東西での対話で気になることばがある。東京で話していると「~だよね」と言われることが多い。「私もいいと思っていた」という意味の「~だよね」で、共感の安心が込められているように感じる。一方、大阪人は相手に対して、「~とちゃうか」と問いかける。自分の考えを確認するため、「それって、~とちゃうか」と相手にぶつけて議論し、対話を通して信念にしていく。議論のなかで自分の考え方が違っていることがわかったら、「なるほどなぁ」と前言を翻す。「~だよね」の東京と「~ちゃうの」の大阪。人の心を巧みにつかみ、深く対話を行い、物事の本質を捉えようとする大阪人。
そんな大阪から、減りつつある大切なことばがある。「なんでや?」「ほんまか?」「要はこういうこっちゃな」だ。「なんでや?」でその背景を知り、「ほんまか?」で真偽を確かめ、「要はこういうこっちゃな」で本質をつかむ。これこそ大阪人の対話力だった。大阪の強みそのものだった。
その一方、大阪で増えたことばがある。「それ、なんぼ?」「なんぼ儲かるんや?」となんでもかんでも、金を意識した価値観で行動するようになった。それで変になった。もうひとつある。「ええんちゃう?」だ。「そんなんで、ええんちゃう?」「そんなん、やらんでもええんちゃう?」。この「ええんちゃう」が異なることを受け入れて新たなことをつくり出す大阪のダイナミズムを弱めた。
ことばをいい加減にしたら、あかん。もうそろそろ、「それ、なんぼ?」「ええんちゃう?」をやめて、大阪文化そのものの「なんでや?」「ほんまか?」「要はこういうこっちゃな」が飛び交う大阪のまちに戻そう。
池永寛明 / Hiroaki Ikenaga
1959年大阪市生まれ。1982年大阪ガス入社。人事・営業・企画を経てエネルギー・文化研究所長ののち現職。大阪の風土と文化や社会経済構造などの研究、日経COMEMOなどで情報発信中。近著に、『日本再起動』(関西学院大学出版会)など。
大阪・関西万博の開催を前に、2025年以降の世界を想像し、自分たちの足元から暮らしを考えるメディア。イギリスの社会人類学者 ティム・インゴルド氏のインタビューや、大阪・関西を拠点に活動する研究者、クリエイターによるコラムを掲載。
監修は、デザイン視点から大阪・関西万博で実装すべき未来社会の姿を検討する試みとして2021年12月に発足した「Expo Outcome Design Committee」が務め、デザイン・編集には大阪・関西を拠点に活動するさまざまなつくり手が名を連ねている。
タブロイド版は全国各地の美術館や書店などで配布されており(配布先はマップ参照)、Web版も公開中。
発行日:2022年3月31日
発行元:公益社団法人2025年日本国際博覧会協会
監修:Expo Outcome Design Committee(原田祐馬・齋藤精一・内田友紀)
企画:原田祐馬
共同企画・編集:多田智美・永江大・羽生千晶(MUESUM)+白井瞭(MOMENT)
デザイン・印刷設計:芝野健太+松見拓也
INTERVIEW編集協力:井上絵梨香(MOMENT)
VOICE編集協力:竹内厚
COLUMNイラストレーション:權田直博
印刷・製本:株式会社ライブアートブックス