「芸術文化を、大阪から考える」といった際に、まずは大阪、ひいては都市について改めて考えたいと思いました。これはコロナ禍で、わたしたちの暮らしを成り立たせている社会の仕組みや経済について再考するときが来ていると実感したからです。プラネタリー・アーバニゼーション(地球の都市化)という言葉もありますが、わたしたちはロジスティクスというスムーズな流れによって、常に有形無形の商品を消費し続けることで、あるいはリモートを加速させるコミュニケーション技術によって、物理的な出会いがもたらす関係性や、使ったり食べたりしているものの連関への想像力が奪われているようにも思えます。その異様とも言えるスムーズさのなかに、どのように亀裂やひっかかりを見つけ出していくのか。そこから、文化や芸術が醸造されるのだと思います。  今回の特集では、猪瀬浩平さんとの対談では、私たちの生き方や、コロナ禍において顕在化した感染させる/させないの二元論に回収される違和感と、リモートによるコミュニケーションによってこぼれ落ちる「巷」的なひっかかりについての大切な視座と経験を、有家俊之さんにはロジスティクスと反対側にあるものの調達とその楽しみとおいしさを教えていただきました。また、北川眞也さんとの対談で都市のパースペクティブとそのなかで行われている実践をお聞きしながら、いかに私たちは行動できるのかというヒントを与えていただき、合わせて、櫻田和也さんとともに大阪という都市を成り立たせている住之江の物流拠点、港湾地帯をフィールドワークすることで改めて私たちの暮らす都市を実感することができました。一見、つながらないようなこれらの経験や知見は、どこでもすぐにつながれる現在において、私たちに物事を編み直す想像力を与えてくれます。今回、対談やフィールドワークをともにした4者は、みなアーティストだと思います。家成俊勝 Toshikatsu Ienari ー 建築家。1974年兵庫県生まれ。2004年、赤代武志とdot architectsを共同設立。京都芸術大学教授。アート、オルタナティブメディア、建築、地域研究、NPOなどが集まるコーポ北加賀屋を拠点に活動。
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2021.01.30
#Super Studio Kitakagaya#ART#INTERVIEW#大阪市#北加賀屋

What’s up?|最近どうですか?
第4回:トラン・ミン・ドゥックさん(アーティスト)

構成・文: 永江大[MUESUM] / 通訳: 池田昇太郎[詩人/山本製菓]
What’s up?|最近どうですか? 第4回:トラン・ミン・ドゥックさん(アーティスト)

「最近どう?」と切り出すことが、ここまでしっくりくる状況があったでしょうか。オンラインツールの恩恵を受けながらも、「話を聞く」行為を複雑に体験したいと願うのは、編集者やライターだけではないはずです。さて、「このタイミングでどうしてるかな〜」という軽い気持ちとソーシャルディスタンスを持って、近況が気になるあの人に声をかけていく本企画。第4回は、大阪・北加賀屋のレジデンス施設「Super Studio Kitakagaya」にて、滞在制作を行うアーティストのトラン・ミン・ドゥックさん。山本製菓・池田昇太郎さんと一緒に、話を聞きました。

パスポートと食品トレイと社会的距離

2020年11月、此花Figyaで手渡された地図を見ながらまちを歩いていると、民家の壁面に「Happiness To Everybody」と、大きくショッキングピンクで描かれたフラッグが見えた。トラン・ミン・ドゥックさんの個展「Where do we go from here -我々は何処へ向かうのか-」は、作家が滞在していた一軒家を会場に、このコロナ禍で日本にとどまり制作した作品と、過去作を展示。受付で預かった鍵で玄関を開け、靴を脱いでなかへと入る。1階台所・居間の壁面には、コラージュ作品《未知の風景たち》(2020年)とパフォーマンスビデオ《無題(我々は何処へ向かうのか)》(2020年)が展示されていた。

スーパーのお惣菜や肉類、魚介類などのパッケージとして使われている食品トレイに、小さな丸いシールを配置したコラージュ作品は、見知ったトレイのバリエーションの幅に気づかされると同時に、そこにかつて乗っていた食材や料理を想像させる。長細い和柄のトレイは寿司かおにぎりか、ベーシックな白トレイは生肉だろう、この窪み具合はみたらし団子かもしれない、というように。そこに乗っていたものがなくなり、新たに丸い無機的なシールを配された空の器の景色。自然釉がやきものに独特の景色を見せるさまを茶人が楽しむ、その見立ての力とユーモアを、茶や工芸といった文脈とは別のかたちで知っていく、体験していくような感覚が面白い。

