本特集では、ドキュメンタリーとフィクションの関係やその境界について向き合いました。それは、「事実」「作為」「理解」というような言葉の定義や、それらに付随する葛藤の輪郭をなぞっていくような作業であり、あらためてドキュメンタリーとフィクションの境界というものがいかに流動的で、相互的関係にあるかを感じています。 人が食べるという行為をインタビューを通して観察・分析してきた独立人類学者の磯野真穂さんとの対談では、他者を理解することについて言葉を交わしました。また、現代フランス哲学、芸術学、映像論をフィールドに文筆業を行う福尾匠さん、同じく、映画や文芸を中心とした評論・文筆活動を行う五所純子さん、そして、劇団「ゆうめい」を主宰し、自身の体験を二次創作的に作品化する脚本&演出家・池田亮さんの寄稿では、立場の異なる三者の視点からドキュメンタリーとフィクションの地平の先になにを見るのかを言葉にしていただきました。 対岸の風景を可視化していくこと、まだ見ぬ世界を知覚すること、その先に結ばれた像が唯一絶対の真実から開放してくれることを信じて。そして、今日もわたしは石をなぞる。 小田香 Kaori Oda ー 1987年大阪生まれ。フィルムメーカー。2016年、タル・ベーラが陣頭指揮するfilm.factoryを修了。第一長編作『鉱 ARAGANE』が山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波部門にて特別賞受賞。2019年、『セノーテ』がロッテルダム国際映画祭などを巡回。2020年、第1回大島渚賞受賞。2021年、第71回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。
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2020.08.25
#ART#CONVERSATION#EVENT#EXHIBITION#南堀江#大阪市

CONVERSATION
DELTA Experiment ー 若手ギャラリスト放談会 2/2

聞き手・文: 羽生千晶[MUESUM]

2020年8月28日(金)〜30日(日)、大阪・南堀江のTEZUKAYAMA GALLERYで、若手ギャラリストたちが主催する新たなアートフェア「DELTA Experiment」が開催される。大阪、東京、京都から、新進気鋭のギャラリーが集結し、若手作家の作品を中心に展示・販売。オンラインとの並行開催により、誰でも気軽に参加可能な次世代のアートフェアのかたちを模索する。

開催を間近に控えた8月15日(土)、paperCは、主催者である大阪・TEZUKAYAMA GALLERYの岡田慎平さん、参加ギャラリーから京都・FINCH ARTSの櫻岡聡さん、東京・LEESAYAの李沙耶さんによるオンライン放談を収録した。ギャラリストと作家の関係、作品売買の現在、アート作品を買うことの魅力など、普段あまり語られることのないギャラリストたちの本音が飛び交った。

CONVERSATION|DELTA Experiment ー 若手ギャラリスト放談会 2/2
[Installation view: TEZUKAYAMA GALLERY]タムラサトル「Point of Contact #7」2018年 Photo by Hyogo Mugyuda

ーーこれまでのお話のなかで、それぞれのギャラリーと作家の関係が見えてきましたが、ギャラリーの役割には、作品販売のほかにどんなものがあるのでしょうか?

岡田:展覧会をして作家の活動を発信するのが一番大事な仕事です。結果、購買につながっていくのですが、売れるからいい作品、売れないから悪い作品ということではありません。最近は、ブラウザ上で3Dビューイングができるようになるなど、それがスタンダードになるということはないと思いますが、鑑賞体験の裾野は広がっていく。そういったことにも敏感でありたいと思います。

李:それから、プロモーションや売買だけでなく、作家を美術史に残していくという仕事もギャラリーの大事な役割です。美術館に作品を収蔵してもらうこと、批評家に展評を書いてもらうことなど、多角的に作家の活動をアーカイブしていく。これは、コレクティヴであれば補える可能性はありますが、作家個人では一筋縄ではいかないことですよね。

CONVERSATION|DELTA Experiment ー 若手ギャラリスト放談会 2/2
「DELTA Experiment」の企画当初から櫻岡さんと李さんに声をかけようと考えていたという岡田さん。ふたりへさまざまな質問を投げかける。岡田さんの背景に映る画像は、関西を拠点にするペインター・厚地朋子さんの個展風景

岡田:おふたりは独立されています。売ることとアーカイブのバランスの取り方で意識されていることはありますか? それがギャラリーのカラーになっていくと思うのですが。

櫻岡:売買の話で言えば、100万円のものを1000万円にして価値を維持するためには、美術史に対するアプローチが必要になる。同時に、現代美術の本質が指すところは、美術史に記述されるか否かとも言えるので、作品をその周辺の環境ごとアーカイブすることは、作家活動の手伝いにもなる。だから、僕は売ることもアーカイブも、どちらも必要で、どちらも真であるというスタンスです。

