空から大阪の街を眺めると、市街地の真っ只中に、こんもりとした緑が点々とあることに気づきます。今から1600年ほど前に人の手によってつくられた古墳です。特に百舌鳥・古市古墳群を有する堺市・羽曳野市・藤井寺市は、古墳時代中期に日本列島最大規模の前方後円墳がつくられた地域。当時最先端の土木技術と驚くほどの労働力が投下されて生まれた超巨大古墳は、時の権力者の力を示すモニュメントです。
現在までに見つかっている古墳は全国延べ16万基におよびますが、そのうち、百舌鳥・古市古墳群のような全長数百メートルという規模を誇る古墳はひと握り。そうした、古墳時代最盛期を彩った大阪の巨大な古墳は徐々に小型化し、やがて都市のモニュメントは寺院に取って変わります。
それでも、強固につくられた古墳の多くは残りました。石や埴輪で覆われた姿から、徐々に植物が生えて、生き物が棲みつき、小山のような姿に。人々はそこに用途を見出し、墓地や境内、農地や薪炭林などに変えていったのです。たとえば、堺市の大仙古墳は日本でもっとも大きな古墳ですが、ここで豊臣秀吉が狩猟をしたと伝わり、中世にはすでに古墳の上に豊かな生態系が育まれていた様子がうかがえます。そして、現代では遺産として守られながら、市民が憩う公園や観光地としても親しまれるようになりました。
長い時間軸で見ると、巨大な土木構造物としてつくられた古墳が、市井の人々の営みのなかに、おおらかに溶け込んできたことがわかります。頭のなかで思い描くままにつくられたかのような壮大なスケールの古墳が、緑に覆われながら、少しずつ人の暮らしに合うものへと変化したとも言えるでしょう。
人がつくるものは恒久的ではないものの、すべてが塗り替えられるように変わってしまうわけではありません。つくられた当時は壮大なスケールだったものも、次第に違和感なく受け入れられていく。時間的にも空間的にも、人々にうまく消化されるプロセスが大事なのかもしれません。
惠谷浩子 / Hiroko Edani
奈良文化財研究所 文化遺産部 主任研究員。専門は造園学。全国各地の文化的景観の調査研究に携わり、土地の自然条件、地域の来歴と現在から、それぞれの地域らしさと持続のあり方を探求している。主な著書に『地域のみかた―文化的景観学のすすめ』(奈良文化財研究所)など。
大阪・関西万博の開催を前に、2025年以降の世界を想像し、自分たちの足元から暮らしを考えるメディア。イギリスの社会人類学者 ティム・インゴルド氏のインタビューや、大阪・関西を拠点に活動する研究者、クリエイターによるコラムを掲載。
監修は、デザイン視点から大阪・関西万博で実装すべき未来社会の姿を検討する試みとして2021年12月に発足した「Expo Outcome Design Committee」が務め、デザイン・編集には大阪・関西を拠点に活動するさまざまなつくり手が名を連ねている。
タブロイド版は全国各地の美術館や書店などで配布されており(配布先はマップ参照)、Web版も公開中。
発行日:2022年3月31日
発行元:公益社団法人2025年日本国際博覧会協会
監修:Expo Outcome Design Committee(原田祐馬・齋藤精一・内田友紀)
企画:原田祐馬
共同企画・編集:多田智美・永江大・羽生千晶(MUESUM)+白井瞭(MOMENT)
デザイン・印刷設計:芝野健太+松見拓也
INTERVIEW編集協力:井上絵梨香(MOMENT)
VOICE編集協力:竹内厚
COLUMNイラストレーション:權田直博
印刷・製本:株式会社ライブアートブックス