2023年も終わりに近づく12月26日(火)と27日(水)、大阪・九条にあるシネ・ヌーヴォにて、年末恒例となる特集上映「小田香作品集」が開催された。今年は、代表作『鉱 ARAGANE』『セノーテ』に加え、小田が近年アートプロジェクトを通して制作した、劇場初公開作品がラインアップ。青森県立美術館が、地域とアートのつながりを生み出す「堆肥」となることを目指し、2021年から行っているアートプロジェクト事業「美術館堆肥化計画」で制作された2作品『これるおん 27 sep – 5 oct』『ホモ・モビリタス』。そして、とよなかアーツプロジェクトのリサーチ企画から生まれ、山形国際ドキュメンタリー映画祭2023でも話題をさらった最新作『GAMA』の劇場初上映3作を含む、計5作が2日間で上映された。
本記事では、2日目の上映『セノーテ』『GAMA』と、上映後に行われたトークショーの様子をお届けしたい。
上映開始の5分前、劇場に入り、観客席を見渡すと、幅広い年齢の人々で満員だった。さまざまに期待をもって、映画館を訪れたことがうかがえる。
1本目に上映された『セノーテ』の舞台は、メキシコ・ユカタン半島北部に点在する、セノーテと呼ばれる泉。現地の人々の語りや風景、生活の営みを、水中と地上をたゆたいながら、過去と現在の記憶を織り重ねるように表現した映像作品だ。
そして、2本目の『GAMA』は、「沖縄の地下の記憶を捉える」という試みのもと制作された映像作品である。沖縄に何千とある鍾乳洞「ガマ」や、平和の語り部である松永光雄さんが、沖縄戦を語る姿の記録から構成されている。
映像には、行ったことがない場所、知らない人々の顔や声、風景、生活が写っていた。『セノーテ』そして、『GAMA』どちらも人々が生きた「記録」であり同時に「作品」である。その美しさに圧倒されながらも、暗闇のなかで首を持ち上げてスクリーンから目を逸らさずにいると、自分の意識や身体と、映像のなかとの境界があいまいになる感覚に。遠くのこととして、目を向けたり、聞くことのなかった過去が、今、生きている私の「記憶」として目の前に立ち上がるようだった。
上映後のトークでは、作品の制作背景についても語られた。なかでも印象に残っているのは、最新作『GAMA』において、「沖縄」を撮ることへの気構えるような心境と、そのなかで出会った、劇中にも登場する松永光雄さんへの想い。小田監督は、松永さんが自分たちに見せてくれるもの、会わせてくれる人たちを映画として再構築しよう、という目標のもと完成できたと、松永さんへの感謝を語っていた。
およそ10分のトークを経て、観客からの質問タイムに移る。作品や沖縄のガマについて、大人からの質問が続くなか、ひとりの少女からある質問が投げかけられた。
「なんで、めーっちゃ昔のことをしゃべってるの?」
小田監督は、答えた。
「あのおじさんが映画のなかで話していることって、今から80年くらい前のことなんですね。あなたにとっては昔々のお話と思われるかもしれません。だけど、これは今にもつながるお話で。沖縄は、日本で唯一、兵隊さんたちが地上で戦った場所なんです。それで、沖縄には今もアメリカの基地があったり、たくさんの問題がずっと続いてきたりしている。だから、私は、昔のお話だけど、今のお話として向き合って、映画を撮りたかったのかなって思います」
このやりとりを聞き、小田監督の作品の核となる部分に触れることができたような気がした。
シネ・ヌーヴォは、一歩足を踏み入れたら別世界に行けるよう、まるで水中に潜るような印象を与える「水中映画館」をコンセプトにはじまった映画館だ。ここで、小田監督の作品に出会えたこと。暗闇のなか、スクリーンを見上げて映像を見つめる体験は、まるで水底から光を探すように、かつてあった過去や遠くのまなざしを現在の私たちが手に入れることができることのように感じる。上映後の会話の時間もあわせて、いくつもの場所や時間、人々が交差するとても濃密な時間だった。
日時:2023年12月26日(火)、27日(水)
会場:シネ・ヌーヴォ
関連プログラム
舞台挨拶
日時:2023年12月26日(火)『ホモ・モビリタス』『これるおん』19:15上映回前
トークショー
日時:2023年12月27日(水)『GAMA』19:30上映回後登壇:小田香