「最近どう?」と切り出すことが、ここまでしっくりくる状況があったでしょうか。「このタイミングでどうしてるかな~」という軽い気持ちとソーシャルディスタンスを持って、近況が気になるあの人に声をかけていく本企画。第17回は、9月にクリエイティブセンター大阪にて、過去最大規模の個展を控えるアーティストの林勇気(はやし・ゆうき)さんです。
北加賀屋での時間について〜五味箱会・番外編〜
ここ数年、ユニット「あなたがほしい」(アーティストの林勇気くんとデザイナー・プロデューサーの後藤哲也さん、キュレーターの小林公さん、そして筆者植松によるプロジェクト)のメンバーで定期的に集まっていた五味箱会がコロナ禍で延期になっていた。たまたま通っていたお店の名前が、五味箱という名前で、いつしかそのまま会の名前になっている。そんななか、メンバーの林くんが、大阪市住之江区にあるアート複合スペース、クリエイティブセンター大阪(以下、CCO)で9月に、これまでで最大規模の個展をするというので、近況を聞いてみた。
はじめて林くんの作品を見たのは、2009年、大阪のアートコートギャラリーに出品していた《landscape》。以来、13年の時を経て、興味の方向はどこへ向かっているのか。このインタビューで、あらためて林くんの活動の歩みを、現在を起点にして振り返ってみたい。
——最近どう?
林:元気にしてるよ。植松くんとは比較的よく会ってるね(笑)。早くマスクを外せたらいいなあ、と思ってる。ここのところ空き時間はずっと制作してる。
——ほんと、コロナもなかなかスッキリしないね。林くんは、ここ数年、本当にたくさんの展覧会に参加してる印象だけど、そんな状況も踏まえて興味や生活、制作態度で変わってきたところとかある?
林:まず、仕事以外で関西から出なくなった。積極的に人に会わなくなったかな。そういう人は多いと思うけど。ビール以上に好きな飲み物はないけれど、お酒の量も随分と減ったし、この1年くらい抹茶味の飲み物とかお菓子に凝ってる(笑)。環境のこと、政治や経済のこと、戦争のこととか考えると、これからどうなるんだろうという不安もあるし、結構息が詰まるから、北加賀屋のスタジオ(Super Studio Kitakagaya)があって良かったなって。
——北加賀屋のスタジオが気分転換になってるってこと?
林:ホーム感があってほっとするかな。スタジオ以外では、日常的に制作する人たちや雰囲気にそんなに接しているわけじゃないから。制作する場や空気感をほかの作家と共有するのっていいなと。そういう意味で、共同スタジオでは、貴重な時間と体験をさせてもらってる。ユニットのみんなで行ったデュッセルドルフのレジデンスや、香港の展示も刺激的だったし、また行きたいね。
——まさに美術って、人や社会のさまざまな関わりから、モコモコ出てくる空間のようなものだと思ってたけど、一方で、社会が閉塞的な状況になっても自然発生的に生まれてくることがわかって、興味深い。こもってるという林くんも、今まで最大規模の個展をするっていうしね。
林:ほんと。今回の企画は、北加賀屋で制作、活動していて、北加賀屋で何かやりたいなと思うようになったのが最初で。展示するなら場所はどこがいいかなと考えていて、北加賀屋を象徴するようなところで、展示としても作品としてもチャレンジしたかった。いろんな意味でハードルの高い場所でやりたいなと思っていてCCOにできないかなと。1年ちょっと前、おおさか創造千島財団の木坂さんにお話しして、そこから動き出した感じ。
——まさに、コロナが騒がれはじめた頃。個展は、新作? それとも回顧展的な展示になる?
