2021年7月2日(金)〜4日(日)にかけてABCホールで開催予定だった劇団壱劇屋の新作公演『団地 裏 地団』が、新型コロナウイルス感染拡大や医療現場の逼迫、またそうした環境下での創作継続の困難さを鑑みて中止となった。
本作は、ある団地の一室からはじまる物語だ。女2人が「裏口」を見つけるべく部屋を漁っていると、1人の男性が入室してくる。彼女たちは男を拘束して再び部屋を捜索するが、やはり裏口は見つからない。仕方なく別の部屋へ移ろうとすると、女の1人が不思議そうに“ここがその部屋だ”と主張する。場面に表れるそうした歪みが団地の奇妙な表と裏の世界を浮かび上がらせ、登場人物たちはその間を駆け回る。
パントマイムやダンス、会話劇、コント、アクションなど、多様な表現を融合させた創作で知られる壱劇屋。公式Webサイトで公開されている、総勢36名ものキャストが繰り広げる本作の脚本 0423を読むと、韻を踏んだ歯切れのいい言葉に滲むスリルのある精神描写と、ユーモラスな台詞との重なりに惹き込まれた。「唯一無二のパフォーマンスアート」と同団が掲げるように、さらに複合的な表現として立ち上がるであろう舞台には高揚感が湧く。だからこそ、発表の機会を見送らざるを得ない現況は、演者のみならず、公演を待ち望んでいた鑑賞者にとってもはがゆい時間に違いない。
劇団内で協議を重ね、中止の決断をした主宰の大熊隆太郎は、同サイトにて次のような文章を綴っている。
「この作品はやっぱ出来うる最高の形にして舞台に上げたい!」という大熊の言葉に期待しながら、作品が披露される日を待ちたい。