「最近どう?」と切り出すことが、ここまでしっくりくる状況があったでしょうか。「このタイミングでどうしてるかな~」という軽い気持ちとソーシャルディスタンスを持って、近況が気になるあの人に声をかけていく本企画。第13回は、大阪・藤井寺にてアサノヤブックスを主宰し、自身も音楽家として活動する高山純さんです。
嫌じゃない週末
2021年6月、藤井寺市・土師ノ里(はじのさと)の歴史ある日本家屋を拠点にスタートしたプロジェクト「アサノヤブックス」。その場所にある古本と古物を販売し、すべて売り切れたら廃業するというコンセプトらしいが、Webサイトを見てもその全体像が掴みきれない。そこで主宰の高山純さんに、どんな想いでこの場所をつくったのか、話を聞きに行ってみることにした。
取材当日はあいにくの雨模様。近鉄・土師ノ里駅を降りると目の前には、鍋塚古墳の墳丘が見える。周辺には土師の里遺跡、林遺跡、国府遺跡があり、古墳も多く点在する地域だ。駅から続くゆるやかな坂道を10分ほど降り、アサノヤブックスに到着。門をくぐってなかに入ると、アーティストの西村昂祐さん、この場所の運営を行う写真家・橋本昇弥さん、そして高山さんが出迎えてくれた。
アサノヤブックスでは初の展覧会が行われており、西村さんの作品が20畳ほどの日本間に展示されている。誰もが知っているような絵画やキャラクターをモチーフに、「デカルコマニー」という手法で転写を繰り返す抽象画だ。作品を見つつ、ぽつぽつとお話を聞いていった。
–––どういった経緯で、西村さんの作品を展示することになったんですか?
高山:西村くんは、近所にあるアーティストランアパートメント「マンションみどり」の住人で、いつもみんなでいるメンバーのひとりなんです。どこかストリート感のある作品がすごくいいなと思って、展示をお願いしました。アサノヤでのはじめての展示です。
–––「いつものメンバー」というのは?
高山:よう遊びに来てくれる、この辺の子らですね(笑)。よくここに溜まって、しゃべったりしています。
西村:この場所自体、よくわからないもの、気になるものがたくさん置いてあって魅力的なんですよね。僕にとっては普通に遊びに来られる場所です。
高山:ここは普通のお家なので、本来、展示場としての役割は持っていません。でも、だからこそ作品を置いてみたらどうなるだろうという期待がありました。アサノヤブックスは2021年6月1日からはじめたんですが、1年弱で存在自体はわりと知ってもらえたんですね。今年は、「展示スペースとしても使えるんですよ」というのも発信していこうと思っています。西村くんの展示を見て、ほかのアーティストにも興味をもってもらえたらいいなと。
西村:僕としてもホワイトキューブのような、展示のために用意された空間以外で展示をしてみたいという気持ちがすごくあったので。お話をいただいたときは「やった!」と思いました。
–––そもそも「アサノヤ」って、どういった場所だったんでしょうか?
高山:僕もすべて知っているわけではないんですが、160年くらい前に建てられた家で、持ち主は公に尽くす人を多く輩出してきた家系だそうです。庄屋さんとか、学校の校長先生とか。ここも、長く地域の中心としてあったみたいですね。こういう大きい家って、このあたりでは住む人がいなくなったら潰してとりあえず駐車場にする。そのあと土地を分割して家を建てるっていうパターンが一般的なんですけど。持ち主の方がそれは望まないということで、土師ノ里でまちづくりをしている人に相談されたそうです。
–––高山さんはどうして関わることに?
高山:僕はこのあたりが地元なんですけど、長く離れていて最近戻ってきたんです。近所にコワーキングスペースができていたので、「なんでもいいから仕事くれ」って言いに行ったら、この場所を紹介されて(笑)。まちづくりに興味があったわけではないんですけど、この家自体に興味がわいたので見せてもらいました。いろいろ話しているなかで、僕がぽろっと言った「ここにあるもん売ったらいいんちゃいます?」のひと言が採用されて。言い出しっぺということもあって、運営に参加することになりました。普通は古本屋でも古道具屋でも、引き取ったものを別の場所で売るじゃないですか。それより、もともとあった場所でそのまま売るほうがいいんじゃないかと思ったんですよね。だからこの棚に並んでいる旅行のお土産みたいなものも、もとはアサノヤの私物ですが、みんな売りもの。裏に値札をつけています。
–––高山さんのアイデアだったんですね。今はおひとりでアサノヤブックスを運営しているのでしょうか?
