路地を進むと、見慣れたはずのまち並みに、どこか違和感を覚える。普段は誰も気に留めないような場所にオブジェがそっと置かれ、通りの奥には不思議な光を放つインスタレーションがある。
大阪・此花区千鳥橋駅周辺で開催された芸術祭「ニュ〜パライソ 別世界篇」は、そんな“非日常”をまちのあちこちに仕掛けていた。期間は、2025年2月1日(土)から3月2日(日)の1ヵ月間。開祭式・閉祭式や作品展示に加え、公開結婚式「ブーケ」やまちなかでのゲリラパフォーマンス「サファリ」、フィナーレ企画「パレード」などの催しも行われた。

主催メンバーのひとりで、ミュージシャンのよいまつりさんにお話を伺いながら、この芸術祭の成り立ち様子をレポートする。
まちに広がるもうひとつの世界
私が訪れたのは、2025年2月15日(土)と、フィナーレ企画が開催された3月1日(土)。作品がまちの至るところに点在し、それぞれが独自の世界観を放っていた。いつも通っている場所なのに、今日は何かが違う。そんな違和感が、この芸術祭の醍醐味なのだ。



「あれ? ここにこんなものあったっけ?」
気づいた瞬間、日常の風景がほんの少しズレる。そこから先はもう、作品を探すために路地を巡るワクワク感が止まらなくなる。「ニュ〜パライソ」は、ただの芸術祭ではない。千鳥橋というまちを再発見するための、ひとつの手がかりでもあるのだ。この芸術祭がユニークなのは、決して作品を“見せる”ことを目的としていない点だ。まち全体を舞台に、訪れた人々が表現に“出会う”ことで、はじめてこの芸術祭は完成する。






芸術祭「ニュ〜パライソ」が生まれた背景
ニュ〜パライソがはじめて開催されたのは、2021年。きっかけはよいまつりさんの声かけによるものだった。
「イベントをやることになったきっかけは、コロナ禍にさかのぼります。当時、少し精神的に塞ぎ込んでいたんですね。世の中もピリピリしていたし、ネットも疲れるし……。そんななかで、千鳥橋での暮らしはあたたかくて、自分にとって救いでした。そして、自分のライフワークであった自由な表現も、体を軽くしてくれたんです。日々まちを散歩したり、生活したりしていると、『あ、ここいいな』『雰囲気あるな』と感じる場所を見つけるんですよ。そのたびに、『ここで誰かが歌ったら面白いかも』とか『この空間に大きなお面があったら映えるな』と妄想が膨らんでいきました。そんなふうに、毎日まちの魅力を全身で浴びていくなかで、『この妄想を実現してみたい!』という気持ちが強くなっていった気がします」とよいまつりさんは振り返る。

「自分にとって『表現』は、形式を問わず魅力的なものだった」と話すよいまつりさん。まちにさまざまな表現が溢れ返ったらいいのに……という想いを形にする上で、苦戦したこともあったそう。
「長らく音楽活動に専念していたので、それ以外の表現に関する人脈も実行力も足りていなくて。『どうやってさまざまな表現をこの町に……?』という壁にぶつかりました。そこで、まずは自分たちがつくれる世界観をつくろうと、音楽分野のアーティストへのオファーを進めたんです。そこから、会場をいつもと違う空間にしたいと、今度はアート分野の知人などに声をかけていきました。こうして実現したのが、2021年の『ニュ〜パライソ』です」とよいまつりさんは続ける。


2022年の2回目開催時には主会場が7つに広がり、関わる人数も一気に増え、運営者自身が現場をフォローしきれないという問題も出た。それをふまえて迎えた今回、3回目のコンセプトは、まちのなかで表現を自由に展開する「あたらしくて、いつもどおり。いつもどおりで、別世界。」だ。

