大阪を拠点に活動する芸術活動体・孤独の練習の新作パフォーマンス『モンタージュ』が、京都にあるギャラリー、The sideで2022年7月24日(日)に上演された。2021年に発表された前作『柔和なニューワールド』舞台映像上映付きの13:00の公演回と、新作の追加上演として行われる17:30の公演回があり、筆者が参加したのは後者。上映を鑑賞することは叶わなかったが、急遽行われることになった上演後の座談会に参加することができた。
『モンタージュ』は、大きな特徴として、暗転した状態で行われるパフォーマンスを、来場者自身がペンライトで客席から照らし鑑賞する手法がとられていた。観客は自由にペンライトを付けたり消したりしてもよいが、ひとつだけルールが設けられており、同時に点灯するペンライトは2つまで。3つ目が点灯すれば誰か1人は消さなくてはならない。自らが舞台を照らす権限を持つことはワクワクするような体験だったが、自分以外の観客による“照らされ方”を受容することが求められ、ある種の「忍耐」の体験でもあった。また、構成・演出の平野舞が時折照射する、観客よりもひと段階明るいペンライトの光には作為が感じられ、観客より「上位の」「強い」ライティングとして演出がなされた、という印象を受けた。平野の意図としては、薄暗い時間が続くことにより公演へ集中できなくなる懸念(観客の持つペンライトはすこし焦点がぼやけるような弱めの光源だった)を踏まえ、中盤の時間帯に俳優の表情を一瞬見せることで、終盤まで想像力が維持しやすくなるのではないか、と考えての演出であったという。
公演タイトルの『モンタージュ』は、複数の視点をつなぎ合わせたその劇空間の見せ方自体を指しているのだと思ったが、それよりももっと大きな、政治性を含んでいるようだった。相容れない(かもしれない)他者と突然場をともにし、時に協働しつつも、その対立や違和感のような感情をも包摂するような、定義以上の意味合いを感じさせるものであった。
劇中では、台詞はほとんどない。印象的だったのが、吹田市内で発見された不発弾に関するニュースを読み上げたものである。公演当日の7月24日(日)はこの不発弾の処理のため、JR西日本の大阪〜京都間は午後から運休していた。関西圏から京都の会場へ向かう者の多くが耳にしていたニュースであり、それが突如舞台から投げかけられることで、モンタージュによるフィクションが、急につぎはぎだらけの現実として、目の前に立ち現れた。
上演後の座談会には、上述の平野、音楽・音響の佐藤武紀、出演の大石英史、升田学、松永理央に加え、13:00の公演回のトークセッションのゲストである筒井潤も参加。観客は平野による制作意図を知る機会になるとともに、観劇への感想を求められることとなった。観る者によっては、共同作業が心地よいと思ったかもしれない。「演者を照らさなくては、という使命感のようなもので照らし続けた」と語る参加者もいた。筆者はというと、何も見えない時間がもっとあってもよいのではないかと感じたり、各々のばらばらの感情をつなぎ合わせることの困難さを覚えたりした。こうしてさまざまな観客の意見を聞けたことは、本公演のもうひとつの醍醐味であったようにも思う。それぞれの思案に耳を傾けることが、翌日からの現実を生きるために必要な作業だと。
鑑賞者が手にする明かりは鑑賞者自身の視線を可視化します。
複数の明かりが存在することで1人では見えない景色が見えるかもしれませんし、
あるいは他者の明かり(視線)がノイズとして感じられる瞬間があるかもしれません。
体験的な鑑賞を通じて、個と個が集まることとは、他者とはどのような存在なのか、を考えてゆきます。
(孤独の練習Webサイトより)
2022年12月にTHEATRE E9 KYOTOで予定する本公演『アノニム(仮)』も楽しみに待ちたい。
日程:2022年7月24日(日)
開演:①13:00、 ②17:30 ※②は新作パフォーマンスの追加上演のみ
会場:The sideプログラム:
①13:00公演回
・舞台映像『柔和なニューワールド』上映
・トークセッション
・新作パフォーマンス『モンタージュ』上演②17:30 公演回(追加上演)
・新作パフォーマンス『モンタージュ』上演のみ
・座談会舞台映像『柔和なニューワールド』上映
公演日:2021年12月2日(木)~12月5日(日)
会場:大阪北加賀屋 音ビル1階 ガレージ・スペース
撮影・編集:藤原 成史(soe)トークセッション
登壇:平野舞
ゲスト:筒井潤新作パフォーマンス『モンタージュ』上演
出演:大石英史、升田学、松永理央
構成・演出:平野舞
音楽・音響:佐藤武紀
照明協力:吉本有輝子(真昼)座談会
登壇:平野舞、筒井潤、大石英史、佐藤武紀、升田学、松永理央