本特集では、ドキュメンタリーとフィクションの関係やその境界について向き合いました。それは、「事実」「作為」「理解」というような言葉の定義や、それらに付随する葛藤の輪郭をなぞっていくような作業であり、あらためてドキュメンタリーとフィクションの境界というものがいかに流動的で、相互的関係にあるかを感じています。人が食べるという行為をインタビューを通して観察・分析してきた独立人類学者の磯野真穂さんとの対談では、他者を理解することについて言葉を交わしました。また、現代フランス哲学、芸術学、映像論をフィールドに文筆業を行う福尾匠さん、同じく、映画や文芸を中心とした評論・文筆活動を行う五所純子さん、そして、劇団「ゆうめい」を主宰し、自身の体験を二次創作的に作品化する脚本&演出家・池田亮さんの寄稿では、立場の異なる三者の視点からドキュメンタリーとフィクションの地平の先になにを見るのかを言葉にしていただきました。対岸の風景を可視化していくこと、まだ見ぬ世界を知覚すること、その先に結ばれた像が唯一絶対の真実から開放してくれることを信じて。そして、今日もわたしは石をなぞる。小田香 Kaori Oda ー 1987年大阪生まれ。フィルムメーカー。2016年、タル・ベーラが陣頭指揮するfilm.factoryを修了。第一長編作『鉱 ARAGANE』が山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波部門にて特別賞受賞。2019年、『セノーテ』がロッテルダム国際映画祭などを巡回。2020年、第1回大島渚賞受賞。2021年、第71回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。
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2021.09.30
#The Third Gallery Aya#ART#COLUMN#EXHIBITION

REVIEW|Wo-Man with a 3rd eye
The Third Gallery Aya 25周年記念「山沢栄子、岡上淑子、石内都 2021」展

檜山真有
文: 檜山真有 [キュレーター]

カメラをのぞきこむ彼女ら・写真を選ぶ彼女らをサイボーグであると言い切れなかったのは、カメラや写真が「ニュー・テクノロジー」だと言うにはあまりに古い歴史を持ち、西欧の文明や文化の物語の中に燦然とした位置をすでに築いていたからだ。自然/人工、撮る/撮られる、女性/男性などの二項対立のあわいではなく、超越を夢見て、「わたしはサイボーグになりたい」とカメラを持てば、ダナ・ハラウェイのう「想像力と物質的現実がともに凝縮された結果」【1】となれる。さて、本当に?

REVIEW|Wo-Man with a 3rd eye ——The Third Gallery Aya 25周年記念「山沢栄子、岡上淑子、石内都 2021」展
会期後半の展示風景 ©︎TAKASHIMA Kiyotoshi Courtesy of The Third Gallery Aya

山沢栄子、岡上淑子、石内都。本展で一堂に会した3人のアーティストは年齢も経歴も、作風もまるで異なる。しかし、唯一共通しているのは、彼女らがみな最初から写真で表現を行おうとしていたわけではなかったことである。彼女らはみな、偶然、導きのように写真を選んだのである。

山沢は当初、絵画を学ぶために渡米し、同地で写真助手のアルバイトをはじめることから写真に出会う。山沢が出品した「What I am doing」シリーズは、当初は《黒のコンポジション No.1》(1981年)などモチーフに対する具体的な名前がタイトルとしてあげられていた。「私がやっていること」とタイトルを名付け直すことで、我々の目の前に常に突きつけられる現実の鮮烈さに対して、撮るという営みに自らフォーカスを再設定する。それは、彼女の晩年の仕事でもある同シリーズが彼女の芸術写真の集大成ではなく、彼女がアメリカの写真館で勤めていたときから綿々と続けてきた「私がやっていること」のひとつなのだということを指し示す。

