギャラリーが共同で実施。両者は2017年から毎年(2017年と19年の2回は共同企画、2018年と20年はYoshimi Arts主催)泉茂の個展を行ってきた。
泉は1922年大阪市に生まれ、大阪市立工芸学校図案科を卒業した後、大丸百貨店に勤務のかたわら中之島洋画研究所に学んだ。1951年からは瑛九らと結成した「デモクラート美術家協会」で活動。同会の解散後は拠点をニューヨーク、そしてパリへと移した。関西の美術界を牽引した重要な作家でありながら、制作方法を何度も転換したことなどからまとまったコレクションを持つ美術館が少なく、“語るのが難しい” 作家となっていた。
泉の再評価の機運を醸成するため2ギャラリーは作品の展示を続けてきたが、今回は新たな試みとしてグループ展という形をとった。現代の作家6名(1会場3名ずつ)の作品と泉の作品を並べて展示したのだ。
現代作家6名(今井俊介、上田良、加藤巧、佐藤克久、杉山卓朗、五月女哲平)は、「泉と直接の関わりはないが、彼の表現や制作方法の傾向に共通点が見られ、現代の絵画・平面表現の展開に意欲的に取り組んでいる30代~40代の作家」として選ばれた。企画段階で6名は泉に関する詳しいレクチャーを受け、各々の思考や解釈、感化をもとに制作した新作、もしくは選定した過去作を出品。また、自分の作品とともに展示される泉の作品も、出品作家自身が選んだ。
上田良、加藤巧、杉山卓朗の3人は、2ギャラリーが開催した過去の個展で泉の作品を見たことがあり、それぞれに感銘を受けていた。そのほかの3名、今井俊介、佐藤克久、五月女哲平は、今回はじめて泉の作品に触れ、驚きとともに共感を覚えたという。泉を語り継ぐだけにとどまらず、作家と作家が時を超えて出会い刺激し合う関係を築いたということは、本展の大きな意義だろう。
作家選定の理由となった泉との「共通点」は作家によってさまざま。ここから、3人の作家の作品をその共通点とともに見ていこう。
佐藤克久の《うらおもて(53)》と題された3点の作品は、両端に複数の穴があけられておりそこにフックを掛けることで形を何パターンにも変えることができる。泉も過去の展覧会で、小さな絵をたくさん用意し来場者に好きなように並べて飾ってもらうという展示方法をとった。両者には作品のすべてを自分でコントロールせず、最終的な見せ方を他者に委ねるという姿勢が共通して見られる。
杉山卓朗と泉は「作品と自己の距離の取り方」に共通項がある。後期の泉は、作家の内面を凝縮しさらけ出すのが芸術表現の真髄だという考え方に疑問を抱き、芸術とは「発見」するものだという考え方に基づいた制作を行った。杉山の筆跡を残さない無機質な画面からは、そうした自己の発露とは異なる芸術を探究する姿勢が感じられる。
泉は版画、油彩、写真などさまざまな手法を行き来したり組み合わせたりしながら制作を行った。そうした異なる手法の往還を共通項とするのが上田良だ。上田は泉と同じく版画の思考をベースとしながら、今回は立体のオ
もちろん、それぞれの作家が泉に対して抱いた共感や受けた刺激はこれにはとどまらないはずだ。また、現代作家との対置によって泉茂という作家の特性も改めて浮かび上がってきた。“語るのが難しい” 泉を語る上で、本展は今後重要な糸口となっていくのではないだろうか。
会期:2021年10月9日(土)〜10月31日(日)
会場:Yoshimi Arts、the three konohana