2020年8月からはじまった、親子参加のインターナショナル・アート・ワークショップ「Travellin’ @rt School(=T@S/たす)」の第2回目が、インドと日本をオンラインでつないで開催される。インド人アーティストのRuchika Wason Singhを講師に迎え、日本・インドの子どもと保護者がオリジナルの絵本をつくる。
企画したのは、大阪を拠点に活動するアートハブ「TRA-TRAVEL」のメンバーでアーティストのQenji Yoshidaと山本聖子だ。2020年4月のCOVID-19感染拡大防止のための緊急事態宣言を受け、学びの場が減ってしまった子どもたちに創作や学習のきっかけをつくり、また、展覧会の中止や延期などで生活に影響を受けたアーティストに、創作や仕事の機会を提供したいという動機から、2020年4月27日(月)から7回にわたり、「オンライン・こどもアートスクール」を開催。毎回異なるアーティストが先生となり、絵画や造形、身体表現、対話形式など、多様なワークショップを展開した。
「オンライン・こどもアートスクール」は、社会状況の変化を受け6月末で終了したが、場所や距離を超えるオンラインに可能性を感じたYoshidaと山本は、新たなアートスクールとしてT@Sの立ち上げを決意。海外と日本をつなぎ、英語ができない子どもたちでも相互に学べるような、国際交流の新しい方法や可能性を探るプロジェクトを開始した。
ともに海外での滞在経験が豊富な彼らが挑戦する、オンラインという新たな環境での国際交流とはどのようなものだろうか。これまでの経緯や企画にかける想いなどについて、Yoshidaと山本に話を聞いた。
ーーTRA-TRAVELについて、メンバーやこれまでの活動を教えてください。
Yoshida:僕とYukawa-Nakayasuさんが立ち上げて、現在はアーティストの山本聖子さんとリサーチャーのRosaline Luさんの4名がメンバーです。訪日外国人アーティストのトークイベント「Art Traveller」や、アジア圏のアーティストを招いた展覧会「ポストLCC時代の 」、オンラインのプロジェクトなどを行ってきました。
山本:ひとつプロジェクトを決めてメンバーみんなで行うというよりも、誰かが自発的にはじめたプロジェクトを、タイミングや好奇心が重なるメンバーでつくっていく感じです。ただ、これまでいろいろな国や地域で活動を行ってきたという背景は、メンバーに共通してあるので、国境を超えた視点から地域や現象を考えたいという気持ちは、プロジェクトに表れていると思います。
ーー緊急事態宣言を受けて、すぐに「オンライン・こどもアートスクール」を企画されましたが、立ち上げの経緯や、実施してみた感想をお聞かせください。
Yoshida:僕自身は今年の2月から台湾にいるのですが、緊急事態宣言が出たときは、離れて日本に暮らす自分の子どもの幼稚園入園が延期、周りの子どもたちも突然教育がストップした状態に。「オンライン・こどもアートスクール」は、そのような状況もあって、今すぐできることをしようと集まった有志によりスタートしました。オンラインで何かをするのはみんな初めてで、決まった方法論もなかった。ひとまずワークショップを試してみて、やりながら良い形を探りました。内容自体もひとつのアイデアを続けるのではなく、毎回異なるアーティストを先生として招待し、さまざまなワークショップを行ったので、毎回が挑戦と調整の連続でしたね。当初決めていた全7回を迎える頃になると、緊急事態宣言も解除されていましたし、一般に教育や習いごとのリモート化も進んでいたので、このプロジェクトは一旦終了させました。
ーー今回のT@Sは、どんな想いで企画されたのですか?