この作品をつくったドゥックさんはどんな人なのだろうと、鍵を返すついでに、本展の企画者である山本製菓の池田昇太郎さんとFigyaのmizutamaさんに聞いてみた。2020年3月、山本製菓で開催された展示「Memorable Moments-記念する-Kỷ Niệm : ー故郷が異郷を巡って-May Homeland Flows Around Strangeland-Để Quê hương chảy quanh miền Đất lạー」からいままで、拠点であるベトナム・ホーチミンへも帰れず、日本にとどまるしかなかったことや、現在は北加賀屋にある共同スタジオ「Super Studio Kitakagaya(以下、SSK)」にて滞在制作を行っていること、池田さんとの共同プロジェクト「Between Lines」をこの8年ほど続けていること、などなど。

池田さんに仲介をお願いして、後日、北加賀屋・SSKにあるドゥックさんのスタジオを訪れた。2月4日(木)からはじまるオープンスタジオをひかえ、壁面には新しい作品のテストピースがかかっている。ドゥックさんが淹れてくれた美味しいコーヒーを飲みながら、池田さんの通訳に頼り切って、日本でのこれまでの生活、制作のプロセス、プロジェクトの発端について質問をぶつけてみた。

What’s up?|最近どうですか? 第4回:トラン・ミン・ドゥックさん(アーティスト)

ーーこのコロナ禍で帰国できず、大変な状況はいまも続いていますね……。

ドゥック:本当に。2020年3月の展示終わりに帰国する予定が渡航できず、5月くらいには収束するだろうと思って様子を見ていたんですが。こんなに長引くとは思いませんでしたね。

池田:僕も今年の予定が総崩れ(笑)。2月に大阪の部屋を引き払って、海外でも活動しようとしていたんですが……。どうしようもないので、夏の手前くらいまでは、ドゥックと山本製菓に寝泊りしていました。

ドゥック:しかも、8月にはパスポートとクレジットカードが期限切れになるとわかって。あのときはどうなるかと……。

池田:ベトナム大使館に、パスポートやカードの事情を話して直談判したんです。向こうも毎日ドゥックが電話をかけてくるから、また文句を言われると思ってすぐに切ったり、どういうわけか最後には日本語のナビゲーションに自動切替されたりしたみたいです(苦笑)。

ドゥック:ベトナム政府による救済処置として帰国便の抽選枠もあったのですが、応募していくら待っても音沙汰なしで。8月くらいにやっと連絡がきて、もしかしたら乗れるかもというところまでいきましたが、結局無理だった。

池田:ただ、ベトナムへ帰れないとわかった4月頭から、ドゥックが手を休めずつくり続けてきたことは、ある意味、救いでしたね。ひとつは大阪市の助成金に応募して、此花での滞在制作とFigyaでの展示に。もうひとつは、おおさか創造千島財団の木坂さんに相談して、今回のSSKでのレジデンスプログラムへとつながっていきました。

ーー周囲の人たちと一緒にプロジェクトを立ち上げて、制作を進めていた。昨年11月にFigyaで展示を、そして今年2月にはこの場所(SSK)でオープンスタジオを行います。

池田:Figyaのmizutamaさんとは、3月の展示を企画する際に東南アジアのアーティストを呼ぶ際のビザ関係の相談に乗ってもらったり、会期中にトークゲストとして参加してもらったこともあって、一緒になにかできないかなと。あと、山本製菓に寝泊りしていたドゥックが、夏の暑さとひっ迫した状況に心身ともに限界が近づいていたので、此花で滞在できる場所もmizutamaさんが見つけてきてくれました。

ーー展示会場となっていた一軒家ですね。そこを拠点に、Figyaの制作スペースを毎日行ったり来たりしていたと展示のハンドアウトに書いてありました。此花ではどんなことを?

