1960〜1970年代にかけ、安保闘争や学園闘争、三里塚闘争(新東京国際空港建設への地域住民による反対運動)と、権利にあらがう人々の姿を自主製作・上映し、時代の渦中を生きた若者に大きな影響を与えた映画作家・小川紳介。1992年2月7日に逝去した彼の没後30年を機に、これまでの作品を振り返る特集上映「小川紳介と小川プロダクション」が、2022年2月5日(土)より、シネ・ヌーヴォで開催中だ。
1960年代半ば、小川が契約していた岩波映画製作所を離れ、通信教育制度改定反対闘争のなかで、学ぶこと、働くことを問い直した通教生の姿を追った初監督作『青年の海 四人の通信教育生たち』。そして、三里塚で農民とともに生活しながら闘争とその背景をとらえたシリーズ7作。さらに、「土にこだわる農民の真の姿を撮るためには、自ら土にこだわらざるをえない……」として山形県上山市牧野に移り住み、住民との13年もの共同生活を経てつくり上げた最高傑作『1000年刻みの日時計 牧野村物語』、のちにシネ・ヌーヴォ建設にあたった劇団・維新派主宰の松本雄吉を棟梁に、同作専用の映画館「千年シアター」を手がけた若者たちを写した『京都鬼劇場・千年シアター』。これらをはじめとする19の作品群からは、小川自身、また彼と製作をともにした仲間の、映画への情熱と人生を垣間見ることができるだろう。
本企画では、小川プロ元スタッフだった福田克彦が、三里塚から山形へと映る時期を撮影した『映画作りとむらへの道』など、プロダクションの活動を俯瞰的にとらえる特別上映も実施。また、小川の命日となる2022年2月7日(月)には、監督最後の著作となる『幻の小川紳介ノート〜1990年トリノ映画祭訪問記と最後の小川プロダクション』(発行:シネ・ヌーヴォ/発売:株式会社ブレーンセンター)も出版される。
小川紳介没後30年上映にあたって
60年代末から70年代にかけて、小川プロはとてつもなく大きな存在でした。「運動=映画」を自主製作・自主上映の形で実践し、当時の若者にとって「生きていくための指標」(原一男)が小川プロそのものでした。社会を変革したい、そんな思いの若者たちが小川プロの「三里塚」作品を待ち焦がれ、やっと見れた際は熱くスクリーンに向かって「異議なし!」を連呼。国家権力に向かって立ち上がる学生・農民を、荷担する立場から撮り続ける彼らは、表現行為の意味を実に鮮明に提示し、小川プロの存在は映画ファンはもとより生き方を模索していた学生・市民の間に大きく影響を与え、そしてその名は世界に知られるようになっていきました。
70年代末、シネ・ヌーヴォ前身の自主上映時代に、京都の今はなき京一会館を借り切ってオールナイトで「三里塚」シリーズ全作品上映を開催。「70年代への総括」の上映会のつもりが、小川プロとの関係の出発点となりました。「農民の心を描くためには、自ら農民になるしかない」と三里塚から山形に移った彼らは、ついに83年『ニッポン国古屋敷村』を発表。その関西上映を引受け、それが84年の「映画新聞」創刊につながりました。その紙面で山形での総決算となる作品に向けての製作ルポを連載。それから2年後、ついに待ち望んでいた『1000年刻みの日時計〜牧野村物語』が完成。小川プロのスタッフたちが、山形・牧野での13年もの合宿生活のうえに生まれた、世界映画史にも類を見ない奇跡の作品を創りあげたのです。その上映のために京都で造った土と藁と丸太で出来た専用映画館「千年シアター」(建設・維新派)は、まるごと映画の世界がそのまま運ばれてきたかのような空間の劇場でした。
その後、小川監督は各地を回り、新たなスタッフ作りに奔走。また89年に始まった山形国際ドキュメンタリー映画祭は小川監督の発案で始まり、我々小川プロの映画を上映してきた各地の自主上映グループがこぞって協力。また、小川監督から数々の映画のこと、そして人生を、“志”を教わりました。
92年、小川監督の突然の死去は、本当にショックでした。「映画新聞」で全作品批評、また『小川紳介を語る』などを発行。そして、「千年シアター」から10年後、市民出資を得て、同じ松本雄吉さんが棟梁の「シネ・ヌーヴォ」がオープンしたのは97年のことでした。小川監督没後10年、20年と全作品上映を開催。2022年の没後30年を迎えるにあたり、この度に発見された91年の小川監督のトリノ映画祭レポートを基にした『幻の小川紳介ノート〜1990年トリノ映画祭訪問記と最後の小川プロダクション』を出版し、併せて全作品上映を行います。大好きな、そして志に溢れた小川プロの作品を、皆さんに見ていただきたいと思います。
シネ・ヌーヴォ代表 景山理
(シネ・ヌーヴォWebサイトより)
期間:2022年2月5日(土)〜3月4日(金)
会場:シネ・ヌーヴォ
料金:前売/1回券1,200円、5回券5,000円、当日/一般1,500円、学生・シニア1,100円、会員・高校生以下1,000円、5回券6,000円、シニア5回券5,000円、会員5回券4,500円
問合:06-6582-1416
※上映スケジュールはシネ・ヌーヴォWebサイトを参照
※全席指定
※オンライン予約の場合は専用窓口で発券、当日券は当日窓口で指定席を選択し購入。開始10〜15分前から入場可能
関連イベント
対談
日時:2022年2月7日(月)『満山紅柿』12:20上映回後
登壇:上野昻志さん(映画評論家・批評家)×影山理(シネ・ヌーヴォ代表)
大阪市西区九条1-20-24