「芸術文化を、大阪から考える」といった際に、まずは大阪、ひいては都市について改めて考えたいと思いました。これはコロナ禍で、わたしたちの暮らしを成り立たせている社会の仕組みや経済について再考するときが来ていると実感したからです。プラネタリー・アーバニゼーション(地球の都市化)という言葉もありますが、わたしたちはロジスティクスというスムーズな流れによって、常に有形無形の商品を消費し続けることで、あるいはリモートを加速させるコミュニケーション技術によって、物理的な出会いがもたらす関係性や、使ったり食べたりしているものの連関への想像力が奪われているようにも思えます。その異様とも言えるスムーズさのなかに、どのように亀裂やひっかかりを見つけ出していくのか。そこから、文化や芸術が醸造されるのだと思います。  今回の特集では、猪瀬浩平さんとの対談では、私たちの生き方や、コロナ禍において顕在化した感染させる/させないの二元論に回収される違和感と、リモートによるコミュニケーションによってこぼれ落ちる「巷」的なひっかかりについての大切な視座と経験を、有家俊之さんにはロジスティクスと反対側にあるものの調達とその楽しみとおいしさを教えていただきました。また、北川眞也さんとの対談で都市のパースペクティブとそのなかで行われている実践をお聞きしながら、いかに私たちは行動できるのかというヒントを与えていただき、合わせて、櫻田和也さんとともに大阪という都市を成り立たせている住之江の物流拠点、港湾地帯をフィールドワークすることで改めて私たちの暮らす都市を実感することができました。一見、つながらないようなこれらの経験や知見は、どこでもすぐにつながれる現在において、私たちに物事を編み直す想像力を与えてくれます。今回、対談やフィールドワークをともにした4者は、みなアーティストだと思います。家成俊勝 Toshikatsu Ienari ー 建築家。1974年兵庫県生まれ。2004年、赤代武志とdot architectsを共同設立。京都芸術大学教授。アート、オルタナティブメディア、建築、地域研究、NPOなどが集まるコーポ北加賀屋を拠点に活動。
On Site
2021.09.14
#LITERATURE#POETRY#BOOK#REVIEW

REVIEW|今、富岡多惠子を読むということ。
詩人、小説家、批評家という3つの顔を持つ
富岡の作品世界を現代に問い直す。

文: 坂道干
REVIEW|今、富岡多惠子を読むということ。詩人、小説家、批評家という3つの顔を持つ富岡の作品世界を現代に問い直す。
水田宗子編『富岡多惠子論集「はぐれもの」の思想と語り』 (めるくまーる、2021年)

しかし、ハグレた者も人間であり、死ぬまで生きていく者である。
(富岡多惠子『女子供の反乱』より)

フェミニズムの新たな潮流が生まれるなかで、2021年、富岡多惠子の論文集が刊行された。『富岡多惠子論集「はぐれもの」の思想と語り』(水田宗子編、めるくまーる、2021年)である。これまで富岡多惠子について、まとまった書籍のかたちで論じられてきたことはほとんどないと思われるが、本書が刊行されたことで、ウーマン・リブの時代から、フェミニストの立場で文章を多く発表してきた富岡の作品を改めて読むべき時期が来たのではないかと感じる。

半世紀近く前に出された富岡の著書『女子供の反乱』(中央公論社、1976年)に「ハグレ者」というエッセイが収められている。「しかし、ハグレた者も人間であり、死ぬまで生きていく者である」という一節はこのエッセイに記された言葉だが、富岡がその創作において描き続けた、群れからはぐれた人間の生きざまはどのようなものであったのか、本書『富岡多惠子論集』で読解が試みられている。

富岡多惠子は、1935(昭和10)年に大阪市で生まれた。小野十三郎に触発され、詩を書きはじめた彼女は、その後小説を著し、批評やエッセイも多く書き続けた。『富岡多惠子論集』では、論者たちが富岡の作品群からフェミニストの視点を読み取るだけでなく、「はぐれもの」を軸として、一つひとつの作品を丁寧に分析し富岡がなにを描いたのか、一歩遠くへ進み考察している。

あなたがわからない哀しみ/あなたがあなたである哀しみ
(富岡多惠子『返禮』より)

本書には詩の分析を行った論考が2編収録されている。そのひとつ、リー・エヴァンス・フリードリックによる、トリックスター(天邪鬼)を分析の切り口とした詩作品の考察には目を開かれる思いがした(和智綏子による翻訳)。フリードリックの論じる詩のなかで、1957年に書かれた「Between」は、富岡の最初の詩集『返禮』に収められている。そこで描かれる時代背景は現代と大きく異なるはずなのに、今読み、考えなければならない切実さがその行間には存在する。「あなたがわからない哀しみ/あなたがあなたである哀しみ」という一節には、分断、差別、孤立のただなかにいて、切り裂かれた自己を見つめる私たちのナラティブも含まれている気がしてならないのだ。

