言葉にあふれ、読み、書き、話し、聞くことに溢れた今日の都市のなかで可能な「沈黙」の形を探る展覧会「沈黙のカテゴリー|Silent Category」が、北加賀屋のクリエイティブセンター大阪で開催される。
本展を企画したのは、アーティストの布施琳太郎。1994年に東京に生まれた布施は、ミレニアル世代やデジタルネイティブなどと称される世代の感性と問題意識をもとに、東京芸術大学在学時から数多くの展覧会を企画。なかでも新型コロナウイルスの感染拡大によって発令された緊急事態宣言とあわせて行ったオンライン展「隔離式濃厚接触室」(2020)はSNSを中心に大きな注目を集めた。
作品制作のみならずテキストの執筆も数多く行っており、2019年にはiPhoneと洞窟壁画をつなげた超歴史的な視点でアートについて考察した『新しい孤独』で「第16回美術手帖芸術評論募集」への入選を果たすなど、文筆家/批評家としても高い評価を受けている。
今回の発表の舞台は、ワンフロア1200平米にも及ぶ広大な空間を有するクリエイティブセンター大阪。日本の近代化の痕跡が随所に残る名村造船所跡地を活用した複合アートスペースに、国内の若手アーティスト9名の作品が多数展示される。
また、今日のソーシャルメディアのなかで失われた言葉を取り返すための、作品に限らない複数の試みを会場内に配置。入場券として配布される600ページに及ぶ冊子「ブループリント」には、作品解説やドローイングとともに、日本の戦後詩を代表する石原吉郎の『失語と沈黙のあいだ』をはじめとして批評家の黒嵜想、詩人の水沢なお、バタイユ研究者の井岡詩子らによる書き下ろしのテキストも掲載される。また、展覧会の特設サイトは参加アーティストの一人である山形一生が手がけ、ステートメントは美術家で文筆家の肥高茉実が執筆、小松千倫(Madegg)はインスタレーションの制作と並行して音楽制作を行うなど、これまでにない仕方で複数の人々が関わりながら展覧会が作られている点も注目だ。
ハラスメントの温床として指摘されることも多い「トップダウンで人々を集め、指示し、ひとつの空間を占拠する旧来の展覧会」に対して、布施がリサーチを重ねてきたインターネットの可能性を展覧会を通じて表現、これからの文化芸術を担うことになるであろう人々とともに理想的な展覧会のあり方を模索する。
企画概要(文=布施琳太郎)
ソーシャルメディアによって自己目的化したコミュニケーションは目的もなく人々を集め、動かし、そして言葉を奪っていく。芸術実践のすべてがプロセスのなかに拡散し、相互に補完し合うことで、作品がかき消されてしまった。
本展では、クリエイティブセンター大阪(名村造船所跡地)に作品が展示される。それと同時に、入場にあたって頒布される冊子「ブループリント」に掲載される論考や詩、作品解説、ドローイング、そして展覧会告知サイトやグラフィックデザイン、ステートメントに至るまで、それぞれひとつひとつも鑑賞対象とすべき作品として提示される。それらは署名され、名指され、そして完成した形だ。
展覧会に足を運ぶことだけが芸術の体験を成り立たせるのではない。いくつもの異なる時間のなかに身を置く可能性を複数の仕方で維持することこそが、都市のなかに置かれた展覧会の価値なのだと僕は考えてきた。そして本展は今日の都市で可能な沈黙のカテゴリーを、あなたのなかに構築することを意図し、企画された。
沈黙のカテゴリー|Silent Category
会期:2021年3月14日(日)〜28日(日)
会場:クリエイティブセンター大阪
時間:13:00〜20:00
休館:月・火曜日
入場料:500円(ブループリント付き)
問合:rintarofuse@gmail.com(布施琳太郎)
特設サイト:issei.in/silent
ステートメント:肥高茉実
デザイン:八木幣二郎
特設ページ制作:山形一生
展示:小松千倫、鈴木雄大、高見澤峻介、都築拓磨、中村葵、布施琳太郎、三枝愛、宮坂直樹、山形一生
寄稿:井岡詩子、黒嵜想、水沢なお
論考:石原吉郎
映像記録:佐藤友理
写真撮影:竹久直樹
運送:奥祐司
キュレーション:布施琳太郎
大阪市住之江区北加賀屋4-1-55