神戸を拠点に活動する美術家・飯川雄大（いいかわ たけひろ）の作品を紹介する展覧会「デコレータークラブ―未来のための定規と縄」が、鹿児島県にある野外美術館「霧島アートの森」にて開催される。キュレーターは、山中suplexプログラム・ディレクターとしても活動するインディペンデント・キュレーターの堤拓也。

本展のタイトルでもある〈デコレータークラブ〉は、飯川が2007年から継続しているシリーズの作品で、世界中の海に生息し、周辺の環境に合わせて海藻や小石を身につけて姿を変える蟹（Decorator Crab）から着想した名前。かねてより飯川は、この擬態する蟹を発想の原点に、何かわからないものを見つけた時の驚きを他者に伝えることの難しさや、それと関係なく生まれた解釈、思いもよらぬ誤解をポジティブに捉え制作してきた。認識と現実の間にあるズレを可視化しながら、その場と鑑賞者の関係を扱った新たな体験を提案している。
本展で発表する新作《デコレータークラブ―未来のための定規と縄》は、室内に設置されたハンドルを回すと目の前の縄が反応し、美術館のどこかで新たな事象が現れるインスタレーション作品《デコレータークラブ―0人もしくは1人以上の観客に向けて》（2019年〜）を発展させたもの。延べ684平米にもなる霧島アートの森アートホール全体を使う大規模な作品で、鑑賞者が壁や天井、地面などから伸びている縄を直接触ったり引っ張ったりすることで、思いもよらない出来事に繋がっていく。

また、霧島アートの森の屋外エリア（約13ヘクタール）には、草間彌生、アントニー・ゴームリーなど現代美術作家の作品23点の常設展示があるが、特別展示としては開館以来はじめて、屋外広場にも飯川作品（新作1点、旧作1点）を設置。
新作《未来猫のための定規（仮）》は、かつて自身が構想した400mにも及ぶ《ピンクの猫の小林さん》を実際に想像してみるための道具。園内の端から端まで伸びる長さ400mのインスタレーション（=定規）をきっかけに、全容を決して捉えることができない猫の存在に思いを馳せる。また2022年度に彫刻の森美術館（神奈川県・箱根）に展示され話題を呼んだ高さ15mの《ピンクの猫の小林さん》も再び登場する。

そのほか、誰かの忘れ物かのような《ベリーヘビーバッグ》（2010年〜）など、飯川が継続して発表している作品も織り交ぜて展示される。
なお、大阪の国立国際美術館と神戸の兵庫県立美術館の展示室の間を、観客が「ベリーヘビーバッグ（重いカバン）」を持って移動した飯川の作品《デコレータークラブー新しい観客》（2022年）については、当メディアのPHOTO REPORTで詳しく紹介しているので、ぜひご覧いただきたい。