梅田に新しいローカルメディアが生まれるらしい。そして、それについて言葉を交える座談会が実施されるという。その名も「梅田の! ローカルメディア座談会」。主催は阪急電鉄株式会社と、地域資源や場所、人をつなぎ合わせて場づくりやソーシャルデザインを手がける株式会社ここにあるだ。
正直、「梅田のローカルメディア」というワードに少し違和感があった。たとえばそれが、中崎町、谷町六丁目、昭和町などであるなら、なんだか想像しやすい。暮らしとそれに伴う文化がまちに染み出している……そんなイメージが浮かんでくるからだ。
一方梅田は、最近でも開発がガンガン進んでいる。2週間ほど旅行に行って戻ってきたら、地下街のつくりが変わっていて、「ここはどこ」状態になったこともある。個人的には自分の生活圏でよく立ち寄るし、都市部のなんばや心斎橋、天王寺よりも身近なまちだ。でも梅田に「まちの色」みたいなものを感じたことがなかった。
座談会の目的は、ローカルメディアを運営するための土壌を耕すこと。独自の活動をしているローカルメディアの編集者や執筆者などが登壇する。会は2024年2月11日(日)、28日(水)、3月10日(日)の3回にわたって行われるが、どんな話題が出てくるのだろうと、私は初回に足を運んだ。
「10年越しのプロジェクト、このエリアをどう耕していくか?を考えていけるようなオープンな場にしたい」と切り出す、モデレーターの株式会社ここにある・藤本遼さん。それを受けて、今回の企画運営の主体となる阪急電鉄株式会社・永田賢司さんが、「消費されない、消費を促すだけではないメディアを育てていきたい」と話した。
座談会は、まずローカルメディアとは何か?という問いかけからはじまる。地方をベースに新しい“ふつう(Re:Standard)”を体現する編集活動を続けてきた有限会社りす・藤本智士さんは、マスメディアの対義になるものかなと定義する。そして、「まずは、メディアっていうものを遠くに置かず、自分たちの側に引き戻すことが大事だと思う」「まちを俯瞰して見ること。地域にあるものを生かすのが僕たち編集者の仕事。メディアを通して、地べたから動かしていけるチャレンジになれば面白そうだ」と続ける。
島根県で会員制の年刊誌『みんなでつくる中国山地』(本誌のトークイベントを取り上げたレポート記事はこちらから)を編纂している田中輝美さんは、地方と都市部を比較に挙げ、「島根県は過疎の先端の地域として面白い取り組みがたくさんあります。まず自分たちが共有できないと、外からきても説明できません。自分たちのなかで面白さを知り合うために『中国山地』を運営しています。梅田の場合は、それとは視点が異なっていて、住んでいる人のためのメディアではないというのは、都市の可能性や新しいチャレンジかもしれないですね」と話した。
はじめて梅田について考える。元々湿地帯だったこのエリア。江戸時代に稲作のために湿地が埋め立てられた土地は、「埋田」と呼ばれるようになった。鉄道建設のために、1874年に大阪駅が開業した頃も、駅の周辺は田園地帯だったという。
まわりに座った参加者との意見交換の時間もあり、「梅田って仮想空間みたいだ」という話題も出た。梅田は憧れや欲望が生み出した、空想のまちのような気がする。たとえば、東京も、東京生まれ、東京育ちの人がつくり上げたまちではない。梅田にもそれに似たものを感じるのだ。
なるほどなーと興味深かった。確かに、キラキラした高層商業施設が立ち並び買い物に精が出る。お腹も満たされる。とりあえず待ち合わせは「梅田にしとこっか」というような、ある程度なんでも揃った、ここを起点に動き出していく交差点のような場所だと思った。
藤本智士さんが、福原義春著『文化資本の経営』(文化資本研究会、1999年)に書かれている「文化資本は目に見えない」という一節を挙げて、「目の前に実存しないものがビジョンや夢。ビジョンなき開発はないので、ビジョン先行型のメディアであればいいと思う」と語った。それを受けて田中輝美さんは、「歴史、人々の営み……梅田らしさとは何か?を問い続けるべき。誰に向けて、なんのためにつくるのかという軸がブレないことが大切」と続けた。
まだメディアの軸がないからこそできる議論は、自由そのもの。いろんな問いと対話が生まれて、大事なキーワードがバンバン飛び交っていた。まちを捉える感覚、メディアを編集していく上での目線、ブレてはいけない軸など、幅広く考えさせられる会だった。おそらく、参加されている人でメディアや編集に携わっていたり、興味があったりする人には大いに参考になったんじゃないかと。対話って重要。
「人が集まってつながり、それが循環するという、活動そのものがローカルメディア的な意味合いがあるのではないか」と藤本遼さん。「単に検索して受け取れる情報だけではなくて、メディアを通して体験していく必要があると思う。それをシェアしていく感じ? たとえば200人のプレイヤーや書き手が、活動を通して生まれていくということなのかなと。これからもこういう場を通して、一緒につくっていけるといいなと思います」と締めくくった。
来期以降も続いていくローカルメディア醸成イベントは、これからまだまだ盛り上がっていきそう。とりあえず私は今回参加して、梅田に対して興味をもつことができた。まちを深掘りするための第一章、はじまりはじまり。
1「ローカルメディアってなんだろう? 地域をカルティベイトする(耕す)メディアの役割と広がるローカルメディアの概念」
日時:2024年2月11日(日)14:00〜16:30
会場:グランフロント大阪「うめきたSHIPホール」2「記事作成は大喜利? そこにあるものを別の視点で眺めてみる力と孫力(まごりょく)について」
日時:2024年2月28日(水)19:00〜21:00
会場:大阪新阪急ホテル「星の間」
3「わたしのローカルはどこにある? 長野で切り開く多様な「ローカルメディア」と、全国の事例から見える「ローカルメディア」の現在地とこれから」
日時:2024年3月10日(日)14:00〜17:00
会場:OSAKA FOOD LAB