千鳥橋は細い路地が入り組み、長年営まれてきた商店や銭湯があるなど、大阪の下町文化を残しているエリアだ。しかし、決して閉じた雰囲気ではなく、アトリエやギャラリーがあったり、壁にアートが描かれていたりと、まちで活動する人たちのさまざまな表現が風景に滲み出し、同居していることに気づかされる。
「このエリアの空気感が好きなんです」と話すよいまつりさんは、そのまちなみに表現を融合させることで、人々に新しい視点に立ってもらおうと考えた。よいまつりさんの声がけにより集まった参加アーティストたちのなかにも、普段と異なる手法やアプローチで臨む作家は多かったそうだ。


日常のまちを、新しい視点で見る
「ニュ〜パライソは、見えなくなっているものを、さまざまな視点から見つけ直していこう、新しく見つけていこう、という試みです。何気ない路地や、古い建物の雰囲気。そこにちょっとしたアートや音楽が加わることで、見慣れた景色がガラッと変わって見えるんですよね。まるで見えなかった世界が一瞬だけ浮かび上がるかのように。これは、まちの特性ともリンクしていると思います。その感覚の移り変わりを楽しんでくれたら嬉しいです」とよいまつりさんは語る。体験自体が、この芸術祭のひとつの作品でもあるのだ。






このまちは、表現者に対して寛容であると私は感じた。ニュ〜パライソのような点在型で、しかも期間が長いイベントは、場所によってはなかなか受け入れられないこともあるはずだ。しかし千鳥橋には実際に、この下町の雰囲気を好んでいるギャラリーや建築事務所、アトリエなどさまざまな表現者が住み暮らし活動している。
よいまつりさんも「近所にある千鳥温泉で番台をしているんですが、まちの人たちと日常的に交流があります。ニュ〜パライソの主催者メンバーも、同じく千鳥温泉のスタッフとして働いていますし、サポートメンバーもゲストハウスの清掃手伝いをしていて、地域のお店に自ら携わっている。オーナーやお客さんとつながりがあるからこそ、イベントをやるときも“あの子たちがやるなら”と、応援してくれる気がするんですよね」と話してくれた。芸術祭開催の背景には、このまちの懐の深さがある。このまちでなければできない芸術祭、というのは、こういうところから生まれてくるのかもしれない。
ハレの日だけでなく、普段のまちも魅力に溢れている。イベントはそれを浮き彫りにするためのツールでありきっかけだ。新しい視点をもって世の中を見ることができれば、日常はいつでも別世界になる。

ニュ〜パライソ 別世界篇
日時:2025年2月1日(土)〜3月2日(日)
会場:gallery魔法の生活、さぼてん堂、FIGYA、バラックぱらいそ、gallery魔法の生活、MIIT 、梅香連合集会所、FIGYA、梅香東公園、一休ホールHOUSE、千鳥橋周辺など
主催:ニュ〜パライソ実行員会、さぼてん堂
参加アーティスト:赤子、AZUMI、Amsterdamned、いしかわ、OHYEAH!、架空の観光協会、片岡拓海、加納佐和子、北川知早、北川星子、Kim Woohae、くどうはづき、黒目画塾、Keiji Matsuoka、小泉洋平、こすけ、小西大樹、業堀、齊藤公太郎、佐古勇気、詩央、sickufo、柴原直哉、嶋津良雀、杉浦こずえ、杉田真吾、杉野明日香、スチルス、仙臺悠我+大森そら、Takaaki Izumi、多汗ぎゅう、田村鉄火、taroo、ちゃいろのカプチーノ、月明照美の天体ショー、出垣内愛、天神さやか、東條 新、†¤γσβ¡ζiη、ナースZ、naonari ueda、中田粥、にゃいちゃん&Atu Oti、ニューエキスポ、ハイパー破壊神、葉隠お宮、箱、畑拓朗、ぱっぢ、歪みの国のチェルシー、百回中百回、病気マサノリ、平山剛志、ビロくん、福、舟出幸弘、プランプ、ベースダユーコ、ぼん・じゅん・る、柾、mizutama、Minimum Theater、ミミ商店、宮岡永樹、369beats、村瀬ともゆき、めるへんぎゃんぐになりたいな、森絢音、山口真央、Yüiho Umeoka、よいまつり、吉⽥A仮名、jocojo、樂円音樂、LADY FLASH、渡辺喜代志