大阪・此花区の住宅地にある一軒の倉庫付き住宅を改装・活用した本展は、梅田哲也の近年の活動のなかでも、彼がもつ創造転生の力をあらためて浮かび上がらせる機会となった。展示は「個展」であると同時に、本人のスタジオを含めた公開でもあり、作品や素材、制作の痕跡が混在する空間そのものが、鑑賞の対象としてひらかれていた。


会場には、過去の作品に使われた道具や素材、未使用の部品などが壁一面の棚に整理整頓されて保管・陳列されていた。どこまでが展示で、どこからが作業中の空間なのか、その境界は曖昧で、過去の梅田作品で見た記憶のある動作物や照明たちは、次の出番を待つ役者のようにも見えた。






展示にあわせて実施された美術家の川俣正との対談イベント(*)で、梅田から意見を求められた私は、「梅田さんの仕事は非効率で、効率がいい」と発言した。一般的な経済倫理の視点では非効率と見なされるような構造が、空間の使われ方や関係性、時間の層のとらえ方においては、むしろ極めて理にかなった方法として機能していると感じたからだ。それに対し、川俣さんは「そう感じるのは、梅田さんはセンスがいいからじゃないかな」と返した。
「センス」とは何か。水が高所から低所へと流れる際、その流れを阻害せず、むしろ加速させるように設計・配置する力。素材や空間、記憶や生活の痕跡を過剰に操作することなく、最小限の介入で最大限の効果を引き出す判断力。それが、梅田の現場的な構築力における中核だと考えている。今回の展示では、高槻芸術時間「インタールード」で彼と協働したときに私が感じた、構造と偶発性の同居、素材と出来事の関係性がさらに拡張されていた。その接続する力と、構造を読み取り最深に触れる力が、梅田哲也の「センス」なのかもしれない。
トークイベントの最中には、梅田が自作した濾過装置で処理した淀川の水がふるまわれ、「自己責任で飲んでください」と来場者に促された。試飲してみると、予想外に強い塩味があった。原因は、濾過に使用された砂利の一部に、物件の工事で使われた塩分を含む資材が混じっていたことにあった。飲料水としては不適切な結果だったが、このエピソードも、どこか梅田らしいエピソードと感じている。改良された濾過装置で生成された水を、いつかまた喉に通すのが今から楽しみでもある。



とりわけ印象的だったのは、梅田が異なる時間のスケールをひとつの空間に配置していた点である。奥能登国際芸術祭への出品を機会に出会った能登の材木屋と協働して、いわゆる一般的な製材方法ではない「木」そのままの造形を採用して床材として敷き詰めたり、かつての浴槽を屋上の植栽スペースの花壇に転用したりといった構成は、生活の痕跡と物質の経年変化を取り込みながら、「時間のストラクチャー」として空間を構成していた。会場前の空き物件には、シルクスクリーンスタジオ&ショップ「ふつか」の運営がはじまり、周辺の都市環境との関係も設計に組み込まれていた。

本来つながらないとされる複数の点を、非効率で効率的に接続する──そのような力を、梅田は作品制作において発揮している。空間と空間、素材と意味、過去と現在、予定と偶発、イメージとエラー。それらをひとつの現場において構造的に扱う力が、彼の実践の核にある。
「非効率で、効率がいい」とは、遠回りに見えるプロセスのなかで構造と思考を深めていく方法論であり、それこそが、いくつもの「時間のストラクチャーを歩く」という今回の展示で実際に体験されたことだった。
山城大督 / Daisuke Yamashiro
美術家・映像作家。映像の時間概念を空間やプロジェクトへ応用し、その場でしか体験できない〈時間〉を作品として展開する。2006年よりアーティスト・コレクティブ「Nadegata Instant Party」を結成し、全国各地で作品を発表。また、山口情報芸術センター [YCAM] にてエデュケーターとして、オリジナルワークショップの開発・実施や、教育普及プログラムを多数プロデュース。近年は映像や音、光、家具を配置する上演型インスタレーションを制作している。近年の主な展覧会に、「Homō loquēns 『しゃべるヒト』――ことばの不思議を科学する」国立民族学博物館(2022、大阪)、山城大督展「パラレル・トラベル」高鍋町美術館(2019、宮崎)など。梅田哲也氏が出品した『高槻芸術時間「インタールード」』(2022年、主催:高槻市、公益財団法人高槻市文化スポーツ振興事業団 企画:京都芸術大学アートプロデュース学科)ではアーティスティック・ディレクターを担当した。Twelve Inc. 代表取締役。

水門(みなと)
出展作家:梅田哲也
会期:2025年3月20日(木)〜31日(月)
受付場所:ふつか ※受付場所にて会場を案内
時間:平日(月〜金曜)15:00〜18:00/土・日・祝 13:00〜18:00
料金:入場無料
主催:株式会社POS建築観察設計研究所
助成:公益財団法人 福武財団関連イベント
日時:2025年3月29日(土) 18時〜20時
出演:川俣正、梅田哲也そのほか、会期中、シルクスクリーンスタジオ&ショップ「ふつか」において、創作にまつわるあれこれを話すトークライブ『たまり』を不定期で開催