詩の分析を行った2編以外は、小説作品の分析が中心となっている。富岡多惠子の小説は、エッセイなどの明快さと一線を画し、複雑な内面世界を有している。富岡文学に描かれる、共同体、血縁、家族という群れからはぐれ、逃げ出す人物は、シス女性に限らないし、女性としての苦しみ以外の苦しみをも顕わにする。その逸脱する生の描かれ方が当時の富岡の問題意識を鮮明にするのである。

また、詩と決別し、小説を書くようになった富岡であるが、たとえば小説『植物祭』で娘が母に放つ言葉には「帰ってよ、今夜の汽車で帰ってよ、駅まで送っていくから帰ってよ」のように、ふと詩人としての顔が見え隠れすることもある。編者の水田宗子が「富岡多惠子が、詩を書くことによって追求してきたモダニズム以降の言語の問題を小説のなかで思考しなければならなかったのも、ひとつの皮肉である。」(同書49頁)と書くように、詩人であった富岡が、詩ではないかたちで「語る」ことを目指した先に富岡の小説における「語り」があり、言葉へのこだわりが見られる。

富岡多惠子が、そういった言葉の「内部」を信用する自己完結的な言語芸術――知的想像力の世界――に疑問を持ったとき、小説の世界が開けてきたといえる。おそらくそこには「存在のかなしさ」に対する新しい認識があったにちがいない。
(同書49頁)

富岡の手で書かれた批評・評論については、折口信夫、中勘助や大津事件に関するものなど、実に多彩であるが、本書ではそのなかからフェミニズム批評、日本共産党のハウスキーパーの問題(※)について論じた評論「女の表現」が取り上げられている。このほか、富岡は井原西鶴、近松門左衛門ら大阪の作家についての関心も深く、関連する評論などの著作物もある。富岡多惠子の膨大な仕事の全貌をとらえることは非常に困難であるが、それらも含めた包括的な論考が今後出版されることも期待したい。

本書の刊行を記念し、編者・水田宗子のインタビュー(聞き手:住本麻子)が読書人のWebサイトに掲載されている。併せて読みたい。

※日本共産党の男性党員と女性党員あるいはシンパの女性がともに暮らし、身の回りの世話をしていたことなどについて、戦前官憲やメディアで流布され、左翼批判へとつながった問題

『富岡多惠子論集「はぐれもの」の思想と語り』目次

序文――富岡多惠子と場所の記憶 水田宗子

水田宗子
家族のトラウマと語り――『逆髪』まで
富岡多惠子の「語り」と女性のナラティヴ――『動物の葬禮』と参列者
「冬の国」からの旅、ガリヴァーの行かなかった共和国へ――『ひべるにあ島紀行』

北田幸恵
異形とジェンダー越境――『逆髪』を読む
〈哀れな女〉から〈自由なハグレ者〉へ――富岡多惠子の評論「女の表現」におけるハウスキーパー像の転換

長谷川 啓
富岡多惠子の過激な反逆精神――『砂に風』『波うつ土地』『白光』をめぐって

デイヴィッド・ホロウェイ(和智綏子・訳)
恥辱を超越する身体――性、聖域、そして『芻狗』

リー・エヴァンス・フリードリック(和智綏子・訳)
天邪鬼の声:富岡多惠子による拒否の詩

与那覇恵子
富岡多惠子の詩の世界
富岡多惠子の文学世界――年譜風に

富岡多惠子・著作目録

編者:水田宗子(みずたのりこ)

比較文学者(アメリカ文学、比較女性文学、ジェンダー文化論、現代詩批評)、詩人。
主な著書に『Reality and Fiction in Modern Japanese Literature』『エドガー・アラン・ポオの世界』『鏡の中の錯乱─シルヴィア・プラス詩選』『ヒロインからヒーローへ』『フェミニズムの彼方』『物語と反物語の風景』『20世紀の女性表現』『ことばが紡ぐ羽衣』『女性学との出会い』『尾崎翠[第七官界彷徨]の世界』『モダニズムと戦後女性詩の展開』『詩の魅力/詩の領域』など多数。詩集『春の終りに』『幕間』『帰路』『青い藻の海』『影と花と』『水田宗子詩選集』『うさぎのいる庭』『音波』他物語詩三部作など。

富岡多惠子(とみおか・たえこ)