岡上はファッションに関心をもち、文化学院デザイン科で学ぶ過程でコラージュという表現方法を獲得した。ヨーロッパ的なものに憧れつつも、素材となるのは進駐軍が戦後の日本に残していった『LIFE』や『VOGUE』などの雑誌のバックナンバーであった。本展にはそのような雑誌を用いたコラージュのみならず、異なる素材やモチーフを組み合わせ、自ら撮影した写真作品も出展されていた。自らがつくり上げたイメージから、“私”が見ているイメージを獲得したのである。

石内はデビュー作であるシリーズ「絶唱、横須賀ストーリー」(1976-1977)から出品し、会期後半には「ひろしま」シリーズが並んだ。北関東から引っ越してきた自らの地元でもある横須賀を「日本における戦後史の具体的現場」【2】と称して、私性と社会性を同時に撮影する方法を確立し、その後、被爆者の遺品という日本におけるもっとも具体的な戦後の現場に取り組むのである。そこで写される曇りのない遺品たちは、横須賀から広島へ、彼女のなかにある戦後史の現場が場所から物品へという、私性と社会性を超えたものへと変遷していく様を示す。

本展に出品されていた作品はいずれも山沢、岡上、石内の「獲得」の営みを見る作品である。なにをどこから獲得するのか、というと、男性ばかりが名を連ねた彼女らの現場から、自分が浮遊してどこまでも彼らや他人と異なる方向へ行く術を獲得したのである。その伴侶としてあったカメラあるいは写真とは、すでに過ぎ去り、どこにもない風景を産み出すものである。ハラウェイは同様にサイボーグにあらゆる風景の生産や憧憬さえ拒否するヴィジョンを託していた。人間の眼−機械の眼の2つでピントを合わせることで、彼女らはすでにサイボーグという言葉が生まれる前【3】からサイボーグ的実践に身を投じていた。

では、なぜ、カメラや写真というサイボーグになるにはあまりに都合のいものがありながらも、サイボーグが夢見たヴィジョンは現実のものとはならないのだろうか。そこには広告、報道、芸術といった別の価値観と目的によって分化していった写真に対しての評価が、そのような言葉の垣根軽々超える写真家に追いついていないという根本的な言説の不足が生じているからだ。カメラや写真を持つことがどれほど社会を変えうる可能性があるのか、ということよりも、カメラの機構が西欧的な現実の捉え方を構築させていったことや、異性愛規範を内面化した家父長制に基づいた評価の言葉により、どこにもない風景はどこかの風景へと変貌していく。

本展は、それぞれの時代にひとりで漂う彼女ら「3人を集めてみたかった」という欲望のもとに集めた展覧会となっている。それはひとりで漂うからこそ見えていたどこにもなかった風景の復権への欲望なのである。

【1】ダナ・ハラウェイ著、巽孝之訳「サイボーグ宣言」『サイボーグ・フェミニズム』p.31(トレヴィル、1985)

【2】石内都『ひろしま』p.112(集英社、2008)

【3】サイボーグ(Cyborg)という言葉は、1960年にマンフレッド・クラインズによって提唱された言葉である。日本では石ノ森章太郎による『サイボーグ009』によって広く普及された。

檜山真有 / Maaru Hiyama

1994年大阪市北区生まれ。東京芸術大学大学院国際芸術創造研究科修了。とらえがたいものの影響により起こる循環がどのように世界に影響を及ぼすのかを見たくて文化芸術に携わっています。2021年は本と展覧会をつくる予定です。2020年はWeb版美術手帖とFASHIONSNAP.COMで連載をしていました。

25周年記念「山沢栄子、岡上淑子、石内都 2021」

会期:2021年7月10日(土)〜8月7日(土)*7月27日(火)に展示替え

会場:The Third Gallery Aya

時間:水〜金曜12:00〜19:00、土曜12:00〜17:00 *火曜アポイントオンリー 

休廊:日・月曜日

問合:info@thethirdgalleryaya.com

https://thethirdgalleryaya.com/

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TEXT: 檜山真有 [キュレーター]
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