1984年に京都市立芸術大学の学生を中心に結成されたマルチメディア・パフォーマンス・アーティスト集団ダムタイプ。立ち上げから参加していた山中透、古橋悌二の、活動初期の音楽的アプローチと功績を振り返る「山中透・古橋悌二/ダムタイプ 初期音楽作品復刻プロジェクト メモラビリア展」が、2024年4月6日(土)から20日(土)まで、立売堀・DELIにて開催された。
企画者は、山中と古橋がダムタイプの最初期「ダムタイプシアター」時代(1984〜1986年)の作品である《睡眠の計画》(1984年)と《庭園の黄昏》(1985年)のために制作したカセットブック2作品を、はじめてレコードとして復刻するプロジェクトを行うconatala/pianola records。同プロジェクトは、制作支援を求めるクラウドファンディングも2023年10月から展開している(2024年7月8日[月]終了予定)。また、山中の新作リリースを控えるEM Recordsも本展に共同参画した。
このレポートでは、オープニングイベントとして行われたインストア・ライブとトークセッションの模様を、クラブカルチャーの研究に携わる石川琢也が振り返る。
アーティストグループ・ダムタイプについて記事を書くのは少々、気が重い。半世紀近くにわたる時間軸と文脈は、どの視座で眺めるかで往々にして変化する。さらに東西の論客が言葉を重ねており、その動態は現在進行形でもあるのだ。筆者のダムタイプ観で言えば、山口情報芸術センター[YCAM]での高谷史郎や池田亮司に在るメディアテクノロジーの美学的応用が先行する(筆者は2014年にYCAMでインターンをし、はじめて制作に触れたのがインスタレーション作品《LIFE—fluid, invisible, inaudible…》だった)。また、クラブ文化史を研究する者としては、古橋悌二と山中透の名は1989年から今なお続く京都・丸太町Club METROでのパーティー「Diamonds Are Forever」に強く宿っている。
※Diamonds Are Foreverについては以下、『CLUB METRO ARCHIVE BOOK “DIGGING UNDERGROUND” VOL.1 1990 – 1994[PDF版]』に収録された菅野優香氏のコラムに詳しい
そんな文脈の沼に溺れそうではあるが、この短いレビューである側面を示せられれば幸いである。ダムタイプを建築物と見立てるのであれば、今宵は建造のための立地と施工道具とも言えるだろうか。つまり、40年ほど過去の当時から未来に投機される希求のようなものが語られていた。願わくは本稿が、展開中の「山中透・古橋悌二/ダムタイプ 初期音楽作品レコード化プロジェクト」LP化のクラウドファンディングの助力になれば。
さて、本イベントは大きく前半と後半に分かれる。前半は、山中透によるライブである。
「ダムタイプシアター」時代の作品《睡眠の計画》(1984年)と《庭園の黄昏》(1985年)のために制作した音源を近年、山中が再編集/再作曲したものに、ライブでアレンジを加えた内容である。まず驚いたのは、ミニマル・ミュージックとも現代音楽とも形容でき、新鮮さをいまだ内包しているその音源の素晴らしさである。さらに、演奏の合間に語られる制作話(1970年代の英会話教材をサンプリングのソースとしたなど)や、古橋とのエピソードがとても印象的である。《庭園の黄昏》にある古橋が名づけた「Watcher of Heaven」は、山中がずっと編曲したくてたまらなくて、昨年、別の舞台のためようやくアレンジすることができたと語る。1985年に作曲された音源がアレンジされ、この場で聴くというのは、時空のゆがみを体現するようである。
1時間程度のライブを終えて、EM Recordsの江村幸紀と山中によるトークセッションへ。江村の本トークへの意気込みは、事前につくり込まれた参考資料と積み重ねられたレコードに見て取ることができる。トーク冒頭では、イントロダクションとして江村から会場に配布された参考資料によって、音楽におけるロマン派にはじまり、平均律と調性に拘束された世界への疑義提示あるいは否定としての現代音楽、そしてモダン〜ポストモダンという文脈が整理された。その後、ダムタイプ黎明期の位置づけ、ほかの前衛芸術との相関性、その概要が語られた。
江村の仮説には、初期ダムタイプとほかの集団の大きな差異として、ミュージシャンの存在と音楽を外部に委嘱する必要がなかった点を挙げており、その中心には古橋と山中があるというものであった。そんな大きな構成から「山中透がいつ楽器をはじめたか」という問いを皮切りに、徐々にダムタイプへと続く流れが、用意されたレコードとともに語られていく。以下に、その一部を端的に羅列していく。
・Ultravox / Vienna(1980年)
ミッジ・ユーロ加入後のUltravox。ニュー・ウェイヴ・ロックする1枚。本作の影響で、ダムタイプの前身バンドであるORGを結成。山中はジョン・フォックス時代のUltravoxも好きであったが、古橋は特にミッジ・ユーロ加後のニューロマンティックの系譜を愛好していたという。ORG以降は、よりオルタネイティヴな音楽を望むようになり、ピアノとマリンバとボーカルという構成のR-Stillへと続いていく。
