建築士と建築士をめざす学生、建築に興味のある人たちを会員として抱える大阪府建築士会は、2021年5月初旬に「第64回大阪建築コンクール」の入賞作品を発表。大阪府知事賞に、今津康夫(ニンキペン一級建築士事務所)の「突板のギャラリー」、垣田博之(垣田博之建築設計事務所)の「UTSUROI TSUCHIYA ANNEX」、竹内正明・小池志保子・真砂日美香(ウズラボ)、桝田洋子(桃李舎)らによる「宗田家住居」の3作品が受賞した。
大阪・八尾にある安多化粧合板株式会社の「突板のギャラリー」は、2019年10月竣工。日本に限らず世界各国でつくられた突板(つきいた)を、建築家やデザイナーへと供給するため、既存の工場と倉庫に併設されたギャラリーだ。
まず初めに既存倉庫との間に中庭を設け、それを挟むように既存倉庫に合わせた屋根を持つギャラリー棟を北側に置き、敷地全体に新旧が一体となるランドスケープを生み出した。ギャラリー北側にはハイサイドライトを設け柔らかな光を取り込み、中庭のある南側は深い軒下空間として直射日光を遮ると同時に、中庭に強く意識が向かう矢印の役割を担う。
次に、奥行5mの内部空間に奥行1.5mと4mの軒を廻して帽子のように取り囲み、4mの軒下はそのまま東側の道路と線状に並べて、その先に臨む生駒山地まで意識を繋げた。
軒高さは下を通るフォークリフトの軌跡、軒の出は突板の長さを手掛かりとしている。
今津がこれまで手がけてきた、「house fabricscape」や自邸「と」、「一麦幼稚園」などに特徴的に見られる軒下のあり方、建築とその外側とをつなぐあわいの空間が本ギャラリーにも色濃く表れており、訪れた人の意識を建物や敷地の外から内、内から外へとつないでいる。上記、引用テキストにあるように、その規模は遠く東方に望む生駒山地にまで及ぶ。
受賞したほかの2作品−−垣田博之建築設計事務所の「UTSUROI TSUCHIYA ANNEX」(2018年竣工)、ウズラボの「宗田家住居」(2018年竣工)についても、既存の建築や環境を生かした作品となっている。前者は兵庫・城崎温泉にある旧城崎消防署をコンバージョン(大規模改修)したカフェ、ギャラリー、宿泊機能を持つ複合施設であり、後者は大阪・船場に1925年つくられた小さな町屋を修景、改修したショップ&ギャラリーだ。
地域に息づくさまざまな仕事・生活とその歴史を、既存の建築や空間、風景、文化から複雑に読み解き、現代の暮らし・生業へとつなげていった3つの受賞作品。2025年開催予定の万博に向け、すでに各所で風景の変わりつつある大阪において、過去から引き継いでいくものの価値に目を向けた本コンクールの意義は大きい。
本コンクールは、建築士と社会との関わりを通じて建築作品を評価するべく、1954年に創設。64回目となる今年、対象建築物は、近畿2府4県に位置し、その種類・規模を問わず、竣工年月日が2015年1月1日(木)から2019年12月31日(火)のもの。審査委員長は、長坂大(京都工芸繊維大学 教授)、審査員は、荻原廣高(神戸芸術工科大学 准教授)、寺本武司(前大阪府住宅まちづくり部公共建築室 室長)、中嶋節子(京都大学大学院 教授)、橋本一郎(エス・キューブ・アソシエイツ)が務めた。
今津康夫(ニンキペン一級建築士事務所)より受賞コメント
師匠である遠藤剛生は若かりし頃に何度も大阪建築コンクールに入賞していて、打ち合わせ室のキャビネットにはいくつもの盾が無造作に並んでいました。
今回自らが受賞してはじめて、その見慣れた盾に触れることができたわけですが、その重さに改めて驚き、ひしひしと実感が湧いています。気づけば事務所を構えて17年、師匠には到底及びませんが、これからもその背中を追いかけて行きたいと思っています。
クライアントはじめ関係者のみなさま、ありがとうございました。