美術家・谷内一光による個展「谷内一光時代 あしたもきっとたのしいからね」が2022年4月29日(金)〜5月15日(日)にかけて玉造のiloiloで開催された。「谷内一光時代」は谷内が専門学校在籍中の2005年より継続的に行っている絵画展。2015年に行われた30回目の「谷内一光時代」以来7年ぶりの開催となった。
会場となるiloiloは2013年に谷町四丁目で開業、その後中津に移転し、2021年に玉造の長屋で新たに再スタートした店。旬の野菜を豊富に使ったさまざまなテイストのスパイス料理のワンプレートiloilo Mealsが展示期間も2階の客席で提供され、店舗の一角にはインド・モロッコなどのさまざまな雑貨が取り扱われていた。専門学校時代の知り合いの縁でさまざまな会場で絵の展示を行うようになったと言う谷内だが、今回のiloiloでの展示も、数年前にたまたま出会った店主のサポートにより、実現したようだった。谷内の代名詞ともいえる「谷内一光時代」という展示の現在とこれまでについて、展示会場のiloiloで谷内本人に話を聞いた。
展覧会タイトルにある「あしたもきっとたのしいからね」は谷内が毎晩、家族と寝るときに交わす言葉で、「あしたもきっと楽しい。だから安心してお休み」という想いが込められていると谷内は語る。絵本からとび出したような自由な筆致のイラストに平易な言葉がときおり添えられているのが近年の谷内の作品の特徴だ。「Instagramとかで今描いてる作品をアップしながら、日めくりカレンダーは現在進行形で2年以上続けています。今回の展示では、描いた作品で気に入ったものがあればドネーションで持ち帰ることができるようにしています」。2020年より日めくりカレンダーを毎日SNSに発表するなど精力的な活動を再開した谷内。隙間を塞ぐように会場の壁一面に作品が敷き詰められ、2年分の日めくりカレンダーの束が入口近くのテーブルに積み上げられていた。事前の告知では作品点数が100枚とアナウンスされていたが、ひとつの束だけで優に100枚を超え、結果的に700点以上の作品が会場に用意されることになった。1枚1枚の作品が集まることで生み出されたそのボリュームには、作家が着実に成し遂げてきた日々の営みが反映されている。積み重ねられた年月が平面的に、立体的にかたちをもって実現されている。
「嬉しいことに、時間をかけて日めくりカレンダーをすべて見てくれる方もいます。昨日もはじめての方だったのですが、誕生日、記念日と見ていって、最終的には15枚ぐらいまとめて選んでいただき、ドンとドネーションを置いていってくれた方がいます」。展示期間の印象的な出来事について谷内はこのように語る。「ドンということが重要ではなく、どうあれ、作品を持ち帰ってもらって、人の家に作品があるというのが今は大切なことだと思っています」。
作品を描く紙にもこだわりがあった。「紙は画材屋で買っています。毎日ドローイングするというルールなんで、置いていてバラバラにならなくて、メモ帳みたいに小さくなりすぎないもの。それで、今のサイズが決まりました。カレンダーなんで、数字がはっきり見える大きさで、ある程度持ち運びできるような厚みの紙です。色が白すぎると眩しすぎるので新聞紙のような色合いの紙を選びました」。
展示会場は人の縁で見つけることが多いが、そもそも絵の道に進んだきっかけも人とのつながりによるものだった。「単純に絵が好きで、小学校のときに祖母やいろいろな人から褒めてもらった経験というのが一番の根っこにあります。専門学校に入ったのも、友だちや周りの方々がきっかけです」。高校時代に進路をどうするか悩んでいた谷内に、専門学校を薦めたのは同級生のひとりだった。在学中に絵の個展をはじめると、アーティストの友人に誘われてニューヨーク、ウィーン、メルボルン、シドニーなどの国外の街でも作品を発表した。2009年、ウィーンのドナウフェスティバル(Donaufestival)に出演した際、楽屋で好きなテクノアーティストのAphex Twinに絵を見てもらう機会を得た。本人から直接「クール」という感想をもらい一緒に写真も撮ったが、その旅の最終日にデジカメを紛失した。
谷内が語るエピソードは作品と同じようにエネルギーが満ち溢れ、偶然の出会いを喜び、ときにユーモアが顔をのぞかせる。「以前お世話になっていたギャラリーオーナーがある日『漂流の画家だね』と仰ってくださって、すごくしっくりきたのを覚えています。これからも美術の海をただ漂って、漂流を続けていられたら幸せなことです」。
谷内一光展「谷内一光時代 あしたもきっとたのしいからね」
会期:2022年4月29日(金)〜 5月15日(日)
会場:iloilo
時間:12:00〜17:00
休業:5月2日(月)〜5日(木・祝)、9日(月)
大阪市東成区中道3ー16ー2