大阪市北区は本庄西。梅田、中津、中崎町といったキタのにぎわうエリアからも近いこの地域に新たな場所が誕生する。「考える作り手」を基本理念とした建築施工会社・コムウトが運営する工房付シェアアトリエ・本庄西施工地区だ。
この本庄西施工地区で、2023年9月17日(日)に、「収穫祭」と銘打たれたイベントが開催された。収穫祭では建築を接合点にさまざまな取り組みを紹介するgroup展が行われ、工務店関係者、建築家、職人、学生に加えて多種多様な人々が訪れた。
会場となる本庄西施工地区は、交差点角地の駐車場から小路を挟んで、その隣に位置している。小路は歩行者が通行できる程度の幅で、会場を訪れた人たちを歓迎するように、小路沿いにあけ放たれた窓に受付と物販スペースが、そしてこの場所に関わりをもつ学生たちの取り組みを紹介するパネルが並べられていた。
仮設的に備え付けられたステップをのぼり、会場内に入ると、釣り竿をつくって宝物を釣り上げる「池」がつくられていて、遊び場になっている。覗き込むと工作台と、奥には整然と並べられた木材が見える。シェアアトリエとして稼働する際に、1階は工具・資材置き場を備えた作業場となり、「作る」フロアとして利用される。
2階にあがると、group展の展示が壁面を中心に所狭しと貼り付けられている。出展者は建築家・建築事務所が中心で、パネル化されているのは各人がこれまで取り組んできた建築について。出展する建築家らはみな施工をコムウトに依頼していることを縁に施工地区に集っており、この場所が建築を主としたものづくりのコミュニティハブとして発展していく気配を感じ取れた。
芦田晴香による展示では、解体した資材を捨てるのではなくどのように再活用したのかということが過去の事例から壁一面に図示されている。DIY的に自分たちでつくってみるという行為が、建築という領域を広げていくという説得力のある展示だ。
本岡伊藤アーキテクツの展示では図面が貼り付けられており、この図面は設計して施工するために描かれたものではなく、完成した後に撮影された建築写真からいちど客観的にその建築を見つめ、再度描かれたものだという。
group展で紹介されているものは建築だけではない。
建築設計に加えて編集も行うstudio TRUEは、これまで刊行してきた「月刊ヒューマライジン」という雑誌を並べて紹介している。「月刊ヒューマライジン」は雑誌というフィールドで印刷に注目し、環境負荷や制作過程に関わる産業に目をやり、ものづくりのかたちを模索していく。
建築写真家の大竹央祐(示に右)によるインスタレーション作品も壁一面に展開されており、まちや風景の写真が破られながらも重なり合い、ビビッドな青いインクによって繋ぎ止められ再構築されていた。
また、収穫祭ではそれぞれ一時間程度の「対話」トークイベントが行われた。group展の参加者が組み合わさり実施されたもので、芦田晴香・岩崎裕樹・高野泰幹による「捨てるかつくるか」、太田翔・大竹央祐・本岡一秀による「住んで見返す」、竹島瑠唯・寺内玲・寺田英史・舩橋耕太郎による「描くより先に」、板坂留五・上田純也・舩橋耕太郎による「丁寧な始末」という計4つの対話が行われた。共通するのは、設計や施工を超えた周辺領域まで建築の思考と実践のプロセスに組み込むこと、そこから建築の可能性を広げていこうとすることだ。
「住んで見返す」では、本庄西を拠点とする建築事務所OSTR・太田とコムウト・舩橋が協働した「本庄西の現場」から振り返り、やがてこの施工地区へと結実していくあらましが語られた。当時本庄西の現場の施工にコムウトが関わることになり、太田の自邸などもともに取り組んできた。この出会いから本庄西を舞台に新たな流れが出来上がったことに触れ、太田の存在が大きいと舩橋は語る。太田から「近くによい場所が空いています」と情報があり、舩橋はこの場所を知ることとなった。他方、太田も共同体としての価値とは別に、事務所近くに工務店がありいつでも相談ができることを貴重だと言う。
舩橋と太田が意気投合した後、今年5月に入ってtamari architects・寺田英史が本格的に関わることになった。自身でも手を動かしてつくるタイプの建築家である寺田が加わったことを契機に、「金曜の会」が始まった。毎週金曜に舩橋を中心としてさまざまなメンバーが集う会で、そのなかで建具や什器をつくってきた。今回のgroup展ではこれまで制作してきた什器もお披露目された。
シェアアトリエ稼働後、2階は「出会う」スペースとしてラウンジやギャラリーを備える。コンクリートブロックの上に渡された角材をベンチにして対話イベントを体験する時間は、この場所をどのように利用していくかという表明に感じられた。
コムウトは「建築の思考から施工へを横断する」ことを掲げている。この本庄西施工地区はそうした考えを反映して生み出されたが、施工会社が建築家と協働してものづくりを行い、場所をつくっていく例としては、真新しく興味深い。
つくる人とつかう人が共通し、日々姿を変えていく。自分の手でつくり、現場で人と対話し、それぞれが自分の職の領域を少し広げ合うことによって、生まれる共同体「本庄西施工地区」から、どんな新たな「つくる」が生まれていくのか、期待したい。
本庄西施工地区 収穫祭
日時:2023年9月17日(日) 10:00〜20:00
会場:本庄西施工地区<group展>
芦田晴香 / haruka ashida architects
板橋留五 / RUI Arichitects
岩崎裕樹 / フルマチスタジオ(会場構成)
太田翔 / OSTR
大竹央祐 / 写真家
竹島瑠唯 / 京都工芸繊維大学
寺内玲,松岡大雅 / studio TRUE
寺田英史,的場愛美 / tamari architects
永吉 佑吏子 / jyu+
本岡一秀,伊藤祐紀 / 本岡伊藤アーキテクツ<トークイベント>
「捨てるかつくるか」芦田晴香・岩崎裕樹・高野泰幹
「住んで見返す」太田翔・大竹央祐・本岡一秀
「描くより先に」竹島瑠唯・寺内玲・寺田英史・舩橋耕太郎
「丁寧な始末」板坂留五・上田純也・舩橋耕太郎
本庄西施工地区
大阪府大阪市北区本庄西1-6-25