小説家、詩人、評論家。1935(昭和10)年大阪市生まれ。大阪女子大学卒。最初の詩集『返禮』でH氏賞を受賞。詩集『物語の明くる日』で室生犀星詩人賞。1971年頃、詩から小説へ転じると、『植物祭』で田村俊子賞、『立切れ』で川端康成文学賞受賞。生と性にまつわる独自の鋭い批評性をもつ。『冥途の家族』(女流文学賞)、『芻狗』『動物の葬禮』『当世凡人伝』『環の世界』『斑猫』『波うつ土地』『逆髪』『水上庭園』『ひべるにあ島紀行』(野間文芸賞)など著書多数。『行為と芸術』『詩よ歌よ、さようなら』『闇をやぶる声』『女子供の反乱』『西鶴のかたり』『近松浄瑠璃私考』『中勘助の恋』(読売文学賞)『西鶴の感情』(伊藤整文学賞、大佛次郎賞)『室生犀星』『釋迢空ノート』(紫式部文学賞、毎日出版文化賞)など評論も多く、上野千鶴子らとの鼎談集『男流文学論』はフェミニズム批評においても話題となる。

めるくまーるWebサイトより)

『富岡多惠子論集「はぐれもの」の思想と語り』

編者:水田宗子

著者:水田宗子、北田幸恵、長谷川啓、デイヴィッド・ホロウェイ(和智綏子・訳)、リー・エヴァンス・フリードリック(和智綏子・訳)、与那覇恵子

定価:2,750円(本体2,500円+税)