李:そうですね。美術史にとって重要な作品をつくり続けている作家でも、売れているとは限らない。これは作品形態なんかでも左右されます。たとえば、規模の大きなインスタレーション作品は個人での購入・保存が難しいため、購入される方が美術館など大きな組織に限られることがあります。評価される作家でも、販売の機会が非常に少ないといったことが起きるんですね。作家にとっても、ギャラリーにとっても大きな課題のひとつです。そういう作家の作品が人の手に渡ると、とても嬉しいものです。

櫻岡:売買にしろ、アーカイブにしろ、作家は時間とお金があれば面白いことができる人たちだから、少しでもそのお手伝いができたら、という感覚ですよね。

李:そのうえで、ギャラリストとして売れるピース・売れないピースというよりは、作家の生活を考えながら付き合っていく。作品のコンセプトや制作、生活など、作家一人ひとりのバランスでお付き合いしていくことが大切かなと思っています。

CONVERSATION|DELTA Experiment ー 若手ギャラリスト放談会 2/2
CONVERSATION|DELTA Experiment ー 若手ギャラリスト放談会 2/2
上/収録日、LEESAYAに偶然居合わせた彫刻家の須賀悠介さんも顔を出してくれた。須賀さんは李さんがギャラリーを立ち上げる際、最初に声をかけた作家のひとり。画面からふたりの仲の良さが伝わってくる   下/「DELTA Experiment」に出品される須賀悠介さんの作品《Jailbreak_(arrow)》

ーー芸術の楽しみとしてポピュラーなのは展覧会を見に行くことかと思いますが、作品を見ることと買うことは、経験として何が違うのでしょうか?

岡田:やっぱり、作品を所有するって贅沢じゃないですか? 美術館やギャラリーで見る数分間と、家で毎日飾って見えてくるものは全然違う。同じ作品でも、毎日眺めていると見え方や解釈の仕方が刻々と変化していくので。作品が日常に溶け込んでいく感覚ーー鏡ではないけれど、買ったときを思い出したり、作品とその日の自分が重なって見えたり。それって、贅沢なことだと思うんですよね。あと、サポーターのように、好きな作家と並走する感覚は、買ってみないとわからないですね。もうひとつ言えば、部屋に飾っていると、アートに興味のない友人が「いいね」って言ってくれることがある。すごく嬉しいものですよ。好きな音楽や映画を人に薦めるのと同じように、美術でも感覚を共有することができます。

李:美術作品は生活を豊かにしてくれますし、もちろん気に入ってもらって大事にしていただきたいのですが、あえて言うならば、長い目で見たときに投資としても利率がいいです。美術作品の場合は、土地や証券のように価値が急落することはほとんどないですね。もし、買いたいけど高いしな〜と思っている人がいたら、想像してみてください。たとえば、買った作品が美術館の貸し出し要請を受け、海外の美術館に運ばれる。そこで、どうせなら美術館に飾られる姿を自分の目で見てみようと、現地へ旅に出る。そんなふうに、作品が別の場所に連れて行ってくれることもあります。

岡田:間違いないですね。

李:あとは、買う視点を持つことで、作品を観るチャンネルが増えるのは面白いと思います。自分の好みと比較しながら、パブリックな目が持てる。プライスリストを手に持ってドキドキしながら見ているうちに、家に飾っている情景を思い浮かべたりして。リアリティが湧いてきて、最高に面白い。

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櫻岡:おふたりが十分に話してくださったのですが、あえて加えるなら、“捨てられない”のも面白いところです。高価な車や時計でも、持ち主が捨てようと思えば簡単に捨てられますが、作品の場合は、個人の一存というわけにはいかないというか。たとえ若手作家の作品でも、作家や美術史が介在するため簡単には捨てられない。それがほかの買い物と違って面白いところかなと思うんですけど。

岡田:たしかに、絵画にしろ器にしろ、表現されたものを捨てるとばちがあたりそうですよね。小指を角にぶつけたりとか(笑)。

李:でも、捨てられている実情もありますよね。バブル期に建物の一部として購入された作品が、建物の取り壊しとともに処分されるなど。

櫻岡:そうそう。現実としては、捨てられている。最近、60年代の作品がどんどん出てきてるけど、作品と同時に発見された手記や手紙が捨てられることも多い。それも大切な資料なんですけどね。

