本特集では、ドキュメンタリーとフィクションの関係やその境界について向き合いました。それは、「事実」「作為」「理解」というような言葉の定義や、それらに付随する葛藤の輪郭をなぞっていくような作業であり、あらためてドキュメンタリーとフィクションの境界というものがいかに流動的で、相互的関係にあるかを感じています。 人が食べるという行為をインタビューを通して観察・分析してきた独立人類学者の磯野真穂さんとの対談では、他者を理解することについて言葉を交わしました。また、現代フランス哲学、芸術学、映像論をフィールドに文筆業を行う福尾匠さん、同じく、映画や文芸を中心とした評論・文筆活動を行う五所純子さん、そして、劇団「ゆうめい」を主宰し、自身の体験を二次創作的に作品化する脚本&演出家・池田亮さんの寄稿では、立場の異なる三者の視点からドキュメンタリーとフィクションの地平の先になにを見るのかを言葉にしていただきました。 対岸の風景を可視化していくこと、まだ見ぬ世界を知覚すること、その先に結ばれた像が唯一絶対の真実から開放してくれることを信じて。そして、今日もわたしは石をなぞる。 小田香 Kaori Oda ー 1987年大阪生まれ。フィルムメーカー。2016年、タル・ベーラが陣頭指揮するfilm.factoryを修了。第一長編作『鉱 ARAGANE』が山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波部門にて特別賞受賞。2019年、『セノーテ』がロッテルダム国際映画祭などを巡回。2020年、第1回大島渚賞受賞。2021年、第71回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。
Co-dialogue
2019.10.08
#水野勝仁#金氏徹平#ARCHITECTURE#ART#DESIGN#GRAPHIC#STAGE#DIALOGUE

メディアと人の関わり、そこから生まれるもの 1/3|対談:水野勝仁[メディアアート・インターフェイス研究者]× 金氏徹平[美術家]

文: 永江大[MUESUM] / 撮影: 成田舞[Neki inc.]

メディアやインターネットに関わる技術・道具が日々更新され、同時にそれらを介して人の認識・行為も変わりつつある現在。そのなかで、個人が社会において完結した存在となるのではなく、個が活きる/生きるあり方を、素材・人・道具・作品などを広義に含むメディアを活用しながら考えていくこと。そして、自らと異なるものとの関わりを通して、オルタナティブな価値観・美意識を見出していくこと。今回のCO-DIALOGUEでは、「メディアと人の関わり、そこから生まれるもの」をテーマに、インターフェイス研究者・水野勝仁氏、美術家・金氏徹平氏にお話いただきました。

【2019年3月発行『paperC』no.017「CO-DIALOGUE」掲載】

メディアと人の関わり、そこから生まれるもの 1/3|対談:水野勝仁[メディアアート・インターフェイス研究者]× 金氏徹平[美術家]

人とコンピュータが重なる時代の、ものの考え方・関わり方

金氏:僕はコラージュという手法を起点に、イメージやもの、人、技術をつなぎ合わせ、平面・立体・映像・演劇など、多種多様なメディアで作品をつくっています。水野さんは、普段どのような研究をされているんですか?

水野:僕は、「コンピュータと人の共進化」を軸に、ユーザーインターフェイス(UI)【1】やメディアアートといった分野を研究しています。スマートフォンが普及した今、コンピュータを気軽に持ち運べるようになりました。特権的な人だけでなく、世界中の人たちが日常的にコンピュータを使えるようになってきた。それはまさに、コンピュータと人が一緒に進化していくような状態なのかなと考えています。

金氏:興味深いですね。もう少しお聞きしたいです。

水野:UIにまつわる、使いやすさの歴史だけではなく、歴史を辿ってみるというのがひとつです。たとえば、ダグラス・エンゲルバート【2】やアラン・ケイ【3】といった、デスクトップ型コンピュータの原型をつくったような人たちが、当時どんなことを考えていたのか、彼らが書いた文章から考察したり、思想の流れを追ってみたり。また現在で言えば、AppleのUIデザイン、Googleのマテリアルデザイン【4】に代表されるデザイン思想を取り上げ、デバイスと人の関係を探ることも試みています。さらに、メディアアートの文脈では、作品を通して「コンピュータとは何か」という根本の問いを、改めて、考えています。これは論文執筆というよりは、同時代のアーティストへ向けて、作品体験について書き連ね、記録していくような感覚ですね。