林:5作品の新作といくつかの過去作で構成する予定。完成度は一旦横においといて、未整理な状態かつ実験的で、今後の作品や活動の方向性を示せるようなものができたらいいなと思ってる。展覧会を通して、ひとつの映画を観るような体験にしたくて。
——新旧の作品を混ぜて、新たな作品体験をつくるっていうのは、ある意味キュレーション的だし、長い時間かけて撮影した写真から選び出す、写真家の写真集をつくる作業にも似てる気がして、ワクワクするね。いわゆる美術館とかのグループ展ではなく、作家自身が自分の作品だけで、これまでと違った作品の見え方、視点、違った意味を提示できるとすると、もう新作、旧作という垣根はなくなりそう。
林:最近の関心事である「映像」や「データ」のあり方と、北加賀屋での経験が結びついた作品を今、制作してる。スタジオに入って過ごした期間とコロナ渦が同時期なので、そのときに感じたことだったり、うまく言葉にできないけれど、その時期の北加賀屋の景色や雰囲気だったり。また、スタジオからオンラインで他者とやりとりすることが多かったけれど、スタジオの入居者とは時々会って話ができたし、最初期の入居者の野原万里絵さん、前田耕平さんと交換日記的な共同制作の試みをしたことも良い経験になった。そういったことを要素に、映像が内包している複数性や流動性、真偽性といった本質的なもの——コピーすることが保存に結びつき、最新のフォーマットに更新していくことで再生できる状態を担保し、撮影・編集する過程において真実や虚構が混ぜ合わされることを、静かだけど大きく揺れ動いた日常に織り込んだり、対比させたりするように描きたい。
——林くんの作品は、自身で手がけたデジタルデータだけで成立させずに、一般の方から集めた写真だったり、どこか現実に紐づいたアナログな温度感が残ってるのが魅力だよね。昨年の京都での個展でも感じたけど、今話に出た経験や誰かの体験といったことへの興味がより濃くなってきてるのかな。
林:もともとそういうことに興味はあったんだけれど、より強く興味をもつようになった。先ほど話した映像の本質的なところと結びつくものだと思うし。以前から、『ワンダフルライフ』や『20世紀ノスタルジア』『パリ・テキサス』『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』などの映画や、「映像の映像 -見ること」「リフレクティング・プール」などの美術作品に見られる映画内映画(映像内映像)とか、画中画とかにすごく関心があったんだけれど、そことも結びつくかなぁと考えてる。これまでも、一般の方から写真を集めて、画面のなかに画面(写真)が無数にある、1つの画面に複数のイメージが入っている作品を多く手がけてる。
——クラインの壺のような空間が、映像の空間内に存在してるということ?
林:うん。さらに今回の作品と展示内容も、映像と映像とが複雑な入れ子構造になりながら連関している。メタバース的に! 具体的には、2階に展示する新作《Our Shadows》が起点になり、3階に展示されている新作と過去作とリンクし響き合って、4階の作品につながっていくような流れをつくろうと思っていて。1回観ただけでは伝わりにくいかも(笑)。あと、開場してすぐの時間帯には、映像は立ち上がっていなくて、30分くらいかけて徐々に電源を点けていって作品が観られるようになる。閉館前には徐々に電源を落としていって、最後に蝋燭を灯して、火が消えるまでの時間と光をお客さんと共有するという試みも。
——とすれば、映画のように感じてほしいという展覧会は、まさに時間とともに体験する映画内映画のような空間になりそうだね。
林さんの「最近気になる◯◯」
①動画=旅ものや食べ歩きもののYouTube
「犬と歩く京都」「おのだ」「SHIORI IN VANCOUVER」「しおりのなんとなく日常」「しげ旅」「スーツ 旅行」「ドイツで生きる Nobana」「Mark Wiens」など。生活圏外から外に出づらくなったので、YouTubeで国内外の旅行ものや食べ歩きのVlogを観ていました。はじめはカメラワーク、編集、語りなどが新鮮で、休憩中にしばしば鑑賞。みなさん、それぞれにいきいきと充実した時間を過ごされていて、ちょっとまぶしくうらやましいです。でも、今はちょっと飽きてきて、作業しながらラジオ代わりに音を流して聞くことが増えてきました。
②食=抹茶味の飲み物やお菓子
ビールとコーヒー、紅茶以外のもうひとつの選択肢になるかなと思って、抹茶ラテを飲みはじめました。甘さが控えめの抹茶ラテや抹茶ゼリー、抹茶チョコレートが特に気に入っています。おすすめのところがあれば教えてください。
会期:2022年9月8日(木)~11日(日)、 15日(木)~19日(月・祝)
会場:クリエイティブセンター大阪(CCO/名村造船所大阪工場跡地)
時間:12:00~18:00
※本展の演出として、開館後に順次、映像機器を立ち上げ、30分ほどで全展示作品を観られるようになります。また閉館30分前より徐々に機器の電源を落とし、最後は蝋燭の灯火のみのなかで鑑賞者と余韻を共有します
入場:無料
主催:一般財団法人 おおさか創造千島財団
助成:公益財団法人朝日新聞文化財団、公益財団法人花王芸術・科学財団、公益財団法人野村財団
協力:千島土地株式会社、株式会社名村造船所
関連プログラム
林勇気の制作場所であるSuper Studio Kitakagaya(SSK)にて、ゲストを迎えたトークを実施
日程:
・9月10日(土)松谷容作(追手門学院大学 社会学部教授)
・9月17日(土)小林公(兵庫県立美術館 学芸員)
・9月18日(日)木坂葵(おおさか創造千島財団 事務局長)時間:18:30~19:30 ※予約不要、無料