山本:新型コロナウイルスの影響により、さまざまな分野でオンライン化が急激に進み、アートの分野でも展覧会やライブ、演劇などがオンラインで開催されるようになりました。コロナと共存する新しい生活様式を受け入れていくしかないという気持ちもありつつ、これまで作家として、素材の特性を読み込んで作品をつくってきた立場としては、大きな戸惑いがありました。
そのなかで、ほんの少しでしたが「オンライン・こどもアートスクール」を手伝いながら、関東、関西、四国や中国地方、北海道や離島など国内の至る地域、また海外からも参加者があったのを見て、オンラインの一番の魅力である「距離を超える」という視点からであれば、私もこの流れに前向きに取り組めるのではないかと思ったんです。私自身、海外に出ることで世界の見え方が大きく変わり、人生が豊かになりました。特にいろいろな土地に住む人たちの宝物のような文化や誇り、譲れない価値観があるのを見たことで、人間って面白いと思うようになって。そこで、Yoshidaくんと話し合い、これまでにお互いがアーティストとして活動するなかで紡いできた人間関係と、オンラインの特性を掛け合わせ、国を超えて交流するT@Sという新しいアートスクールを立ち上げました。
先日、第1回目のオンラインワークショップが終わったばかりですが、そこでは台湾は屏東(ヘイトウ)の泰美(タイメイ)親子図書館と協働し、日本から8名、台湾から8名の子どもたちのワークショップを行いました。1時間で、台湾と日本の位置関係を知り、各文化を紹介し、日本語・中国語の挨拶の練習をし、アートをし、質問コーナーを設けて、と盛りだくさんの内容でしたが、初回としてはまあまあの出来だったように思います。
はじめる前に心配していたのは、通訳にかかる時間。私と台湾側の先生のやりとりは英語で、子どもたちは日本語と中国語です。それを私たちが通訳するので、必然的に子どもたちの待ち時間が長くなってしまうのですが、思っていた以上に集中力も続いていたように感じましたね。また、先生たちがたどたどしい英語で進めていく姿は、英語をすでに学んでいる子どもからは滑稽だったかもしれません。でも、「こんな下手な英語でもなんとかやっている!」というふうにとらえてもらえたらと思い、あえて通訳は入れませんでした。まだまだ課題はありますが、より良いプログラムを目指していきたいと思います。
ーーコロナの影響はまだしばらく続きそうですが、アーティストとして今考えていること、これからやってみたいと思っていることがあれば教えてください。
Yoshida:一個人のアーティストとしては、社会や自分の状況から作品の種が生まれ、制作につながっていくので、コロナ禍だから特別に何かをしよう、したいとはあまり考えていません。ただ、この8月に台北で展覧会があったのですが、それはコロナの影響が色濃く出たものになりました。言っていること、考えていることと、実際に形になるものがちぐはぐなんです。でも、そのちぐはぐさを自覚して進むことがいいんじゃないかなと感じていますね。
山本:コロナの影響が出はじめてから今まで、正直なところ、毎日が戸惑いの連続です。展覧会をするにも人を招いていいのかわかりませんし、制作においても、コロナ禍の社会について考えること抜きに進めるのが難しくなっているのは確かです。とはいえ、初めての状況にいるのだから、この戸惑いは仕方がないし、むしろ大切なものだと思うので、この感覚を整理しすぎずに持ち続け、答えが自然と出るのを待ちつつ、活動を続けたいと思います。
親子参加インターナショナル・アート・ワークショップ T@S vol.2
「Drawing Journey/ドローイング・ジャーニー」日時:2020年11月1日(日)日本時間14:30〜(インド時間11:30〜)※所要時間は60〜90分
場所:オンライン
講師:Ruchika Wason Singh(インド人アーティスト、リサーチャー、アートスペース運営者、学者)
対象年齢:6〜10才前後
定員:日本3組、インド3組(保護者と子どもでの参加必須・予約先着順)
参加費:無料
参加方法:travellinartschool@gmail.com(担当:山本、吉田)宛に保護者の氏名、参加者の氏名(ふりがな)と年齢、電話番号、参加地域を記入の上、10月29日(木)までメールにて申し込み。