・Steve Reich / Four Organs(1973年)
京都市立芸術大学の学生を中心とした実験音楽のサークルに参加していた1979年頃に山中が聴いていた音楽。この時期に、シュトックハウゼンやさまざまな音楽を浴びるように聴いていた。山中は、A面のジョン・ケージによるパーカッションの作品にも影響を受けたという。
・Phillp Glass / Einestein on the Beach(1979年)
フィリップ・グラスと演出家ロバート・ウィルソンが手がけた同名の舞台作品を音源化。ダムタイプの表現もこの作品の影響下にあったと山中は語る。後にウィルソンから招待され、メンバーで観に行ったこともあるという。また、京都のジャズバーにて現代音楽のミュージックパーティーに参加した思い出も。
・Terry Riley / In C (1964年 / 日本盤1976年)
アメリカン・ミニマル・ミュージックの代表的な1枚。ライヒとともに山中が衝撃を受けた作品。ミニマル・ミュージックの代入という行為はダムタイプにも見られる。
・Peter Gabriel / Lead a Normal Life(1968年 / 1976年)
ダムタイプのマリンバはここから。完コピしたらしい。まったく違うキーへの転換も非常に好みで、「風景がすごく広がるような感じの映像的な音楽」と山中談。
以上のように、時代を代表する現代音楽を軸に、制作風景や現場感が浮き上がる話が進んでいった。そして、終盤に向けて機材の話へと話題が移る。江村曰く、当時のインディー音楽家たちにとって機材革命とも言える出来事が、TEAC社のPortastudioの登場であった。山中と古橋はこの機材を使い倒していたが、R-Stillの後期になると次第に音質に不満をもち、当時150万ほどの借金をして、OTARIの業務用8トラックのレコーダーを購入を決意した。
山中が「最低限度を担保できるような機材を買わないと。作曲だけでどうのこうのって世界じゃなく、音をつくるっていうのが、音楽つくる人は一番の肝だと考えていた」「当時、デイヴィット・ボウイのプロデューサーをしていたコニー・プランクが圧倒的にかっこよかった。曲だけでなく、プロデューサーによって音の質が違うことを感じていた」と語るように、《睡眠の計画》と《庭園の黄昏》をはじめ、以降のダムタイプの音楽を大きく前身させる出来事であった。
ライブを含め2時間半ほどのイベントであったが、音楽遍歴から技術体系まで非常に濃密な時間であった。最後に、今回クラウドファンディングの意味について少し考えてみたい。ご存知の通り、現在はAI生成の時代に踏み込んでいる。今月発表されたSpotifyの新ルール(年間再生数が1,000未満の曲には楽曲利用料を支払わない)は、現在における音楽をつくること、聴くことについてのひとつの軋轢と言えるだろう。
本イベントを通し、筆者に宿る満足感の由来は、山中および古橋の音楽遍歴の話を聞き、実際に音源を聴くことであった。つまり音楽について語られることである。山中の過去の話に出てきた音楽同好会や1曲ずつメモを取りながら聴くミュージックパーティーは、現代に再現するならどのようなカタチでできるのか、あれこれ想像してしまっていた。生成することと同じくらいに、音楽について語る場を欲しているのは私だけではないようにも思える。このクラウドファンディングのLP化のプロジェクトは、それを具現化するよき機会となるのではないだろうか。その出来上がりを楽しみに待ちたいと思う。
山中透・古橋悌二/ダムタイプ 初期音楽作品復刻プロジェクト メモラビリア展 vol.2
会期 : 2024年4月6日(土)〜20日(土)
会場 : DELI
時間 : 15:00〜20:00(土・日・祝 11:00〜17:00)
休廊 : 不定期
料金:入場無料山中透 インストア・ライヴ & トーク・セッション at DELI
日時:4月6日(土)19:00〜23:00
入場料 : 2,000円 + 1ドリンクオーダー
ライヴ出演:山中透
トーク・セッション出演:山中透 + 江村幸紀(EM Records)
DJ:Yohei Kunitomo(conatala / pianola records)、NAKAM
クラウドファンディング
山中透・古橋悌二/ダムタイプ 初期音楽作品レコード化プロジェクト
ダムタイプ初期のパフォーマンス《睡眠の計画》(1984年)と《庭園の黄昏》(1985年)のために山中透と古橋悌二が制作した音楽を収録したカセット・ブック作品2作品をレコード化するプロジェクト。
支援募集期限:〜2024年7月8日(月)23:59まで
プロジェクトメンバー
企画・制作:conatala
デザイン:MATERIAL
映像編集:せきやすこ
リマスタリング:大城真
海外流通およびプロモーション:Incidental Music
展示巡回
山中透・古橋悌二/ダムタイプ 初期音楽作品復刻プロジェクト メモラビリア展 vol.3
会期:2024年6月1日(土)〜15日(土)
会場:LVDB BOOKS
時間:13:00〜20:00
休廊:日・月曜
料金:入場無料