時にはまるで絵画のように、時には風に揺れるカーテンのように。彼女の作品と対峙すると、日常の風景がゆらりと揺らぐ感覚になる。夢のなかにいるような、曖昧な優しい色合いに、時折見え隠れする力強さ。折り重なる色と形がつくり出す世界観にいつも引き込まれる。
千里中央駅からバスに揺られて10分ほど。Googleマップに連れられていくと、1階に花や観葉植物などのライフスタイルショップやカフェレストランが併設された複合施設「about her.」にたどり着いた。2階のギャラリースペースが今日の目的地。この一帯は繊維業の問屋が多く、道路の幅が広くて歩いていて開放感がある。すがすがしい気持ちで、2023年3月15日(水)〜28日(火)にかけて開かれた、清原遥さんの個展「寝ているバグは起こさない」に伺った。
広々とした空間の中心に置かれているのは、大きなテキスタイル作品。生命体のように生き生きとした緑色のグラデーションにはっとさせられた。「作品制作のときは、イメージよりも先に言葉があります。日常のなかで拾った言葉がキーになって、イメージをつくり上げていく感じ。キーワードがそのまま作品タイトルになることも多いですね」と清原さんはゆっくりと語る。
今回の個展タイトルは、ゲームやコンピュータープログラム上で、誤りや欠陥を表す用語「バグ」に着想を得たという。「バグがあるから正しく動いている可能性もあるので、プログラム界隈の人たちは、プログラムの根幹に影響を及ぼさないバグはそっと放置したままにしておくこともあるそうなんです。それを“寝ているバグは起こさない”と呼ぶと知って、面白いなと。人間社会に置き換えても、失敗や欠点も一刀両断するのではなく、そのまま認め合っていける社会だといいよねという、メッセージでもあります」
言葉を見つけたら、メモを欠かさないのだそう。「普通だったことが普通じゃなくなってそれがまた普通になった」「窓は水槽」「雨とバスルーム、息継ぎのタイミング」など詩的なタイトルが並ぶ。立体作品には、過去9回にわたり行った展覧会のタイトルが付けられており、それぞれに清原さんの記憶が紐付いている。
揃った新作は40点。半年前から試作をはじめて、1〜2ヶ月でつくり上げた。生地と糸を組み合わせた立体作品、ドローイング、水彩画、プリントや染めなど、展示されている作品は、テキスタイルに限らない。「想像したとおりに出来上がるのはつまらない。完成した作品に、自分自身が一番びっくりしたいから」と清原さん。さまざまな造形にアイデアを落とし込んでいくのは、実験的な創作活動の軌跡そのものだ。
清原さんの創作意欲のベースにあるのは、やっぱりテキスタイルだ。「テキスタイルは2.5次元だから好き。平面でもあるし、立体でもある。見る角度、光の位置や時間帯によって見え方が変わるし、視点が自由に行き来できる感覚が面白い。作品に自分がはっとさせられることもあります」と微笑んだ。
透かしたり、かざしたり、くるんでみたり。日によって別の色が見える。過去の記憶や思い出も時が経てば、グレーからイエローに、いつの日か変わっていることもあるかもしれない。もっと日々の揺らぎに寄り添って、もっと自由でいい。表情豊かなテキスタイルたちにそう教えてもらった気がする。
清原遥 個展「寝ているバグは起こさない」
会期:2023年3月15日(水)~28日(火)10:00〜18:00
※最終日のみ15:00まで
会場:about her.2F about her.space @about her.space
Instagram:
清原遥 @kiyoharaharuka
植物屋fytó @fyto___