判型:四六判・上製

頁数:320ページ

発刊:2021年1月

発行:めるくまーる

photo:REVIEW|今、富岡多惠子を読むということ。詩人、小説家、批評家という3つの顔を持つ…
Must Reads
2021.09.14
REVIEW|今、富岡多惠子を読むということ。詩人、小説家、批評家という3つの顔を持つ…
MORE
photo:REPORT|ゼネラル・ストア「THOUS」オープン
Must Reads
2021.09.01
REPORT|ゼネラル・ストア「THOUS」オープン
MORE
photo:REPORT|中村一般画集発売記念個展「僕のちっぽけな人生を誰にも渡さないんだ」
Must Reads
2021.08.11
REPORT|中村一般画集発売記念個展「僕のちっぽけな人生を誰にも渡さないんだ」
MORE
photo:What’s up?|最近どうですか? 第7回:たけしげみゆきさん(シカク)
Must Reads
2021.08.01
What’s up?|最近どうですか? 第7回:たけしげみゆきさん(シカク)
MORE
photo:REPORT | coeur ya.作品展「次元」
Must Reads
2021.07.05
REPORT | coeur ya.作品展「次元」
MORE
#NEW PURE +#千鳥文化#enoco#グランフロント大阪#ギャラリーノマル#アートエリアB1#うめきたシップホール#音ビル#Club Daphnia#FOLK old book store#谷口カレー#クリエイティブセンター大阪#すみのえアート・ビート#YCAM#MASK#Open Storage#The Branch#コーポ北加賀屋#M@M#HEP HALL#Calo Bookshop & Cafe#Live Bar FANDANGO#HOPKEN#前田文化#LVDB BOOKS#光#あべのま#山本製菓#ナイスショップスー#ペフ#SAA#YARD Coffee & Craft Chocolate#ピンポン食堂#graf#umeda TRAD#SOCORE FACTORY#梅田クラブクアトロ#難波ベアーズ#梅田シャングリラ#contact Gonzo#塚原悠也#レトロ印刷JAM#ANIMA#ココルーム#吉行良平#国立民族学博物館#水野勝仁#金氏徹平#ビンビール#シカク#blackbird books#hitoto#MASAGON PARK#ロフトプラスワンウエスト#ギャラリー オソブランコ#JIKAN<space>#ALNLM#丼池繊維会館#アートコートギャラリー#Club Stomp#ギャラリーほそかわ#中崎町#ondo tosabori#artgallery opaltimes#FUKUGAN GALLERY#Yoshimi Arts#梅田哲也#kioku手芸館「たんす」#CONPASS#国立国際美術館#Hotel Noum OSAKA#PINE BROOKLYN#大成紙器製作所#プロダクトデザイン#WEBデザイン#ペーパーアイテム#The Blend Apartments#フラッグスタジオ#紙器具#文房具#TEZUKAYAMA GALLERY#GLAN FABRIQUE#Compufunk#シネ・ヌーヴォ#+1art#ブルームギャラリー#東大阪市民美術センター#Pulp#Alffo Records#淀屋橋見本帖#toi books#YOD Gallery#FIGYA#浄土宗應典院#味園ユニバース#Super Studio Kitakagaya#淀川テクニック#柴田英昭#スターバックス LINKSUMEDA#ギャラリー・ソラリス#喫茶アオツキ#ムジカジャポニカ#豊中市立文化芸術センター#LUCUA 1100#THE STORIES#阪急うめだ本店#howse#イロリムラ#The Third Gallery Aya#平野愛#心の傷を癒すということ#多賀結いの森#The Blend Inn#DELI#gekillin#LUCUA osaka#dieci#FREITAG#フライターグ#デザイン#solaris#CIRCUS OSAKA#excube#MI Gallery#第七藝術劇場#福岡市美術館#のせでんアートライン#のせでん#原久子#ディエゴ・テオ#渡邉朋也#なべたん#深澤孝史#岡啓輔#井上亜美#渡部睦子#拉黒子・達立夫#コンタクト・ゴンゾ#松本直也#Tyrni#シアターセブン#toe#TRA-TRAVEL#POL#the three konohana#New Life Collection#大阪府立中央図書館#iTohen#藤谷商店#silta#DEN#gallery nomart#ノートギャラリー#イチノジュウニのヨン#音凪#モモモグラ#THE BOLY OSAKA#OLGA-goosecandle-#シネ・ヌーヴォX#ウイングフィールド#PONY PONY HUNGRY#wad#大阪髙島屋#ペーパーボイス大阪#NOON + CAFE#アトリエ三月#ABCホール#HENE#DMOARTS#スタンダードブックストア#里づと#FM802#FM COCOLO#gekilin.#西淀川アートターミナル#シネ・リーブル梅田#夜長堂#梅田ロフト#まがり書房#御殿山生涯学習美術センター#cumonos#インディペンデントシアター#心斎橋PARCO#KITAHAMA N Gallery#GALLERY wks.#RAURAUJI#JAM#SUNABAギャラリー#日本橋の家#Oギャラリーeyes#大阪日本民芸館#photo gallery Sai#志賀理江子#アトリエS-pace#I SEE ALL#gallery,あるゐは#吹田市文化会館(メイシアター)#豊中市立市民ギャラリー#art#architecture#GULIGULI#Blend Studio#CAS#赤鹿麻耶#マヅラ#HEP FIVE#ssud#阪神梅田本店#茨木市立ギャラリー#日野浩志郎#YPY#JITSUZAISEI#CÀRRY HOUSE#music#Galerie de RIVIERE#辺口芳典#植松琢麿#稲井亮太#角木正樹#どく社#本の人#MUESUM#UMA/design farm#三木学#布施琳太郎#岡部太郎#原田祐馬#山本理恵子#神戸映画資料館#アップリンク京都#PLANET+1#出町座#京都シネマ#アシタノシカク#TOPOLOGY#EDANE#SEWING TABLE COFFEE SO Lei#SHELF#豊田道倫#キッチンにて#キッチンにて2#25時#in→dependent theatre#檜山真有#野原万里絵#GQOM ÇA DU MODE#GQOM ÇA DU MODE Vol. 2#Gqom#ハタノワタル#カール・ハンセン&サン#中田由美#YUGO.#SkiiMa#SkiiMa Gallery#ninkipen!#大阪建築コンクール#大阪府建築士会#Lil Soft Tennis#大阪大学#gallery yolcha#占星術#大阪市中央公会堂#chignitta space#Yoshiaki Inoue Gallery#二艘木洋行#劇団壱劇屋#香港インディペンデント映画祭#ROCKET#coeur ya.#大阪くらしの今昔館#fuk 48#Namba Bears#HMP Theater Company#テアトル梅田#G&S 根雨#本渡章#古地図でたどる大阪24区の履歴書#140B#豊田道倫 & His Band#坂口恭平#衝突と恍惚#芝野健太#松見拓也#仲村健太郎#井上嘉和#藤本玲奈#LIGHT YEARS OSAKA#野田#NOTA_SHOP#ATAKA#第8回 夏のホラー秘宝まつり 2021#夏のホラー秘宝まつり#ルチオ・フルチ#マリオ・ヴァーバ#滋賀県立美術館#朝野ペコ#喫茶路地#小松理虔#田中輝美#白波瀬達也#VOYAGE KIDS#サイノツノ#SOCIALDIA#山下壮起#日本キリスト教団阿倍野教会#hanamikoji#花見小路#法華寺#socket#暮らしと民藝#暮らし#民藝#so objects#桜川#THOUS#ももちの世界#NISHIGUCHI KUTSUSHITA STORE OSAKA#ART OSAKA#Yoshiaki lnoue Gallery#studio J#+1 art#Nii Fine Arts#KAZE ART PLANNING#カペイシャス#graf awa#うだつ上がる#服部滋樹#高橋利明#SpinniNG MiLL#71labo#SAKAINOMA café熊#八六八ビル#dracom#大阪中之島美術館#ビッグ・アイ#梅田Lateral#吉開菜央#1970年日本万国博覧会#2025年日本万国博覧会#カイ・T・エリクソン#そこにすべてがあった バッファロー・クリーク洪水と集合的トラウマの社会学#そこにすべてがあった#夕書房#宮前良平#大門大朗#高原耕平#大阪高島屋