UMA/design farmのデザイナーとして、グラフィックデザインを中心に手がける山副佳祐が、自身がディレクション・運営を行うプロダクトブランド「Hinote™」を2024年8月2日(金)にローンチした。
本ブランドは、山副がミシン刺繍のエンジニアである父・兄とともに立ち上げた。ファーストコレクションでは、焚き木、枝葉、とうがらしなどをモチーフとする図案を刺繍したオリジナルクッションを発表。グラフィカルなデザインが柔らかな線で表され、深みのある表情を見せる。山副の自宅で実物を見せてもらう機会を得て、プロダクト開発の背景を尋ねた。
山副は、京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)空間演出デザイン学科卒業後、デザイナー・原田祐馬率いるUMA/design farmへ最初のスタッフとして入社。15年以上にわたりキャリアを重ね、また変化するライフステージを歩むなかで、デザインと日常生活とのつながりを考えるようになったという。「これまで企業のロゴやサイン、パッケージなど、幅広いプロジェクトに関わらせてもらいましたが、自分のグラフィックデザインで、何か暮らしにより身近なものをつくってみたいなと思ったんです」と、その実感を語る。
そして、家族で焚き火を囲んでいる際にHinote™の構想が立ち上がる。ブランドネームである「Hinote™」は、彼らが火に手を当てる情景が由来となったそうだ。
家族がもつものづくりの専門性から、「刺繍」と「グラフィックデザイン」の組み合わせはすぐに決まった。さまざまなプロダクトを検討するなかで、クッションをファーストコレクションに選んだのは、暮らしにおける「感情」と密接に関わる道具だと感じたからだという。クッションはただソファに置かれているだけのものではない。映画を観ながら胸に抱いたり、枕代わりにして昼寝をしたり、膝に置いて本を読む際の台にしたり。あるいは喧嘩をしたら投げつけ、そのまま顔をうずめ泣き濡らすこともあるだろう。
「ワンポイント刺繍の入ったソックスやキャップなど、アパレルのプロダクトもイメージできるけれど、より人に馴染むグラフィックデザインの表現を考える上では、刺繍にある程度大きさがほしいと思いました。また、タペストリーなどのオブジェをつくることも考えられましたが、実際に手に取って『使う』プロダクトの方が、もう少し身近だし、長く愛用できる。それで、クッションに辿り着いたんです」と山副は言う。
図案は「Bonfire」「Branch 」「Chili pepper」「Matsuba 」「Parm tree 」の5シリーズ。それぞれ生地の異なる2パターンを揃え、全10種のアイテムとして展開することとなった。
日々の暮らしや旅先で得たインスピレーションをスケッチに起こしたり、子どものおもちゃを手づくりしたりするなど、手を動かすことからクリエイションを導く山副。Hinote™のアイコニックな図案となるBonfireやBranchは、自ら拾い集めた枝を図としてレイアウトし、さらにそれをトレースしてグラフィックへ落とし込んだ。そんなプロセスを経た図案からは山副のユーモアが感じられる。
このプロジェクトの動機となった、生活のなかに「グラフィックデザインの居場所をつくる」こと。今回、身近なプロダクトであるクッションをつくるなかで、あらためてグラフィックデザインがどのように日常へ作用していると感じたか、その手応えを聞いた。
「お店のロゴやイベントのポスターなどもそうですが、グラフィックデザインには、対象とする物事の特徴や性質を視覚情報に置き換えることで、その空気感やムードを伝える役割があります。Hinote™の図案はあくまで柄であって絵ではない。お皿などの民藝的な絵付けのように、主張しすぎず、生活をささやかに彩る存在になると思います。また、僕が日々の暮らしで得たインスピレーションを図案に起こしているので、日常のふとした瞬間に目に入り、何かのアイデアや思わぬ会話の種になったりすると嬉しいですね」と山副は話す。
現在発表されているコレクションは、引き続き不定期で受注制作を続けていく。また、今後も新しい図案を用いたクッションや、刺繍とグラフィックデザインを掛け合わせたプロダクトを展開予定だという。
暮らしに自然と溶け込むデザインと、使う人の感情に寄り添う素材感。デザインと生活の新しい関係性を築きながら、その可能性を広げるプロジェクトは、私たちに新鮮な気づきを与えてくれる。
Hinote™
Web:https://hinote-online.myshopify.com/
Instagram:@hinote_embroidery_products