地域への愛着は、どうやって育まれるのだろう。小さい頃育ったから? 好きな場所があるから? 家族がいるから? 一度離れてみるとその大切さに気づく、というのは多くの場面で耳にする言葉だ。
2023年11月23日(木・祝)、大阪南部にある町・熊取で開催されたイベント「オリナスジカン vol.2」に足を運んだ。「熊取の人たちと熊取以外の人たち、たくさんの人たちが熊取という場所で、ご縁を繋げ広げてほしい」と書かれたSNS上のツイート。メッセージ性のあるコピーが目を引く。
なんば駅から阪和線にのりかえ約1時間電車に揺られ、熊取駅に到着した。駅からメイン会場の熊取交流センター 煉瓦館までは徒歩約15分。向かい合った住宅の合間をぬって続く地元道には、時々田んぼが顔をのぞかせる。心地よい時間が流れている。
熊取交流センター 煉瓦館に到着。ふと見上げると、赤い煉瓦壁の建物にはのこぎり屋根があり、工場の雰囲気を残している。もともとは綿布工場として昭和3年頃に建てられた近代化産業遺産で、織物で栄えた熊取町の歴史を思い起こさせる。この日は煉瓦館に沿うように、建物の屋内外に飲食店や雑貨店の出店が軒を連ね、ワークショップやライブなどの催しも行われにぎわっていた。
中庭の芝生にはピクニックシートを広げている家族やカップル。子どもたちの「かくれんぼしようよ〜」という会話が聞こえてくる。私も思わずさっき屋台で購入した“卵たっぷりサンドイッチ”を頬張る。天気もいい、絵に書いたような休日の風景だ。
オリナスジカンを主催するのは、熊取にUターン、Iターンしてきたメンバー3名だ。ブラブラしていると、そのうちのひとり、実行委員長のかなこさんとすれ違った。彼女は熊取で生まれ育ち、大阪市内で働いていたが40歳を前にUターン。現在は、焙煎と珈琲 織の花。を夫婦で運営している。
「熊取で生まれ育った私は、この町の田園風景が好きでした。Uターンしてきた当初、当時の面影は消えつつあり残念でしたが、だからこそ町を活性化したいという想いが生まれました。珈琲店をはじめたことで、地域の同業者の方と仲良くなり、自分たちが住む熊取をもっと好きになるために、こんなイベントがあったらいいなという想いでスタートしたのが『オリナスジカン』です」とかなこさん。
話しながら、訪れたかったもうひとつのエリアに足を運ぶ。煉瓦館の斜め向かいにある中家住宅は、主屋は入母屋造り・茅葺き・妻入りで、400年前の江戸時代初期に建てられた建物だ。周囲には本瓦葺きの庇がめぐらされており、当時の隆盛を彷彿とさせる。
中家住宅では、“kumatori museum(クマトリミュージアム)”として、陶器や木彫、ガラスなど素材の異なる国内外のアーティスト9名による展示販売が行われていた。
カメラを持って、落語家の桂雀太さんと立ち話(打ち合わせ?)をしていたのは、クマトリミュージアムのディレクターを務めた竹崎伸一さんだ。竹崎さんご自身もアトリエstudio cloudを熊取町に構え、彫金作家として活動している。今回集まった仲間は、みな竹崎さんの知人。信頼できるものづくりの仲間を集めたという。
入口では木彫作家・純浦彩が手がけた優しい表情の作品たちが迎えてくれた。そのまま奥に入ると、縁側に並んでいる陶芸家・岩崎龍二のしなやかな曲線と鮮やかな色彩の陶器、YUI•STEPHANIEが描くカラフルな草花。ほかにも福祉サービス事業所・YELLOWの作家群による個性豊かでポップな絵画が思い思いに飾られていた。また、ガラスアーティスト・幸小菜、ステンドグラス作家・中野一夫、イラストレーター・中原みおの作品が揃っていた。
「彫ったり、溶かしたりして、一から自分の手でものを生み出している人たちの作品です。都心部にはミュージアムがあるけれど、熊取では本当のものづくりに触れる機会が少ない。子どもたちにも、人の手からつくり出された作品に触れてほしいと思い企画しました」と微笑む。そして「本当のものづくりに触れられるような、場づくりを続けたい」と語った。
「今回、会場に加わった中家住宅は、子どもの頃は遊び場だったんです。今となっては貴重な体験ですよね。熊取の歴史を想像できる建物が残っていることも町の魅力のひとつ。この町以外の方にも伝えられたらいいなと思っています」とかなこさん。
イベントを通して、不思議と熊取に愛着を感じていた。場の持つ力はすごいな。地域活性化と称されるイベントは増えつつあるが、実際にその地域に居住している人が自主的に企画をして運営するイベントは、やはりその深みが違う気がする。手づくりのイベントには、手仕事と同じように、人の想いが滲み出るのかもしれない。だから、あたたかさや居心地の良さを感じるのかもしれない。人の想いとつながりが織りなす時間に浸った、そんな一日だった。
日時:2023年11月23日(木・祝)10:00〜16:00
会場:熊取交流センター 煉瓦館、重要文化財 中家住宅
※次回は、2024年6月開催予定