スイスを代表するバッグブランド「FREITAG」。1993年、フライターグ兄弟により創設されたFREITAGは、トラックの幌を再利用したメッセンジャーバッグで一躍有名になった。使い古された素材を創造的に再利用する「アップサイクル」のパイオニア的存在として、これまでにバッグ、アパレル、アクセサリーなど、約90ものシリーズを発表している。
2019年12月20日、FREITAGの関西2店舗目となる直営店が京都にオープン。今回paperCでは、来日したFREITAG創設者のマーカス・
前回に続き、その様子をレポートしたい。
吉行さんお気に入りのプロジェクト
ー form (for ataWlone 2018 at ataW Fukui Japan) ー
マーカス:さあ、そろそろ吉行さんお気に入りのプロジェクトの話を聞いても良いかな?
吉行:そうですね、咄嗟に聞かれると難しいものですね。いまお見せできるもののなかでは、と前置きしても良いですか?
マーカス:OK。一番ではないかも知れないけどっていうことだね(笑)
吉行:これは2018年につくった「form」という作品で展覧会に出品したシリーズです。福井県越前市のセレクトショップataWが主催した、“地場産業を軸としながらデザインがもつ可能性を探求する”という趣旨の展覧会で、越前和紙をモチーフにしたオブジェとドローイングを制作しました。僕、アートプロジェクトを見るのは好きなのですが、自分で考えるのは緊張して悩んでしまいます。そんな自分に何ができるだろう、和紙でどんなことができるだろうと考えながら、和紙職人さんにアドバイスもらいながら手を動かすことで出てきたのが、このオブジェクト。和紙の原料となる繊維や糊をそのまま素材にしています。
マーカス:なるほど。不思議な素材だと思ったけど、これは紙でつくられているんだね!
吉行:プロセスを見ていただくとわかりやすいと思います。まず、和紙の原料となる繊維を糊と水で溶いてドロドロの状態になったもので、土台となる紙に絵を描くように構造体のイメージを描きます。これね、繊維をしっかり定着させていくために、小さな点と点をつなぐように線を描いていくので、無茶苦茶時間がかかる作業なんですよ。和紙が乾いたら土台の紙から剥がし、描いた構造物の端と端の辺を糊でつないで立体として自立させます。
マーカス:つまり、平面に描いたものがそのまま立体になる。平たくいえば、アナログな3Dプリンタだね。素材を切り出したりするわけじゃないから資源の無駄も少ないし、僕もこのアイデアが気に入ったよ。
吉行:そうそう、まさに3Dプリンタみたいなもので、平面に描かれた線がそのまま立体の構造になるわけです。
マーカス:描いた構造物にはモチーフがあるんですか?
吉行:いつものように素材・製法、使い勝手などから探った形ではなく、単純に頭に浮かんだ形です。紙は柔軟性があり軽いため、ほかの素材では成立しない構造でも自立させることができます。だから、こんな形があったらおもしろいのでは? という架空の構造物を頭のなかのイメージだけで描いています。抽象的な形を展開図として描くので、実際に土台から剥がして立ち上げたときに想像していたイメージと違うものになることもありますね。
マーカス:なるほどね、この紙のサイズ(A4用紙)だけじゃなくて、もっと大きなサイズでつくってもおもしろいんじゃないかな?
吉行:そうなんですよ! 僕もそう考えて大きなサイズのものも作成したのですが、納得のいくものになるまで、苦労しました。まず、土台に描いていく作業はものすごい時間がかかって大変。それなのに立ち上げた瞬間、全然ダメ。サイズが大きくなるとオブジェ自体の自重でたわんでしまうし、自重を支えるためには小さなものと比べると線を増やしたり、太くしたりする必要があります。だから、思い描いた良いシェイプやボリュームの立体ではなく、気持ちの悪いものになってしまったんです。
マーカス:その気持ち悪さって、最初にテーブルで説明してくれたフォルムとサイズの問題だよね。僕にもその感じがすごくよくわかるよ。この作品の場合、平面から立体に立ち上がる瞬間に良し悪しがはっきりとわかりそうだけど、だからこそおもしろさもあるよね。目の前にあるもので何ができるのか、イメージを実現するためにどうしたら良いのか、実際にやってみてどう修正できるのか、そんなふうにクリエイティブすることは最高に楽しいことだと思う。
STUDIO VISITを終えて
マーカス:今回、吉行さんのスタジオに来て、とても良いインスピレーションをもらったよ。僕たちが普段頻繁に出入りするマーケットやブランドショップには、完成品しか並んでいないけど、たとえば、美術館に行くと作品のプロセスや人の思考が見えることがあるよね? 今日のスタジオ訪問にも美術館と同様の楽しさがあった。人の仕事場にはさまざまな制作段階のプロジェクトやときには失敗作もあるから、吉行さんの話を聞きながら自分ならどうするかを考えることで、たくさんのアイデアが浮かんだよ。
吉行:僕にとっても貴重な経験になりました。ご自身のプレゼンはもちろん、僕のプロジェクトについての受け応えの端々から、マーカスさんがFREITAGの製品に対して批評性をもって携わっていることが感じられ、すごく良い時間を過ごすことができました。
マーカス:今回の訪日は、FREITAG京都店のオープニングのためだけど、実は京都店にも今日と同じような体験ができる仕掛けを用意しているんだ。店舗デザインのコンセプトは「物流」。京都は日本人だけじゃなく世界中の人が集まる街だから、FREITAGのバッグがスイスから京都へ、京都から世界へと旅をする。まさに物流拠点。その店舗の一角につくったのが、FREITAGにとって初めての試みとなる「DIYコーナー」。FREITAGのバッグの生地の切れ端と工具類、簡単なコインケースなどの型紙も用意していて、誰でもDIYができるようになっている。僕たちのバッグを眺めながら自分ならどうするか? そうやってクリエイティブに楽しむための仕掛けだね。吉行さんのスタジオで僕が体験したような刺激的な経験を、FREITAG京都店でたくさんの人に感じてもらえたらいいな。
HOST
吉行良平 / Ryohei Yoshiyuki[プロダクトデザイナー]
オランダへ渡り、Design Academy Eindhoven 卒業、Arnout Visser のもとで研修を積み、「吉行良平と仕事」設立。国内外のクライアント、製造会社、職人と協働で家具やマスプロダクトの設計を中心に行う。手を動かし実験、検証を繰り返しながら、あるべき色、形を探る。
吉行良平と仕事 http://www.ry-to-job.com/
Oy http://oy-objects.com/
VISITOR
マーカス・フライターグ / Markus Freitag[FREITAG創設者]
1970年生まれ。スイス・チューリッヒ郊外に生まれ育ち、空間デザインのデザイナーとして活動する。1993年、自身と同じくデザイナーをしていた弟のダニエル・フライターグとともにFREITAGを設立。自分たちがデザインのラフを持ち運ぶためのバッグとして、トラックの幌、自転車のタイヤチューブ、車のシートベルトをアップサイクルしたメッセンジャーバッグを考案。現在、世界11カ国で26店舗の直営店を展開。年間約70万点の商品が世界中のユーザーたちを魅了している。
FREITAG https://www.freitag.ch/ja
FREITAG STORE KYOTO https://www.freitag.ch/ja/store/freitag-store-kyoto
〒604-8113 京都市中京区井筒屋町400-1
075-708-3693
kyoto@freitag.ch
営業時間:11:00 – 20:00
定休日:不定