2022年9月1日(木)、西九条にあるBlend Studioの系列スタジオとなるBlend Livingが、近鉄上本町駅よりほど近い銭屋本舗本館3階にオープンした。白とグレーを基調とした、柔らかな空気が感じられる心地よい空間だ。内装デザインは建築家の加藤正基、ファブリックデザインはfabricscapeの山本紀代彦が手がけている。
当スタジオを運営するのは株式会社由苑だ。2007年に玉造で「ゲストハウス由苑」を開業し、以降宿泊業・飲食業を営みながら、旅人たちの交流の場を育んでいる。近年はコロナ禍の影響を受け、新たな事業としてレンタルスタジオにも注力。かつてはホテル事業としてスタートしたThe Blend Innも、その流れのなかで2020年からBlend Studioに生まれ変わった。そんな由苑が、主軸としてきたBlend Studioに加え、新たな拠点をつくった背景にはどんな意図があったのか? スタジオ事業を担当する溝辺直人氏に話を伺うことができた。
「The Blend Inn時代にも、スタジオとしての利用を相談いただくことはあったんです。でも、ホテル運営から一気に舵を切ることは、大きな決断でもありました。Blend Studioを立ち上げようとしたときは、そもそも撮影スタジオについて右も左もわからないような状態だったんですよ」と溝辺氏は振り返る。知人から運営にまつわる情報を拾い集め、需要などをリサーチ。ハウススタジオを営むスタイリストの国吉玲子氏や、The Blend Innを設計した建築家の島田陽氏にも相談を重ねて空間をつくり上げていったという。
その後、試行錯誤を経て誕生したBlend Studioも軌道に乗りはじめ、BtoBの利用客を獲得。クリエイターとの協働の機会、また関係性も育まれていった。そして、次第に1棟貸しのBlend Studioとは異なる、より幅広い層が利用しやすい場所を生み出したいという新たな想いが芽生えるようになる。
「Blend Studioも、もちろんいい空間なのですが、広いぶん、個人や小規模な団体が利用する難しさがあって。『次のスタジオはもう少しコンパクトで、利便性の良い立地を』と考えていたところ、Blend Livingの物件に巡り合いました。それから、The Blend Innのプロジェクトを通して、建築家と1からつくることで自分たちの想像を超える作品ができることを体感し、また建築家の方と協働したいと思っていたんです。そんなときに加藤さんが手がけたお仕事を知る機会があり、空間の美しさに惹かれ、今回お声がけさせていただきました」
Blend Livingは、ライフスタイルが垣間見える空間を目指したハウススタジオ。良質なヴィンテージ家具やデザイナーズプロダクトが並び、東から南に向けて柔らかな自然光が一日中差し混む。スタジオという特性上、撮影物が主役となり、さまざまなシーンを撮影できる仕様であることが求められるが、そうした条件を踏まえどのように設計を企図したのか、加藤本人にも話を聞いた。
「色味やテクスチャーの制約があったので、メインは淡いグレーのモルタル床と白壁といったシンプルな構成にしています。その上で空間を柔軟に使ってもらえるように、可動壁やディスプレイ台としても使えるベンチ、テーブルなどの什器を制作。光や雰囲気も変化させられるよう、カーテンのデザインを山本さんにお願いしました。淡白なだけではただの真っ白な空間となってしまうので、質感を調整し、主張しすぎないぎりぎりのところでディテールを詰めましたね。3次元だけれど、まるで2.5次元を設計するような感覚でした」
空間のなかでも目を引く可動壁は、片側が白色、もう片側がラワン木質の表裏となっている。白色の面は右側が湾曲しており、設置する場所によって奥行きが生まれ、振り方ひとつで雰囲気も変化する。
スタジオを囲むカーテンは、グレーベージュの遮光カーテンと、白・ピンクグレーのレースカーテンの3層。レースカーテンは、重ねて色合いを変化させたり、ひだの幅を自由に調整したりすることができる。また、よく見ると、一番手前のカーテンレールが壁面と平行ではなく、斜めに設置されていることに気づく。それによって色彩の濃淡や陰影が変化し、同じカーテンのレイヤーでも、繊細かつ多彩に雰囲気を変化させて撮影することができる。
空間の随所に細やかな仕掛けが散りばめられながらも、ひとつの空間としての美しさも併せ持つBlend Living。そのあり方も溝辺氏のこだわった部分だ。
「訪れたお客さまの気持ちが思わず高まるような、スタジオとして常に一番いい状態をつくることも意識していました。いつ来てもいい空間だなと感じてもらい、何度も利用していただくことで、空間としての使い方もどんどん広がっていくと思うんです。関係性を積み重ねながら、Blend Livingをもっと成長させていきたいですね」と彼は語る。
今後は、プロップス(小道具)を拡充して貸出を行うほか、「イベントの企画や利用者の作品づくりにも、積極的に携わっていきたい」と語る溝辺氏。空間の多様性を楽しみながら、多くの作品が生まれることに期待していきたい。
営業時間:9:00~18:00 (時間外応相談)
問合: 070-8342-6522
設計:加藤正基
ファブリック:fabricscape(山本紀代彦、森永一有、西垣佑哉、泉百合菜)
大阪市天王寺区石ケ辻町14-6
銭屋本舗本館3F