高山:僕と、カメラマンの橋本昇弥くんでやり方を決めています。少し前にはアンビエントミュージックのイベントをやったりして、思いついたことを好きにやっている感じです。
–––商品の値段はどうやって決めているんですか?
高山:適当ですね。たまに市場価格を見ることもあるんですけど、見合っていないと思ったら安く売ることもありますし、高くすることもあります。
橋本:僕らがかっこいいと思うものは、すぐに売れてほしくないから高くしてますよね。
高山:そうそう。「アサノヤブックス」という名前ではありますけど、僕らは全然目利きではない(笑)。でも、もともとここにあって「いらん」と言われているものばかりなので、いくらで売ってもいいわけじゃないですか。それに市場価格と連動したら、たぶんつまらなくなってしまうんですよ。今は古本屋もネットで平均価格を調べてから値段をつけていますけど、「どうせネットと同じ値段だろう」と思うと、僕は買う気がなくなるので。
–––自分たちの感性で値段を付けたものが売れたり、日常的に人がたむろしていたり、展示やイベントの企画をしたりと、アサノヤブックスではいろいろな活動が起こっていますよね。高山さんとしては、どのあたりに面白みを感じていますか?
高山:それが、自分でも何が面白いのかよくわからないままやっているんですよね……。ただそれも「嫌じゃない」っていうのが自分のなかでは大きくて。ものを売っているとはいえビジネスではないし、特にボランティア精神があるわけでもないし、地域振興に興味があるわけでもない。それなのに毎週末ここに来て、レコードを聞いて、誰か来たら「いらっしゃいませ」と言って、見てもらいたいなと思って家から古本を持ってきたりして……そんなの、好きではなかったはずなんですけど(笑)。自分でもすごく不思議です。
–––ここで活動するなかで変わっていった?
高山:そうそう。変身願望かもしれませんし、もしかすると、いい年になって新しい役割を授かったような気がしているのかも(笑)。
橋本:いろいろやってみて、面白さを発見したこともありますよね。DIYで棚をつくってみたりして。
高山:そんなんも全然やったことなかった。これまでバイトでも「いらっしゃいませ」とか言ったこともなかったのに(笑)。でもせっかくこの場所があるんだから「次はこうしてみよう」と思うし、僕ひとりじゃできないことも形にしていける。そんなの、面白いに決まっていますよね。普通に考えたら、いい大人が1週間のうち2日も押さえられるなんてありえないと思うんですよ(笑)。でも、なぜか嫌じゃない。結局そこに帰結するんですよね。
2022年3月1日(火)、アサノヤブックスにて収録(取材:牟田悠、永江大)
高山さんの「最近気になる○○」
①場所=古墳
若い頃から夜の散歩が好きで、最近は土師ノ里にある古墳近辺を歩いています。昔は本屋も飲食店もなくて、遊ぶところのない場所だと思っていましたが、戻ってきてから細かいところまで見るようになりました。近所にある古墳の名前も、未だによくわかっていないんですけど(笑)。でも夜にそのまわりを歩いていると、めっちゃ気持ちいいんですよ。季節って、夜からやってくる気がします。昼間は冬みたいでも、夜はもう春になっていたりする。そういうのを、古墳のまわりではすごく敏感に感じるんですよね。雨のにおいとか、湿気をたっぷり含んだ土のにおいとか、そういう古墳独特の情感があると思っています。
②もの=石棺
近所にコンビニがあって、そのすぐ裏の土地で長いこと発掘調査が行われているんです。聞いた話によると、ある前方後円墳の端っこにあたる場所らしいんですけど。そこに、ブルーシートに包まれた石の棺がずっと放置されてるんですよ。その周りで、コンビニの客が夜中にめちゃくちゃ騒いでたりするんですけど。そんなん、放置してていいの……?ってずっと気になっています。南河内は歴史的なものがいくらでもあるから、住民はそれに対して鈍感になっているのかもしれません(笑)。