2025年7月、大阪・北加賀屋のクリエイティブセンター大阪にて開催された、日野浩志郎新作音楽公演『Chronograffiti』が、公益財団法人サントリー芸術財団の第25回(2025年度)「佐治敬三賞」を受賞。2026年9月29日(火)には東京・サントリーホール ブルーローズを会場に贈賞式と記念演奏が行われた。
佐治敬三賞は、サントリー芸術財団が日本で「実施された音楽を主体とする公演の中から、チャレンジ精神に満ちた企画でかつ公演成果の水準の高いすぐれた公演に贈る」もので、2025年度は年度中に開催された音楽公演のなかから選定・審査が行われ、2026年3月に当公演の受賞が決定した。
ここでは、授賞式の配布冊子に掲載された日野の「受賞のことば」を全文掲載する。
音と音楽の境目には、たくさんの「音楽的な魅力」がつまっている。楽器ではないものを楽器として捉えたり、あるいは楽器をいったん楽器として扱うことから離れ、楽器ではないものと同列に考えたりしたとき、新たな可能性の芽が生まれることは少なくない。
私はこれまで非音楽家たちに向けて作曲の授業を行ってきたが、そこではホームセンターへ行って面白い響きを持つものを探したり、録音によって初めて聴こえてくる音を探したりするなど、音探しを起点とした作曲を試みてきた。その授業の中で発見された音と音楽の境界は非常にオリジナリティに富んでおり、それがそのまま優れた音楽作品として発表できるクオリティに直結していくさまを何度も目撃してきた。今回の作品においても、打楽器を既存の楽器としてのみ扱うのではなく、音と音楽のあいだにある曖昧な領域をどのように捉え、どのように作品へと立ち上げていくかは、重要な軸のひとつだった。
しかしながら、これはアカデミア批判をしたいわけではない。今自分たちが持っている経験・技術・アイディアの中で何ができるのかという探求の話である。間違ってもどちらが優れているかという話ではないし、厳格な鍛錬によって獲得される音楽の素晴らしさを否定するものでもない。古い扉を開けるときの音がよかった、波打ち際の音が美しかった、壊れたラジオの音がよかった。それと同様に、バッハのある演奏が素晴らしかった、フランソワ・ベイルの作品をアクースモニウムで聴いた体験が圧倒的だった。そのような音楽的な感動には大小こそあれ、それらは本来別物として切り分けられるものではない。
私はバンドや電子音楽を活動の基盤としながら、2018年から劇場を使った自主制作公演として作曲作品を発表し続けてきた。そのほとんどは経済的にも知名度的にも大阪公演以外の選択肢を持つことが難しく、良くも悪くも大きく知られることも広がることもなく、評価も批判も限られた範囲の中で起こるものでしかなかった。その一方で、いくつかのプロジェクトでは海外公演を重ね、それに伴って海外での評価を得るようになった。それは私にとって大きな希望であると同時に、日本の文化環境に根強く存在する「リスクを負わない」という保守性に対する苛立ちを強める出来事でもあった。
私は、自分自身の興味や興奮を実直に実現していくしかない、というある種の諦めを前提として活動している。だから正直なところ、この佐治敬三賞への応募も大きな期待を抱いていたわけではなかった。長年、多くの人に理解されることを前提としない活動に慣れていた私は、この受賞に本当に驚いた。そして審査員の方々からいただいた言葉に、「私はこのままでいいのだ」と背中を押されるような、救われる気持ちになった。
この作品は、演奏を担った前田剛史さん、芦田かんなさん(旧姓・谷口かんなさん)、安藤巴さん、そしてビジュアルエフェクトを担当した古舘健さんがいなければ、到底実現できなかった。私の実験的な試みに真摯に向き合い、そのアイディアをさらに遠くへと押し広げてくれたからこそ、この作品は私自身の想像を超えたものになった。本来ならばもっと作品そのものについて語るべきなのだろう。しかし私にとって今回の受賞は、一作品への評価という以上に、自分の音楽人生の文脈の中で極めて大きな出来事だった。そして同時に、これからも作曲を続けていくための大きな希望とモチベーションになった。
そのことへの感謝を、ここに記しておきたい。
受賞自体が喜ばしく、また、日野が今後も創作を続けていくための希望をこの『Chronograffiti』に見出していること、それ自体に可能性を感じつつ、今後もその活動に目を向けていきたい。
なお、『Chronograffiti』に関するインタビューやレビューなどの記事を下記にまとめてみた。本公演において、日野と共作したアーティスト・古舘健の言葉にも触れてみてほしい。

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「Chronograffiti」が照射するもの インタビュー:日野浩志郎
https://www.ameet.jp/column/5963/現実の解像度を知らしめる感覚 インタビュー:古舘健
https://www.ameet.jp/column/6117/石川琢也|叩くという原初、時間を描く現在的解釈──日野浩志郎《Chronograffiti》レビュー
https://artscape.jp/article/48926/
過去の公演情報
日時:2025年7月25日(金)〜27日(日)
会場:クリエイティブセンター大阪内 Black Chamber作曲:日野浩志郎
出演:安藤巴、谷口かんな、前田剛史
ビジュアルエフェクト:古舘健舞台監督:小林勇陽
記録写真:井上嘉和
宣伝美術:真壁昂士
ビジュアルエフェクトアシスタント:佐藤文音
制作:伴朱音主催:株式会社鳥友会
共催:一般財団法人 おおさか創造千島財団「KCVセレクション」
助成:アーツサポート関西
日野浩志郎新作コンサートピース Chronograffiti
日時:2026年2月21日(土)
会場:山口芸術情報センター[YCAM]スタジオA作曲:日野浩志郎
ビジュアルエフェクト:古舘健
出演:安藤巴、谷口かんな、前田剛史