CONVERSATION|DELTA Experiment ー 若手ギャラリスト放談会 2/2
CONVERSATION|DELTA Experiment ー 若手ギャラリスト放談会 2/2
上/[Installation view: FINCH ARTS] 谷本真理 「ごっこ?」2019年 Photo by Kai Maetani   下/FINCH ARTSから「DELTA Experiment」に出展される谷本真理さんの《pillow message》。今回、櫻岡さんが一押しに挙げる作品のひとつ

ーーたとえば、2018年にMoMAの館長グレン・ラウリィ氏が「作品を購入し続けることは現実的ではない」と発言していたように、美術館が収蔵品を抱えきれなくなっている現状もありますよね。作品の保管については大なり小なり再考せざるを得ないときが来ている。

李:そうですね。今、日本各地で80〜90代の方々が有志でやっていた戦争記念館が、尽く廃業に追い込まれています。行政が引き取るにも限界があるので、貴重な資料がどんどん処分されている。これは博物史的なお話ですが、美術館の収蔵庫の限界も同じでしょう。どうなっちゃうんでしょうね?

岡田:これまで話してきた作品売買とアーカイブのどちらの観点にとっても、非常に大きな問題です。現状では、美術館に収蔵されることがひとつのステータスですから。でも、足元を見てみれば、自分たちのギャラリーにも作品保管の限界があるじゃないですか。TEZUKAYAMAの場合はいくつかストックヤードがありますが、セカンダリーの作品が7〜8割を占めていて、取り扱い作家に割ける場所はごく僅か。いわゆるストレージ問題、みなさんはどうしてますか?

李:今は、必要以上のスペースは持たないようにしています。余裕が出てくるまでは、倉庫の維持管理で手一杯にならないように。

櫻岡:FINCH ARTSの倉庫も小さく、保管できるのは直近で使うものだけ。あとは作家に持って帰ってもらうのですが、運営的にもっと余裕ができたら、どんどん作品を預かりたいとは思っているんです。京都でギャラリーをかまえているので、東京と比較してメディアやマーケット、批評との距離があります。この環境で文脈をつくっていくためには、どこかで捨てられてしまう前に、作品と環境全体を残さなきゃいけない。本来は美術館の仕事ですが、ギャラリーが担わないといけない部分でもあると思っています。美術館と相補的なかたちでスペースが機能していくのが僕の理想ですね。

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 CONVERSATION|DELTA experiment ー 若手ギャラリスト放談会 1/1

TEZUKAYAMA GALLERYテヅカヤマギャラリー, 大阪 | Director: 岡田慎平
1992年、帝塚山にて開廊。2010年3月、現在の南堀江に移転。2014年4月、新スペース「Vieing Room」を増設、「Main Gallery」と合わせて年間約14本の企画展を開催。アメリカ、ヨーロッパ、アジアの現代作家の作品を取り扱いながら、日本の若手作家の活動も積極的に紹介。ギャラリースペースでは、取り扱い作家による個展、グループ展を企画。また、国内だけでなく欧米等の海外アートフェアにも積極的に参加し、日本の優れた作品を発信。多彩な展示と関連イベントで大阪のアートシーンを活性化するべく活動している。

FINCH ARTS(フィンチアーツ), 京都 | Director: 櫻岡聡
2016年京都・先斗町にてオープン。2019年に京都・浄土寺のArt Complex「浄土複合」に移転。ギャラリースペースでの個展や企画展を通して、関西の若手アーティストを積極的に紹介する。取扱作家は、黒宮菜菜、飯田美穂、水谷昌人、谷本真理、谷川美音、矢野洋輔、NAZE、前谷開など。

LEESAYAリーサヤ , 東京 | Director: 李沙耶
2019年10月に設立した 現代美術を扱うギャラリー。独自の表現を探求する若手アーティストを 積極的に紹介している。また同世代の様々なジャンルのクリエイターと共闘し、現代における表現の可能性について探り続ける。

DELTA Experiment

DELTA Experiment

会期:2020年8月28日(金)〜30日(日)
会場:TEZUKAYAMA GALLERY

時間:
8月28日(金)15:00〜19:00
8月29日(土)12:00〜19:00 (ギャラリートーク 18:00〜19:00)
8月30日(日)12:00〜18:00

料金:入場無料

主催:DELTA Executive Committee(岡田慎平、高橋亮)

問合:Mail contact@delta-art.net  Tel 06-6534-3993

 

出展ギャラリーのディレクター陣によるトークショー
日時:8月29日(土)18:00〜19:00
Instagram公式アカウントにて配信予定)

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TEXT: 檜山真有 [キュレーター]
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