ドゥック:此花に滞在していたときは、《Where do we go from here – 我々は何処へ向かうのか》というタイトルで、此花の道にいろんな色のチョークで自分の影の輪郭を写すパフォーマンス映像をつくったんです。それは、2011年に東京で滞在制作を行った際のグループ展のタイトルを借りました。そのときは「境界を超える」ってどういうことかと考えていたんですが、当時の日本は大きな災害の後だったし、鑑賞者を勇気づける意味合いも強かったかな。2020年3月からの、この意図しない長期滞在では、自分自身で主体的になにかを決める、方向づけることがほぼできなかった。それもあって「Where do we go from here」という言葉の意味合いが2011年当時とは違ってきていると思います。今回は、作品のタイトルであり、2020年11月Figyaでの展示タイトルであり、自分の実存レベルで「わたしたちはどこにいるのか」という問いかけでもある。

池田:Figyaではこの間もアーティストの出入りがあったので、それぞれ交流できたりしたのもよかったかなと。

What’s up?|最近どうですか? 第4回:トラン・ミン・ドゥックさん(アーティスト)
photo: Tran Minh Duc
What’s up?|最近どうですか? 第4回:トラン・ミン・ドゥックさん(アーティスト)
photo: Tran Minh Duc

ーードゥックさんだけではない、“わたしたち”の問いでもあると。もともと池田さんとドゥックさんは、「Between Lines」というプロジェクトで活動していますよね。それはどんなきっかけで?

池田:僕が21歳のときだったか、ベトナムのホーチミンに1ヶ月ほど滞在した際、はじめは右も左もわからず、とりあえず市立美術館へ向かったんです。当時、ドゥックは「サンアート」というインディペンデントのアートオーガナイゼーションで仕事をしていて、たまたまその美術館の地下で企画展を開催していた。

ドゥック:受付をしていたら、なんかもごもご言ってくるやつが、片言の英語でいろいろ聞いてきた(笑)。

池田:そう、旅の指差し会話帳で(笑)。まだ英語もできず、でも面白い場所や出来事に触れたかったので、この人なら知ってるかもと思って。ドゥックは「ちょっといま忙しいから」って、なんだか煙たがっていたんですが、でも僕のほうは時間はあるから「仕事終わりまで待つよ」と近くのカフェで待っていました。2時間くらいしてドゥックが来てくれて、そこからは根掘り葉掘り。

ドゥック:好きなものや興味あることをお互い共有して、その後はほぼ毎日のように遊びに行ったり、飲みに行ったりしていましたね。

池田:そのとき、僕はまだ活動していたわけではなかったので。詩も書いていましたし、いろんなことに興味はあったんですが、まだ何がしたいのかまったくわかっていなかった。そういえば、そのときにホーチミンの単なる溜まり場のような、でもイベントとかパーティをしたら結構な人が来るみたいなスペースでよく遊んでいて、なぜかホーチミンを発つ直前に僕が巻き寿司をつくりながら、変な音楽をかけるっていう謎のイベントをすることになったり……。そういうアジアの空気みたいなのは、山本製菓をはじめる時に自然と影響を受けていたかもしれません。

ドゥック:ホテル代もったいないから彼は僕の家に泊まることになったんですが、家に来るなり、家のなかにあるものをずっと凝視して、一つひとつ「これなに?」って質問してきて。正直、やばい人を連れて来ちゃったなと(笑)。

池田:単語覚えたかったから……(笑)。いや、でもほんとに変なものがいっぱいあるんですよ。スタジオ見てもらったらわかると思うんですけど……。

ーードゥックさんが書いたキャプションにもありましたが、「ストレンジャー」の視点ですよね。

池田:そこからは毎年、お互いが日本やベトナムや他の国でもタイミングがあって会うことになって。2012年にドゥックが長崎・佐世保のレジデンスプログラムへ参加するときも、せっかくだし、関空経由で帰国するように調整したりして、まだ準備中だった山本製菓に10日間ほど泊まりに来たりしていました。

ドゥック:山本製菓のあたり、天下茶屋や阿倍野のまちの人間くさい感じにインスパイアされて、持ち歩いていたカメラでまちを記録したり、散歩の延長で彼のポエトリーリーディングを撮ったりしましたね。

池田:そのときに一緒につくった映像のデータフォルダを、なんの気なしに「Between Lines」って名づけたのがはじまりですね。ドゥックもその言葉が気に入って。

ーーそうやってお互いの国を行き来しつつ立場や視点を変えながら、ものやまちを一緒に見つめるようなことをしていたと。

池田:そうですね。「Between Lines」は、単に行間のことなんですが。そうやってふたつのものごと、あるいは線の間にある線について考えたり、越境したりってお互いに共通する関心でもあったので。

