アルゼンチン、韓国、日本と異なるルーツをもち、さまざまなパーカッションや伝統楽器をこなす3名の気鋭の音楽家が一堂に会して、“それぞれの音楽的素材を解体し、再度織り込む事により生まれる音の再発見”をコンセプトに“民族的で未来的な音”を創造することを目指した実験的音楽パフォーマンス=SOUND REDISCOVER。
これまでに多重録音などを駆使したソロ作も複数リリースし、民族打楽器と現代音楽の融合に可能性を見出した活動を続けるマルチ打楽器奏者のパブロ・ラ・ポルタ、在日コリアン三世で舞踏家・田中泯との二人会なども行いながら国内外で多彩に活躍する韓国太鼓演奏家のチェジェチョル、そして日本を代表する太鼓芸能集団として知られる鼓童での活動を経て、現在はパフォーマンス集団=ANTIBODIES Collectiveや日野浩志郎を中心に結成されたリズム・アンサンブル=goatなどで活躍する篠笛/打楽器奏者の立石雷。そんな3者が曲ごとに演奏する楽器やフォーメーションを変え、アイデア豊かなアプローチで繰り広げたステージは、民族音楽や現代音楽はもちろん、ミニマル音楽、アンビエント/ニューエイジ、フリー・ジャズ的な要素なども感じさせながら、起伏に富んだ展開でNOON+CAFEに集まった聴衆を圧倒した刺激的なセットとなった。
世界中のさまざまな打楽器、マリンバのような鍵盤打楽器、スティックなどで弦を叩いて音を出す打弦楽器などがセッティングされたステージ。オープニングのセッションでは3人に加えてモロッコのグナワで使われる鉄製カスタネットのカルカベのような音色の楽器を鳴らすメンバーが参加した。終演後に立石に尋ねてみると、そのメタリックな響きで異彩を放っていた楽器は、青森冬の三大まつりのひとつとして知られる「八戸えんぶり」で使われる鉄製の打楽器とのことで、冒頭から意表を突かれた。
続いて、パブロがステージ中央に置かれたタブラに移動。チェが韓国の太鼓を打ち鳴らし、立石がエフェクトなどを使ってシンセっぽい音色も繰り出す篠笛で加わる無国籍なサウンドを響かせると、細かいタンギング、ブレス音を交えた篠笛の演奏にダブ処理などを施した立石の幻想的なソロを挟み、ソリッドなフリー・ジャズ的展開へ。その後も、多種多様な打楽器の数々を組み合わせてつくられたドラム・セット、親指ピアノなどをカラフルに駆使するパブロ、両面太鼓のチャングを担いで力強いビートを叩き出すチェ、ジョン・ハッセルに通じるようなアンビエント/ニューエイジ調の音も重ねて原始と未来が交錯する“第四世界”的なテイストを加味する立石が即興的に絡み合い、単なるパーカッショニスト同士のセッションとは次元が異なるサウンドを変幻自在に繰り広げていった。
後半は、チャルメラのような音色のリード楽器、小型のドラのような韓国のケンガリ、さらには鼓童のメンバーが考案したという鉄製のタライに棹を付けて一弦を張ったオリジナルの打弦楽器なども駆使しながら、よりアフリカ、アジア、中東、南米などあらゆるエリアの音が混在したインパクトの強い音世界へ。立石が日本の笙にも似たタイのケーンを吹き、ゴング類が打ち鳴らされると、本編のクライマックスには会場の後方からチェが強靭なチャングを叩きながら現れ、ワイヤー付きの帽子の先に取り付けられた長いリボンを回しながら鮮やかに舞う韓国舞踏=ヨルトゥバルを披露。
エクスペリメンタルな音の連続から一気に祝祭感を増した大団円で、濃密なステージを締めくくった。アンコールでは、パブロがルーパーを使いながら多種多様な打楽器、親指ピアノ、ピアニカや歌も重ね合わせてミニマルかつポップな音を構築していくセットも聞かせ、三者三様の個性を放ちながらも伝統的な音楽のなかにフレッシュな響きを見出そうとする才人たちの邂逅に立ち会えた貴重なステージだった。
吉本秀純 / Hidesumi Yoshimoto
大阪市在住の音楽ライター。同志社大学在学中から京都の無料タウン誌の編集に関わり、卒業後に京阪神エルマガジン社に入社。同名の月刊情報誌などの編集に携わった後、02年からフリーランスに。ワールド・ミュージック全般を中心に様々な媒体に寄稿している。
SOUND REDISCOVER Japan Tour 民族的で未来的な音
日時:2024年4月22日(月)19:00開場、19:30開演
会場:NOON+CAFE
料金:
大人 前売3,500円、当日4,000円(前売、当日ともに1ドリンク別途要)
小中学生 1,500円(前売、当日一律)出演:パブロ・ラ・ポルタ、チェジェチョル、立石雷