大阪と東京の2拠点で活動する劇団・南極ゴジラの2回目の本公演『ホネホネ山の大動物』が、大阪市立芸術創造館にて2022年4月29日(金)、30日(土)に上演された。
本公演のモチーフは、19世紀末の「化石戦争(Bone Wars)」。恐竜の化石発掘をめぐり、2人の古生物学者がグロテスクな競争を繰り広げた史実がもとになっている。
これは二人の古生物学者が火花を散らし合った醜く愛しい戦争のお話。
さかのぼること100年。
世界はダイナソーラッシュと呼ばれる化石発掘の黄金期を迎えていました。幼少期より自然の摂理に興味を持ちながら裕福な家庭で育ち、偏屈な古生物学者になった星干男(ほし・ほしお)。貧しい農家に生まれ泥にまみれながら勉学に励み、こちらも負けじと偏屈な古生物学者になった九輪九作(くーろん・きゅうさく)。はじめ友人だった二人はやがて対立し、お互いの研究の邪魔をしたり、化石を取り合うようになります。片方が雑誌を買収すれば、片方はその辺の部族を洗脳。もはや研究なんてどうでもええねん。電流びりびり落とし穴に、ダブルスパイに、恐怖の幽霊攻撃。多くの人を巻き込みながら争いはどんどんエスカレート!
しかし、この戦争はある日突然ぷっつりと終わりを告げます。事故が起こったからです。後に“化石戦争”と呼ばれることになるこの騒動は「130種の新種発見」という大きな貢献を科学界に残し、反対に私たちから、何を奪うことになったのでしょうか。
(南極ゴジラWebサイトより)
『ホネホネ山の大動物』戯曲はこうはじまる。
この物語は、19世紀末にアメリカで実際に起こった〝化石戦争〟をモデルにしています。ただ、めちゃくちゃ脚色したので実話とはもう、まったく異なります。
劇中では、「星干男」と「九輪九作」というフィクションでしかあり得ないような名前の人物が登場し、関西弁の強い言葉で罵倒し合う。その力のこもった会話劇は、恐竜という未知のロマンを追った人間が放つ、ナイーブさと泥臭さの両面をさらけ出す。
星干男は、冷血動物症という病気(雪山では爬虫類のように体温が下がってしまう病気で常に錠剤を常備している)に罹っており、薬を飲むと死者と対話できるという設定。天使の輪っかをつけたキュートな亡霊たちも現れ、饒舌に語り出す。目には見えない亡霊に恋をし求婚する恐竜学者も登場する。随所に現れる恐竜に関する突っ込んだ知識は、史実とはまた別の事実なのかもしれないが、恐竜への偏愛を感じさせるものだ。
南極ゴジラの劇団員は9人+「1台」。俳優たちの会話劇を1台のカメラが追いかけ、時にプロジェクターにその場で撮った映像を映し出しながら劇は展開していく。たとえば、九輪が化石を発見し、学会で発表しているところが撮られて投影されれば、カメラは情報伝達媒体としてのメディアに変貌する。また、俳優たちが電車に乗り込み、電車が山あいを走り出すシーンでは、舞台セットの隅に並べられていたおもちゃの線路と機関車の回る姿がプロジェクターに映し出され、その巨大化した動くジオラマが臨場感を加える。
これら随所に見られる楽しい仕掛けによって、観る者は南極ゴジラがつくり出す魅力あるフィクションに引き込まれていく。恐竜の時代から、人間による発掘の時代へ、そして現代へ。圧倒的スケールのなかで史実と自らの観劇が結びつき、最後の台詞に、私は胸が熱くなった。
つまり何が言いたいかというと。二人の男がいて、二人は高校で出会って、日が落ちるのも気づかずにしゃべったり、お互いの宝物を見せ合ったりして、11年後、二人はそれぞれ古生物学者になって、一人が死んで、その11年後にもう一人も死んで。その1億一千万年前には一体の、巨大な恐竜が、朝日を見たり、ただひたすらに歩いたりして、ある日、石につまずいて転んで、そのまま川の水に呑まれて死んで、死んだ骨は化石になって、見つかって、掘り起こされて、磨かれて、大英博物館に飾られて、その台座の表札には、こんなことが書かれています。「ブロントサウルスは、九輪九介と星干男が発見した。寄贈:九輪微熱」。
2020年に生まれた新しい劇団「南極ゴジラ」の躍動感ある舞台にこれからも注目していきたい。
日時:
2022年4月29日(金・祝)15:00/19:00
2022年4月30日(土) 12:00/16:00会場:大阪市立芸術創造館
作・演出:こんにち博士
キャスト:こんにち博士、瀬安勇志、TGW-1996、端栞里、古田絵夢、ユガミノーマル、和久井千尋(以上、南極ゴジラ)、愛里(ハコベラ)、南岡萌愛、ミワチヒロ
作曲・ピアノ演奏:瑠香(南極ゴジラ)
ギター演奏:ますこ
パーカッション演奏:U乃
照明:渋谷日和(悪い芝居)
フォトグラファー:金子仍