“密売人”が現れるという噂を耳にし、6月18日(土)13:30、多くの買い物客が行き交う大阪アメリカ村・三角公園に潜入した。6月というのに30℃を超える真夏日であったが、公園周辺はおしゃべりやスケボーを楽しむ多くの若者であふれかえっている。
あたりを見渡してみると、公園の一角でタバコを吸いながら、真っ青なスーツケースを広げる怪しい男を発見。間違いなく、予告されていた密売人の風貌だ。周りには、すでに客と見られる人々が集まり、スーツケースを覗き込み談笑していた。筆者も客を装って近づいてみる。すると、親しげに「あぁ、どうも!」と笑みを浮かべた。
スーツケースには、劇団子供鉅人の演劇作品『組みしだかれてツインテール』(2015年)、『ハミンンンンンング』(2018年)のDVDほか、音楽劇『アッパーグラウンド』(2010年)などのCD、グッズがぎっしりと敷き詰められている。客は、密売人たちと作品についての思い出話を楽しみながら、商品を選んでいた。
ここで、サイン入りのDVDやグッズを受け取り、嬉々としている客らに声をかけてみた。
「学生時代に演劇ワークショップに参加して以来、子供鉅人のファンなんです。東京在住ですが、Twitterの告知を聞いて大阪へ。遠目からでもわかる怪しさに、ニヤニヤしちゃいました」(客A)
「解散すると聞いて、駆けつけました。見逃してしまった作品のDVDを入手できて満足です。ここで出会ったファン同士で語り合えるのも楽しいですね」(客B)
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この密売会、実は今年5月に解散を発表した劇団子供鉅人によるもの。2005年に益山貴司・寛司兄弟を中心に大阪で旗揚げした同団は、「子供のようで鉅人、鉅人のようで子供」をコンセプトに、パワフルな作品を発表してきた。2014年に東京へ拠点を移してからも、100人が出演する『マクベス』(2017年)、SICF19 PLAYでグランプリを受賞した『人力お化け屋敷』ほか多くの作品を発表してきたが、2022年5月5日、「シンプルにみんな、新しいことを始めるべきだと思った」との理由から解散が宣言された。
翌日、劇団子供鉅人代表・益山氏に話を伺った。
「突然おかんがやってきて、日暮れまでずっと居座られたのにはまいりました。ずっと『早く演劇を辞めて就職しろ』なんて言われてきたから、息子が劇団を辞めてくれたことにホッとしたんでしょうね(笑)。でも、3時間ほど来る人来る人に『ありがとうな〜!』と喋り倒していたので、おかんの愛も感じましたよ」
「何はともあれ、子供鉅人にとっての公式クロージングがこの密売会だったんです。多くの劇団が解散公演で締めくくるなか、今回は支えてくれた一人ひとりと向き合って、思い出話をする形式にしました。渋谷センター街でも開催し、知り合いもたくさん来てくれました。そんななか、特に印象に残っているのが、10年以上見守ってくれていたという、はじめてお話しする方からの『仕事で辛いことがあったのですが、子供鉅人さんの演劇を見たら、もうちょっと頑張ろうと思えたんです』という言葉。僕たちは、いろんな人に支えられて、そして支えて、やってきたんだな、とあらためて感じる瞬間でした」
コロナ禍で、人が集う状況はいまだにつくり辛い。“密売会”方式は1対1でこっそり会えて、密にコミュニケーションが取れる演劇として成立しているように思えた。
「大阪で、またなんかやりたいと思ってるんですけどね〜」と言い残し、去っていった益山氏。今後の活動にもぜひ注目したい。
劇団子供鉅人による密売会
開催日:2022年6月18日(土)
会場:アメリカ村・三角公園(御津公園)