金氏:なるほど。最近、ものと情報との関係が劇的に変化していると感じていて。僕らの世代だからかもしれませんが、情報やイメージも“もの”として扱う感覚がある。「ものそのものの存在」と言ってしまうと、1960~70年代のアーティスト【5】による言説とそんなに変わらないように見えるかもしれません。でも取り扱う“もの”の幅も広がっているので、何を“もの”と呼ぶかという点では少し違うのかなと思います。ただ僕の場合、新しいテクノロジーには疎く、どちらかというと時代についていけずに、こぼれ落ちてくる部分を拾い上げるほうが多いですね。

水野:たとえば、どんなことですか?

金氏:小さい頃に集めていたけれど手に入らなかったものが、メルカリやヤフオクで簡単に手に入ってしまう感覚とか。昔のものを入手するために、新しいテクノロジーやサービスを使うギャップ、そういった人と技術のやぼったい関係のほうがしっくりくるなと思っていて。

水野:なるほど、そのやぼったさは重要ですよね。さっき、人とコンピュータが一緒に進化するという話をしましたが、マウスの発明者であるダグラス・エンゲルバートは、それを「共進化」【6】という言葉で表しています。人がコンピュータに何かをさせると、それによってコンピュータの処理スピードが上がるだけでなく、人間の知能も増強していく。ダグラス・エンゲルバートの時代までは、ある程度エリート向けの道具だったけれど、今やコンピュータは、いろんな人に寄り添う存在になっている。そして、形状もどんどんシンプルに削ぎ落とされていますね。

金氏:そうですね。でも作品をつくるにあたっては、まだ直接的には、コンピュータと関わることはできないなと考えていて。もちろんGoogle検索の仕方や画像編集ソフト・Photoshopの使い方など、アプリケーションのレベルだと、楽しめることは徐々に増えてきました。ホームセンターをうろうろしながら、本来の用途を知らない、よくわらかない道具やかたちを探し出して楽しんでいるときの感覚に近い心持ちで、間違った使い方を楽しめるようになってきた。

水野:人間がこれまでやってきた営みと、コンピュータって、結びつきが弱いというか、慣れるまでにまだ時間がかかるように思いますね。いや、今後も慣れないかもしれない。そう考えると、ホームセンターで並ぶ商品群は暮らしに近いし、いろんな用途に開かれていますよね。

金氏:海外で展示することもあって、よくホームセンターを巡るんですが、その国の状況や文化がよくわかるんです。ホームセンター自体は、すごく前時代的で、一般の生活者が自由にものづくりに関われる仕組みを提供する場所であり、自分で何か修理したり、家具を組み立てたり、DIYするための材料や道具が揃う場所でもあります。一方で、仕組みが発達すれば発達するほど、商品棚に並んだもののなかでしか自由を得られない。そこに、また矛盾が生まれてきます。僕は、自由と経済、都市と人間のような、ある種、対立する構造がせめぎあう場として、ホームセンターをとらえています。

水野:金氏さんの作品は、ものの持つ機能やその場にある必然性のようなものを取り払ったところから生まれているように思います。その点で、作品の素材を探すには、ホームセンターは、うってつけの場所かもしれませんね。

金氏:そうなんです。店員さんさえも用途を把握していない商品もあって。「これ、何に使うんだ?」みたいな(笑)。コラージュの面白さというのは、自分で描けないイメージや思いついていなかったものがすでに存在していて、それをさまざまな文脈から切断して、貼り付けるだけで、ぽんっと自分の手のなかに収まってくるところにあると感じています。同様に、人との協働においても、自分に足りない部分があるからこそ、そこに人が接続されていく可能性がある。そして、すべてをコントロールして自分で選ぶのではなく、ある意味、助けてもらうし、行き過ぎれば自分の作品でなくなってしまう可能性も受け入れないといけない。“足りていない”を自覚することがすごく面白いんじゃないかなと考えています。

【1】ユーザーインターフェイス(User Interface, UI)

