「密」の外観はすべて鏡面に包まれており、外からは中の様子を見ることができない。「一体どうなっているのだろう?」とはやる気持ちを抑えながら、暗証番号を入力し店内へ。
中に入ると、南自身がクリエーションのために収集した、あたたかみのある家具、ユニークな色彩・形状の雑貨、シンプルながらもフォルムや質感の映える洋服などが、リズム感をともなって美しく並ぶ。およそ66平米のスペースは、隠れ家に訪れたようなワクワク感と、閉じられているスペースだからこそ、企画の世界観が充分に堪能できる空間となっている。
阪急阪神百貨店では初の招待制となる「密」。オープンには一体どのような経緯があったのか、加藤に話を聞いた。
「当初はポップアップショップのご相談をいただきましたが、それではこれまでと変わりません。あらためて、今百貨店に何が求められているのか、根本的なところから一緒に考えていきました。百貨店は、アクセスもよく催事も頻繁に開催され、さまざまな情報が行き交う場所です。しかし気軽に立ち寄れるからこそ、目的をもって訪れる人は、実は少ないのかもしれない。だからこそ『ここに行きたい!』と思っていただける場所をつくる必要性を感じ、『密』のコンセプトを固めていきました」
ここで「密」のステートメントを見てみよう。
SNS の発達やコロナ禍により非対面のコミュニケーションが増え、
実際に触れることのない情報が独り歩きしていく今。それらの反動として、人々はリアルなコミュニケーションを欲していること
そこでしか出会えないものが確かにあるということに、
再び気づき始めているのではないでしょうか。アート、ファッション、デザイン、工芸。
この静かな空間では、私たちの想像を刺激するさまざまなことが起こります。
それは、隠しておきたいような、誰かに伝えたいような、ささやかな“秘密”。
その秘密を共有する人たちのつながりから、
また新たな会話や表現が生まれていくかもしれません。出会った人や目の前の作品、或いは自分自身と。
より深く、“密”なコミュニケーションをこの場所で育ててみてください。
“目的をもって訪れたい店”の条件を考えてみると、コンテンツの魅力はもちろんのこと、やはり誰の企画なのか、どのお店なのかという「人」も重要だと感じる。
加藤が運営するNOTA_SHOPは滋賀県の信楽にあり、アクセスがよいとは言えないが、連日多くの人が訪れる人気店だ。わざわざ足を運びたくなる理由は、陶器やガラス、木工品などが美しく整然と店内に並ぶ様子から、彼の審美眼や遊び心が感じられるからではないだろうか。そして「密」は、あえて会員制を設けることで、そうした体験を、不特定多数の人が訪れる百貨店という空間に生みだそうとしている。
「『密』には、意志のあるお客様が来てくださいます。だからこそ、この空間での体験を楽しみにしている方一人ひとりと、親密にやりとりする時間を大事にしたい。そんな顔の見えるコミュニケーションから、買い物を楽しんでもらえる方が増えてほしいですね」と加藤は話す。
南が来店したオープン初日は、人数を制限した事前予約制。まわりの喧騒を感じさせない静かな空間で、服や家具、本をゆっくりと愛で、また物の生産背景やストーリーなどを南から直接聞くことができるとても贅沢な時間となった。人・物との新たな関係を紡ぐ「密」は、末長く愛するアイテムに出合える場所になっていくだろう。
「密」ではキュレーションテーマを定期的に変え、暗証番号も都度変更するという。引き続き目が話せない場所となりそうだ。
キュレーションスペース「密」
営業時間:イベントごとに変更あり
定休日:イベントごとに変更あり
問合:公式LINEページ
Instagram:@hankyu_mitsu
密
大阪市北区角田町7-10
阪急メンズ大阪地下1F