そんな谷井氏が、GALLERY UROで2週間にかけ、制作過程を公開する個展「≒ NEARLY EQUAL(ニアリーイコール)」を開催した。アーティストとしての彼の作品を見に、2023年7月14日(金)に行われたレセプションに足を運んだ。
心斎橋駅から徒歩5分。2022年10月にオープンしたGALLERY UROは、広告代理店である株式会社NOVELの敷地内に設けられた路面スペースで、広告デザインを手がける株式会社AND SPACEが主催・運営している。ファインアートからインスタレーションなど、これは!と運営者が思う国内外の若手アーティストの作品をジャンルレスに取り扱っている。
ホワイトキューブの左右の壁に飾られた、大きな作品。一方は壁にある窓から密集した植物が、顔を一気に覗かせたような立体的な作品〈frame シリーズ01〜03〉。もう一方は、スクエア型にカットされた大小のフラワーカーペットが組み合わさり、ピクセルアートのようにひとつの形を成している作品《pressed》だ。
「〈frame シリーズ01〜03〉は、植物の成長の過程を、レジンを用いて保存したもの。植物は摘まれたあと、乾燥してやがて枯れてしまいます。レジンによってそのスピードは緩められますが、変化がまったく止まるわけではありません。だからこそ、年数をかけて変わっていく色や風合いを感じていただきたいと考えました。そして、その対極にあるのが《pressed》。本来立体的であるべき植物に、強い圧力をかけてあえて形を崩したものです。裁断されてもなお鮮やかな色を残し、美しい形を描く花の美しさを表現しました」と谷井氏。
幼い頃から植物を愛し、フラワーデザイナーとして働き、まわりに植物が常に身近にある環境だった。そんな谷井氏が、植物との距離感を再認識したのは、自身の畑で植物を育てはじめたことがきっかけだという。小さな種から芽が出て、葉が茂り、花が咲く。時間軸のなかで形を変えながら、成長し続ける植物……。デザイン業を行う上で、さまざまな植物に触れるたびに身体の内側にふつふつと湧いてくるエネルギーを感じ、いつしか植物に対して神秘さをも感じるようになったという。
「植物の美しさをどれだけ阻害せずに、際立たせることができるのか? 植物は高貴な存在で、僕はあくまでその美しさを伝えるための媒介者。時間の経過、形状の圧縮というアプローチの異なる2つの作品を、行ったり来たりしながら制作するなかで、それぞれの違いや境界線が曖昧になり、重なっていくようでした。どちらの作品も一見違うようで、似ています。個展名となった「≒ NEARLY EQUAL」は、その感覚を表現したものです」
スターチス、グレビレア、ハス、トクサ、アレカヤシ、ヒカゲカズラ……作品に使われた植物は、身近な植物だ。もしかすると私たちは、その植物の“一時的な姿”しか見ていないかも知れない。個人的な話だが、私も最近畑をはじめた。谷井氏と同じく、植物が成長していく過程やそのエネルギーに感銘を受けているうちのひとりだ。植物は不思議な存在だと谷井氏は話す。媒介者として植物に向けられる敬意の目線は、アートという表現を得てどこまで深まっていくのだろうか。
会期:2023年7月17日(月)〜8月5日(土)
時間:10:00〜19:00(土日祝定休)
会場:GALLERY URO
入場料:無料
bulbus
谷井聖 https://www.instagram.com/syotanii_bulbus/