コンピュータを扱う際に、利用者が情報を受け取ったり入力したりするための仕組み。たとえば、キーボード入力のみでコンピュータを操作する「CUI」、ディスプレイ上のカーソルをマウスで動かし、文字入力をする「GUI」などの種類がある。

 

【2】ダグラス・エンゲルバート(Douglas Carl Engelbart)

1925年生まれ、2013年没。初期のコンピュータやインターネットの開発に関与したアメリカ合衆国の発明家。特にヒューマンマシンインターフェイス分野の開発で知られ、マウスを発明したほか、ハイパーテキストやネットワークコンピュータ、GUI(グラフィカルユーザーインターフェイス)の開発に寄与する先駆的な業績を残した。

 

【3】アラン・ケイ(Alan Curtis Kay)

1940年生まれ。アメリカ合衆国の計算機科学者、教育者、ジャズ演奏家。オブジェクト指向プログラミングとユーザーインターフェイス設計に関する初期の功績で知られる。1960年代に個人の活動を支援する「パーソナルコンピュータ」という概念を提唱し、パーソナルコンピュータの父とも称される。「コンピュータ・リテラシー」という言葉の生みの親でもある。

 

【4】マテリアルデザイン(Material Design)

Googleが2014年に発表したデザインのフレームワーク。新しいUX(ユーザーエクスペリエンス)デザインの体系として、どのデバイスでもわかりやすい操作性を実現するために、現実世界の物理法則を踏まえたデザインが目指されている。現在 Googleが提供する大半のサービスに適用されているほか、一般の利用者も増加している。

 

【5】1960~70年代のアーティスト

当時の日本のアートシーンは「もの派」の台頭に象徴される。「もの派」とは1960年代末~1970年代初頭に現れた、「具体」と並ぶ戦後日本美術史の主要動向。主に木・石・紙・鉄といった素材をほぼ未加工のまま提示することで、ものとの関係を探ろうと試みた一連の作家を指し、特定のコレクティブは存在していない。

 

【6】共進化(Co-evolution)

複数の生物が、寄生や共生、競争関係などの相互作用を通じて互いに進化していくこと。虫媒花の構造と、昆虫の口器の形態の進化などがその例とされる。ダグラス・エンゲルバートは研究室に“bootstrapping strategy”という一連の原則を掲示していたが、そのなかに「共進化を加速させる:人間と道具を共進化させ、両者間の共生関係を構築し、試行錯誤しながら先を見越して発展させることに積極的になろう」という一節がある。

 

【comment】《tower(THEATER)》

2017年に自身のドローイング、映像作品を舞台化し、これまでロームシアター京都、六本木ヒルズアリーナで上演されました。ドットアーキテクツと制作した舞台美術をもとに、多様なジャンルのアーティストとの共作の積み重ねで構成されています。(金氏)

記事2/3へつづく|「メディアと人の関わり、そこから生まれるもの」2/3|対談:水野勝仁[メディアアート・インターフェイス研究者]× 金氏徹平[美術家]

プロフィール:

水野勝仁[メディアアート・インターフェイス研究者]

1977年生まれ。名古屋大学大学院情報科学研究科博士後期課程修了(博士・情報科学)。メディアアートやネット上の表現を考察し、「インターネット・リアリティ」を探求。同時に「ヒトとコンピュータの共進化」という観点から、インターフェイスの研究も行う。

 

金氏徹平[美術家]

1978年生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。京都を拠点に活動し、主にフィギュアや雑貨など、日常的な事物をコラージュした立体作品、インスタレーションを制作。表現形態は絵画や写真、映像にも及び、2011年以降は舞台美術も手がけている。

 

収録日:2019年3月4日(月)

場所:金氏徹平氏のアトリエ[京都府京都市]

 

参考文献:

・『 【新版】UI GRAPHICS ―世界の成功事例から学ぶ、スマホ以降のインターフェイスデザイン』(ビー・エヌ・エヌ新社/2018年)

「メディアアートの輪廻転生」展 Webサイト

・ 監修:丸亀市猪熊弦一郎現代美術館『金氏徹平のメルカトル・メンブレン』(ナナロク社/2016年)

・ 金氏徹平とtheconstructions『tower(THEATER)』(SHUKYU+ 金氏徹平/2018年)

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