一日の元気の源は、朝ごはんだ。おにぎりと梅干しにお味噌汁。手づくりのお漬物なんかがあれば、それだけで幸せな気持ちになれる。ああ日本人に生まれてよかったなあ、と思える瞬間のひとつだ。
「朝ごはん、食べにきてよ」と誘われた。「あさぼらけの朝ごはん」は、谷町六丁目でチェコやハンガリーの手芸雑貨店・チャルカを営む久保よしみさんと、自然徒手療法室・草枕の相川豊明さん(愛称:まくらちゃん)が主宰する会。いつも第3日曜日の朝8〜11時、チャルカで場をひらいている。私が足を運んだのは、2024年2月18日(日)のことだ。
「おはよう〜、やっと来たね」と、ドアを開けた途端にふたりに笑いながら突っ込まれた。冒頭にはああ書いたが、実は普段、私はあまり朝ごはんを食べない派。早起きできずに、何度か行く行く詐欺をしていたからだ。ふたりとは、移動するハーブというサークル活動の畑仲間。大阪市内から南海電鉄に約1時間揺られて、府のほぼ南端に位置する岬町へ定期的に通いながら、ハーブや野菜を育てている。
チャルカは雑貨屋さんでありながら、飲食店さながらのキッチンも併設。カウンターテーブルに座り、キッチンで調理している様子を見ながら朝ごはんを待っていると、知り合いの家に遊びに来たような気分になる。
そもそも、ふたりが朝ごはん会をはじめたのはなぜだったのだろう。チャルカは、よしみさんが東欧を旅するなかで感じた「豊かな暮らしってなんだろう?」という問いから、手仕事に触れられる現地の手芸雑貨販売や、手工芸にまつわる資料のライブラリーを展開。暮らしの知恵やものづくりを思考する料理教室や、ワークショップなども開催している。一方、自然徒手療法室・草枕は、人間の心身に向き合い、本来もっている治癒力を高めるための施術を行う。それぞれ業種は異なるものの、“豊かに生きる”ことを追求しているところが共通しているように思う。
聞くと、自称・食いしん坊のよしみさんは、自宅へ知人を招き、よくごはん会も行っているそうだ。「身近に一人暮らしの方が多いこともあり、人がちゃんとつくってくれたごはんを食べる機会がほしいなって」とよしみさん。たしかに、顔を合わせて食事をすることは、心と身体でおいしさや楽しみ、安心を享受することだ。あさぼらけの朝ごはんも、その延長にある。「特に、コロナが広がりはじめた当初は、人と集まって会うことが難しかったし、一緒に食べることの意義を明確に感じました。料理をすることは大好きだから、自分のつくったものを食べてもらって、人に喜んでもらえたら嬉しいです」と、よしみさんは微笑む。
一方の相川さんも、豊かな生き方を考える上で、食は欠かせないと考えていた。「世代を問わず、今の人って、コンビニのお弁当やパンなど、簡易的な食事がメインになりがちだと思うんです。人の手で丁寧につくられたものを食べる日が、もう少しあってもいいんじゃないかなと」。時間的なコストから、食事を手近に済ませてしまうことはある。けれどもその手近さゆえ、暮らしの忙しなさに心の動くような体験が埋もれてしまうことはあるかもしれない。「生活の基本となる『食べる』営みを、大切に人と共有する。その時間は、一人ひとりのほっとする居場所になるはず。いい一日のはじまりになればいいなと思っています」と相川さんは語る。
ふたりは数年前に出会い、同じ谷六で交流し、活動するなかで意気投合。互いが住み働くまちでスタートしたこの会は、今年で2年目を迎える。
お腹が空いてきた〜!
本日のメニューは、次のとおり。
・ぶり酒粕漬け
・日野菜の油炒め
・自家製切り干し大根のたいたん
・里芋と大根葉の炒め
・愛情むすび
・大根と白カブのみぞれ汁
「なるべく旬のものを出したい」という朝ごはん。メニューは、ふたりがそれぞれ役割分担をして準備をしている。素材の味が生かされた、優しい味つけ。「愛情むすび」は手当て施術で人を癒やしている相川さんのパワーが詰まったおにぎりだ。数日前に収穫した大根と白かぶが、朝ごはんに登場している。うちの子うちの子、気分。自分で育てた野菜にこんなに愛着が湧くことを、畑仕事で知った。
炒め物になっている日野菜は、滋賀を代表する伝統野菜。うちの畑のお隣さんでは、地元岬町の主婦の方々がチーム・おしゃベジという活動名で野菜を育てている。これはそこから仕入れた、新鮮なお野菜だ。おしゃベジさんとはLINEを介して、イベント情報の共有や畑の近況など情報交換をしている。谷六と岬町という、普段では関わりのないまちで暮らす人同士が、野菜や畑を通して交流できていることは嬉しいことだなと思う。
見渡してみるとお客さんも、ご近所さんや知り合いの方、お一人様からご夫婦などさまざま。常連も増えてきたという。ご近所同士でこういう企画がさらっとできることに、谷町六丁目エリアらしさを感じる。
谷六周辺は、1945年の大阪大空襲の被害を免れた地域。古き長屋が残る町並みを好んで住み、個性豊かな店を営んでいる方が多い印象だ。住まわずとも、客として通っている人もいるだろう。業界同士に横のつながりがあるのは世の常だけれど、よしみさんが話していたとおり、谷六に関してはほかのエリアよりも町をベースにした交流が育まれている気がする。
野菜の話、行ってきた旅行の話、今日の天気、お箸を口に運びながら、カウンター越しに他愛のない会話をする。ちょっと話していたつもりが、気がついたら11時前。店を出るときに、「よき一日を〜」と見送ってくれた。コミュニティ形成や地域自助とまわりでよく聞くけれど、気張らなくてもこういう空間がそれなんじゃないかなと思った。
同じ空間でごはんを食べながらゆるゆると流れる時間は、初対面同士の人がいても心地良い距離感が生まれている。その場にいる人がつくったものを一緒に食べる。それだけで食事という行為が、ひとつの場となるのかもしれない。朝ごはんを食べるのもいいもんだ。今日は日曜日。駅まで歩きながら、ちょっと晴れやかな気持ちになっていた。
あさぼらけの朝ごはん
日程:月1回日曜 8:00〜11:00(なくなり次第終了)
※開催日時はチャルカのInstgramを参照
会場:チャルカ(CHARKHA)