ドゥック:これまでそうやって、ベトナムと日本、わたしと他者、北と南のような境界について考えてきました。いまは、人と人として守らないといけない距離が世界基準で決まっている時代ですよね。人種とか、国籍・国境に関係なく、感染症は拡大しているし、それに対峙しないといけない。そうなったときにもう一度、境界ってなんだろうと考えはじめています。あと、僕の尊敬するアーティストとしてフェリックス・ゴンザレス=トレスをあげているんですが、彼の作品に《Untitled(Perfect Lovers)》という、ふたつの時計が並ぶ立体作品があります。作品が生まれた当時、 HIV感染症が流行っており、トレスとそのパートナーもHIV陽性になってしまった。並んだ時計の秒針が進んでいく、その一致や不一致も含め、いまの時代にインスパイアされることが多くあるんです。2月のオープンスタジオでは、そういった人と人の関係性のなかにある「距離」そして「境界」について、考えられたらいいなと思っています。

池田:ドゥック、オープンスタジオの内容、ちょっと話し過ぎじゃない?

ドゥック:あ!

ーー(ドアのノックがあり、mizutamaさんとそのご家族が登場)

mizutama:ちょっと挨拶だけ。取材中にすいません〜お邪魔しますね。

ドゥック:(差し入れの食糧を見て)ありがとうございます〜!

池田:発音めちゃよくなってる(笑)。

mizutama:前の展覧会でつくったフラッグの作品を運んできたんですけど。あと、これはお土産。(食品用のトレイを取り出して)「これレアじゃない?」って写真送ったら、「見たことない!」っていうから持ってきましたよ。元気?

ドゥック:はい!

ーーmizutamaさんも来ましたし、今後のこともちょっとお聞きできたら。

池田:今後もどうなるかわからないので、次の展開を模索してはいるんですけどね。

mizutama:去年は住居などこちらである程度用意できたんですけど、この先どうするか。なんかいい方法ないですかね。みんなから少しずつ支援をもらいつつ、SSKに滞在できるのも2月までなので、自活する道も考えないと。ドゥックはショッピング好きだから、そっちはどんどん詳しくなってるけど(笑)。

ドゥック:(保湿クリームを取り出して)これ、すごいしっとりするからいいよ。このスタジオはとっても乾燥するからね。しかもこのクリーム、ベトナム製。

mizutama:本当だ。あれ、これ販売元は大阪・此花区になってる(笑)。

ーー(笑)。

mizutama:此花は倉庫いっぱいあるんで。そんなことよりドゥック、オープンスタジオが終わった後の、ネクストプランってなにか考えてるの?

ドゥック:なんでも。なんでもできるよ。とりあえず、mizutamaさんが持ってきた食糧でパーティーしたいな。

2021年1月7日、Super Studio Kitakagayaにて収録(取材:永江大)

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ドゥックさんの「最近気にしている◯◯」

 

①日常生活をしっかりおくること

寒いのが苦手なので、その日の気温をチェックして暖かそうだったら、スーパーで食べ物を買い溜め。そして料理をする。

 

②100円ショップ

東南アジアやブラジルにもダイソーがあって、とっても便利。ただ、ベトナムでは100円ではなく200円くらいします。お店に通っていると、季節ごとに品揃えが変わり、店舗ごとにも取り扱う商品が変わっていて、それをただただ見たり、作品の素材に使ったりしています。作品を見た人が「これ、俺も使ってる」と言ってくれる。誰にとっても身近な素材がある場所。

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トラン・ミン・ドゥック オープンスタジオ

Super Studio Kitakagayaアーティスト・イン・レジデンスプログラム初の滞在制作者として、2020年11月からSSKを拠点に活動してきたアーティスト、トラン・ミン・ドゥックが、3ヵ月の滞在制作期間終了を前に、オープンスタジオを開催。自身のスタジオを公開し、滞在制作中に制作した作品や旧作をスタジオ内に構成。

日時:2021年2月4日(木)〜 7日(日)13:00〜19:00

入場:SSK Webサイトにて、事前予約制

https://ssk-chishima.info/event/duc-openstudio/

Super Studio Kitakagaya

 

大阪市住之江区北加賀屋5-4-64

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