2019年に上演された極東退屈道場#010『ジャンクション』は、江之子島文化芸術創造センター(enoco)内のいくつかの場所や、会場の外へ出て周辺を歩き鑑賞するもので、その「回遊型」演劇は新しい演劇体験を志向するものだった。2020年には公演『LG21クロニクル』が同施設で開催予定だったが、新型コロナウイルスの影響で中止。現在、本公演のために行ったリサーチが特設Webサイトで公開されている。
『ジャンクション』で描かれたのは、現実と架空が入り混じる「オオサカ」の物語であった。
新作公演『LG21クロニクル』では、その「架空都市オオサカを見下ろす高層住宅から聞こえる囁き声」がヒントになるらしい。
Webサイトでは、プロジェクト「Loan gravity 21」としてリンクから地図へ移動できる。地図上のタワーマンションに付けられているマーカーをクリックすると、建造物の住所や不動産会社などの情報、その建造物への口コミのような文章と、時にマンションポエムなどとも呼ばれるキャッチコピーなどが細かく記載されている。これらはインターネット上に存在する、大阪のタワーマンションにまつわるメタ情報を機械学習によって大量に集め、つなぎ合わせて構築しているという(極東退屈道場主宰・林慎一郎談)。『ジャンクション』にて水没したオオサカという都市を今度はどの標高から描くのか。このリサーチをベースに、作品はこれから制作されるとのこと。
●極東退屈道場#010『ジャンクション』作品紹介
大阪はかつて海だった。
川が運ぶ土砂が数々の島をつくり難波八十島と呼ばれ、今でも島の名のつく地名が多い。
そのうちの一つ、江之子島。
安治川と木津川が交わり、かつては大阪の玄関口/中心地として大阪府庁があり江之子島政府と称された。
今は上空を阿波座ジャンクションと呼ばれ西日本を代表するインダストリアルデザインがとぐろを巻き、
その下を地下鉄中央線が地上へ顔を出すと、埋め立てで作られた人工島を目指す。
本作品はこの地に建つ江之子島文化創造センターで上演する。
数少ない戦前期のモダニズム建築だ。
様々な交通の結節点/ジャンクションである立地にならい、
観客は館内の複数の空間を別々にツアーしながら物語の終着を目指す。
かつての大阪の入り口から、観客は現在の大阪を多面的に透かし見る。(江之子島文化芸術創造センター[enoco]Webサイトより引用)
●極東退屈道場#011『LG21クロニクル』
この一年、我々を取り巻く風景は一変した。正確には風景ではなく、それを受容する我々の態度が一変した。語弊を恐れずに言えば、風景は何も変わらなかった。
天災、人災による破壊と創造は目を奪う風景の変化とともにあると勘違いしていたのかもしれない。しかし、今回、それは風の中に起こった。そして「口から出るものが人を汚す」となり我々は口を覆った。注意深く言葉を発する日々の中で、画面の向こうで口を覆わず発せられる言葉は、もはや別の世界の話となり信憑性に薄い。「立ち止まること」は死を予感させ、恐る恐る、もしくは開き直って歩を進めるよりない。
『LG21クロニクル』は2020年度に上演を予定していた作品だった。
前年度に上演した、水没したと仮定した「オオサカ」を観客とともに回遊する作品「ジャンクション」を元に、その延長線上にある都市の未来を描く作品となる予定だった。しかし、その線は大きく折れ曲がった。その「風」の中に観客を晒すこと、語る言葉に観客を晒すことが生命と隣り合わせる環境を整えることができず上演を断念した。
来年度、この「風」と「言葉」を取り巻く環境がどう変わっているかわからない。
ウイルスとの戦いは科学に任せるしかなく、我々の表現その最前線に立つことは叶わない。
できることは記録することだ。そして、それを記憶するための言葉を探すことはできるのではないか。『LG21クロニクル』は、この現状の中、都市に生きる人々の言葉を丹念に拾い集め、大量のモノローグとして提示したい。それは連続した物語として観客の前に提示されるのではなく、あくまで切片として存在させ、観客はそれを選択可能な状態で鑑賞するスタイルとしようと思っている。
(極東退屈道場Webサイトより引用)
なお、『LG21クロニクル』は、2021年12月17日(金)~19日(日)にenocoで行われる予定だ。
極東退屈道場#011『LG21クロニクル』
会期:2021年12月17日(金)~19日(日)
会場:江之子島文化芸術創造センター(enoco)
問合:問い合わせフォームより送信
大阪市西区江之子島2-1-34