大阪在住のシンガーソングライター・豊田道倫が、10編のエッセイ、3カ月分の日記、10曲の未発表歌詞を収録した『キッチンにて2』を、2021年4月に自身のレーベル・25時より発表した。
2020年、豊田は25年住んだ東京を離れ、大阪に戻ったばかりの同年3月から5月までの日記を『キッチンにて』というZineにまとめた(すでに完売)。今回発表した『キッチンにて2』は、前作『キッチンにて』の続編にあたり、2020年10月から12月までの3カ月分の日記に加え、著者が「雑文」と呼ぶ短いエッセイと未発表歌詞を収録。期せずしてコロナ禍と重なった引っ越し後の大阪での日々、家族との新しい生活、バンドや音楽関係者との交流が綴られている。
目黒のドゥーは東京を離れる前にはよく通った。マスターとも少しではあるが、会話を交わしていた。いつも柔和な笑みを浮かべていたマスターで、居心地良かった。引っ越す前にはじめて息子と行った。彼はコーヒーゼリーを頼んだ。店を出て、あのマスターがぼくのことを一番よくわかってるんだよ、と言ったら、ふーん、なんで? と聞き返されたけど、説明出来なかった。喫茶店のマスターとはそういうものだよ、と言うのは雑過ぎる。
「喫茶店」胸を撫で下ろしながら、作ってた食事を温める。味噌が切れていたので、わかめスープにした。
「日記(2020年12月12日)」(『キッチンにて2』より引用)
本書に描かれる人々とのささやかな言葉の交流には逡巡やユーモアがひそんでいるが、先行きの不透明な生活が続くなか、キッチンでひとり佇む豊田の静かな覚悟も感じとることができる。
なお、「キッチンにて」というタイトルは、シンガーソングライター・平賀さち枝がかつて運営していたブログ「キッチンについて」に由来することを豊田本人がTwitterで語っている。
豊田道倫『キッチンにて2』
定価:1,320円(税込)
発行:25時
Twitter:https://twitter.com/mtrock_