梅田のビル群を近景に望みつつ、家族層や学生の暮らしの気配も感じられる中津。再開発で変化を遂げていく整備区画を横切り、路地に入れば長屋の一帯が覗く。一方で、ギャラリーやカフェ、衣服店など多種多様なスペースが点在するところにも、まちの懐を垣間見る気がする。そんな地で、開拓料理人の堀田裕介さんをはじめとするgrow rice projectが、豊中で営んでいた中華粥店「Rice Meals FoTan」の新店舗をオープンしたと聞き、足を運んだ。
grow rice projectは、日本の米食文化を未来へつなぐため、農家を応援しコミュニティを築くことを目指して立ち上がった。日本ではさほど馴染みがない中華粥をはじめたのは、自社農園の米を用いた飲食業態を検討していた際、出張で訪れた香港・火炭(Fo Tan/フォータン)で偶然中華粥に出会ったことがきっかけだという。帰国すると、その美味しさを手がかりに独自のレシピを開発。縁のあるまちの名を取り、Rice Meals FoTanは誕生した。
新店舗が位置するのは中津商店街の一角。シャッターが連なるひっそりとした場所だが、日用品を売る昔ながらの商店、ここ10数年の間に参入したであろうアジア料理店やレコード店、オープンを控え改装が進むカフェなどもぽつぽつと並び、土地が経てきた時間のグラデーションを見るようでもある。5月も下旬、長袖ではやや汗ばむ陽気だ。すこし通りを進むと、白い戸枠に木目の壁が明るい、Rice Meals FoTanの店構えと対面した。
まずはカウンターでの注文から。メニューは「中華粥口福セット」「香港焼きそばつけ麺セット」の2種だ。前者は塩鯖と蒸し鶏、あさり、しらす、ピータン、海老団子、魯肉の7種から好きな中華粥を選ぶことができ、搾菜と自家製焼売、豆花が付く。後者は鶏出汁を加えた中華粥と蝦麺焼きそばに、肉包焼売というラインナップ。それぞれ黒米のクラフトコーラや青島ビールなどのドリンク、卵と追いパクチーのトッピングもお好みで。いただく前から大充実の一膳であることが期待される。
この日注文したのは口福セット。蒸し鶏の中華粥に、クラフトコーラを添えた(空調が心地よい店内で、温かいお粥を口に運びつつ、きりっと冷えたスパイシーなドリンクで喉を潤す贅沢)。出汁の効いたお粥はこっくりと味わい豊か。揚げワンタンを手で崩し、搾菜やパクチー、辣油もすこしずつ落とし入れれば、食感も香りも変化して楽しい。追って蒸し立てをサーブいただいた自家製焼売は、ジューシーな肉のタネにうずもれた、瑞々しく甘いとうもろこしがいいアクセントに。そして最後は豆花を掬い、シロップにたっぷりと浸った粒揃いの小豆、緑豆、はと麦を噛みしめる。お腹も満たされ、深い滋味に幸福の余韻が漂うひとときだ。
中華粥には、grow rice projectを協働で運営する滋賀県長浜町・みたて農園の米「みずかがみ」を使用。出汁には淡路島の乾燥海老、北海道サロマ湖産の貝柱、香川県の乾物の老舗・やまくにの大羽いりこといった無添加食材をふんだんに用いている。後日、国内産の材料を選ぶ理由についてあらためて堀田さんに伺うと、「日本のものづくりの原点と言っても過言ではない、お米の新たな可能性を見出したいという大きな目的がひとつ。そして、これまでに出会った、全国の素晴らしい生産者さんの食材を生かすことで、国内の食料自給率を向上させたいという想いがあります」とコメントをくださった。
2024年、梅田・JR大阪駅北側(うめきた)は、宅地や都市公園への再開発が予定された2期エリアのまちびらきを迎える。中津にも新たな人の流入が予想され、Rice Meals FoTanはその歩みのなかで、さらなる食の展開を見せていこうとしているさなかだ。「まだまだ雲の上の存在ですが、目標はSoup Stock Tokyoのような、生産者とパートナーシップを築きながら、地域の食文化を育て、循環させていくお店のあり方。お客様とスタッフの健康を第一に考え、国内の食材を大切に提供することを通して、生産者の方々へ適正な対価を納めていく。そんなサステナブルな飲食業態をつくっていきたいですね」と堀田さん。今後は、こだわりの食とのより身近な接点を生み出すべく、京阪神のアクセス利便の良い阪急沿線への出店を目指しているそうだ。
日本各地の自然のなかで、手塩をかけてつくられた食材が為す中華粥の味わい。胃袋があたたまる喜びを覚えに、再び足を延ばしたいと思う。
Rice Meals FoTan
Instagram:@ricemealsfotan_nakatsu
大阪市北区中津3-16-3