天満橋の工芸品店・アートギャラリー「gallery, あるゐは」(以下、あるゐは)にて、能登半島地震の支援金を募るイベント「TREE of PEACE vol.1-2 [for Noto]」が、2024年5月11日(土)に開催された。
筆者が本イベントを知ったのは、大阪を拠点に、白一色の陶器を素材に表現活動を行う本プロジェクトの発起人・BirbiraのKarcoが投稿したSNSがきっかけだった。彼女のフィードにアップされたのは「TREE of PEACE」の文字と花びらが舞うような色鮮やかなドローイング。そこには被災した能登に想いを馳せる神戸のMONTO TABLE、大阪のあるゐはでのイベント開催についての詳細とステートメントが書かれていた。
Statement from ‘TREE of PEACE’
私たちが穏やかな日常を過ごす一方で、世界中で自然災害や紛争など予期せぬさまざまなことが生じています。
また、根強く解決へと向かわない社会問題もあり、社会情勢により新たに生じる問題もあります。
直接自分の身に降りかかれば当事者となりますが、そうでなければどうしても他人事となり目の前の日常生活に埋もれ、関心が薄くなっていく…
ですがいつ自分が当事者になるか分かりません。
もしかすると自身は気付いていないだけで
すでに渦に巻き込まれているのかもしれません。
自然災害を止めることも
戦争や社会問題を解決することも私たちには出来ないかもしれませんが
だからと言って何もしないのではなく意識を向けること、そして関心を持つことで、人が根源的に持つエネルギーや優しさによって循環が生まれることはできないのか。
ふわっとあたたかい人の温もりを感じることで、希望が生まれ、そして自身も勇気づけられるのではないかと考えています。
自分も社会の一員であること、自然の一部であることに意識をするきっかけになるような活動を目的とし、少しずつみなさんと協力していけたらと思います。
メディアを通じて目にするたび、耳にするたび、心を痛めながらも、自分自身がどう行動すればいいのかわからないことがある。それでも、このイベントをきっかけに、立ち止まるだけでなく、何かアクションを起こしたいと、あるゐはへと足を運んだ。
オープンより少し前に店へ着くと、予約制ではあったものの、すでに人だかりができていた。筆者も含め、みな本イベントを心待ちにしていたのだろう。開店時刻になると「お待たせしました」とあるゐは店主・大室友子が扉を開けた。
大阪でのTREE of PEACEに参加した作家は、陶芸家の池田優子、十場あすか、Birbiraとmushimeganebooksの4名。店内にはプレートやボウル、カップからオブジェ、小物に至るまで各作家が出品した多様なアイテムが並んでおり、そのほとんどがサンプル品やB品だ。これらは制作過程で生じうる、通常は日の目を見ないものだが、些細な傷や、意図せずに生まれたユニークな形・色合いからは、作家たちの手仕事のあとが感じられる。本イベントでは、これらを来場者に提供することで、支援の輪を広げていく。日常のなかで十分に愛用でき、そして作品の背景にある作家の想いが滲む品々を、来場者は目を輝かせながら次々と手に取った。
本イベントは大室をはじめ、作家も在廊し運営にあたる。彼女たちの接客する姿には、来場者との対話を大切にしている様子がうかがえる。また、柔らかな物腰で会話しながらも、梱包する手元やテキパキと立ち動く所作からは、彼女たちの包容力と同時に芯の強さも感じられるようだ。
TREE of PEACEの立ち上げは、数年前にKarcoと池田が「それぞれの想いとできることを持ち寄り、継続してできる支援を考えたい」と話したことがきっかけだという。その想いは仲間たちにも、言葉を交わすなかで少しずつ広がっていった。大室もそれに共鳴し、プロジェクトに参加したひとりだ。「TREE of PEACEは『世界中にある、助けを必要としているところ』に焦点を当てています。今まさに紛争が起きているガザもそう。日々いっぱいいっぱいだけれど、そういった地域の人々に対して、常に目と心を向けて生きていきたいね、とKarcoさんやみんなと話しながら、すこしずつ構想をあたためていました」と大室は話す。
そんなさなかに、能登半島地震の被害が報じられた。「グダグダしている場合じゃない!」と思い立ったKarcoからの声がけのもと、彼女の想いに共感した仲間の作家や店が集い、急遽今回のイベントを企画。実現にこぎつけた。
「自分にもできることがあったのだと、こちらが救われる気持ちだった」と大室は話す。そして、その言葉に筆者も似た想いを抱いた。この日は土鍋を購入した。それは小さな行動かもしれないが、支払いをする際、お金だけではなく復興への願いを託すような感覚を覚え、気持ちが昂った。イベントは5時間という短い間だったが、売上総額は1,046,000円に達したそうだ。これらはすべて能登島地域づくり協議会へ寄付された。
表現の手あとが、参加者のもとへ渡ることで支援へと変化するTREE of PEACE。ものづくりが生み出すあたたかな循環を肌身で感じられたイベントであり、購入した土鍋を使うたびに、彼女たちの想いに触れた感覚が蘇り、背筋が伸びる。
TREE of PEACEは、今後も各地でイベントを企画予定とのこと。一人ひとりの小さな力も、たくさん集まることで大きな力となる。これからも彼女たちの視線の先へともに目を向けて、自分にできるアクションを少しずつでも積み重ねていきたい。
TREE of PEACE vol.1-2 [for Noto]
日時:2024年5月11日(土)11:00〜16:00