本特集では、ドキュメンタリーとフィクションの関係やその境界について向き合いました。それは、「事実」「作為」「理解」というような言葉の定義や、それらに付随する葛藤の輪郭をなぞっていくような作業であり、あらためてドキュメンタリーとフィクションの境界というものがいかに流動的で、相互的関係にあるかを感じています。 人が食べるという行為をインタビューを通して観察・分析してきた独立人類学者の磯野真穂さんとの対談では、他者を理解することについて言葉を交わしました。また、現代フランス哲学、芸術学、映像論をフィールドに文筆業を行う福尾匠さん、同じく、映画や文芸を中心とした評論・文筆活動を行う五所純子さん、そして、劇団「ゆうめい」を主宰し、自身の体験を二次創作的に作品化する脚本&演出家・池田亮さんの寄稿では、立場の異なる三者の視点からドキュメンタリーとフィクションの地平の先になにを見るのかを言葉にしていただきました。 対岸の風景を可視化していくこと、まだ見ぬ世界を知覚すること、その先に結ばれた像が唯一絶対の真実から開放してくれることを信じて。そして、今日もわたしは石をなぞる。 小田香 Kaori Oda ー 1987年大阪生まれ。フィルムメーカー。2016年、タル・ベーラが陣頭指揮するfilm.factoryを修了。第一長編作『鉱 ARAGANE』が山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波部門にて特別賞受賞。2019年、『セノーテ』がロッテルダム国際映画祭などを巡回。2020年、第1回大島渚賞受賞。2021年、第71回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。
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2022.04.02
#ARCHITECTURE#CRAFT#DESIGN#FOOD#PRODUCT#What's up?

What's up?|最近どうですか?
第14回:服部滋樹さん(デザイナー/graf代表)

構成・文: 多田智美、羽生千晶[MUESUM]

「最近どう?」と切り出すことが、ここまでしっくりくる状況があったでしょうか。「このタイミングでどうしてるかな~」という軽い気持ちとソーシャルディスタンスを持って、近況が気になるあの人に声をかけていく本企画。第14回は、大阪を代表するクリエイティブユニット・grafの代表であり、デザイナーの服部滋樹(はっとり・しげき)さんです。

大阪にgrafあり——。名実ともに関西のものづくりを牽引し、建築、家具、プロダクト、食、アートなど、暮らしのデザインをオールラウンドに手がけてきたgrafも、来年で25周年を迎える。産地、素材、人とのつながりを軸にものづくりを実践してきた服部さんから「実は、エネルギー事業をはじめようと思っていて」と聞き、私たちが編集したgraf初の単著『ようこそようこそはじまりのデザイン』の一節をふと思い出した。

「創業当初、消費構造に対するアンチテーゼを提示することが前進するためのエネルギーだった。今でも消費構造に一石投じたい、サイクル自体を変えてみたいと思っている。システムをデザインするというような大袈裟な態度で提示するのではなく、自分たちのものづくりによって、消費構造の中で生活する人たちに気づいてもらい、システムが緩やかに変換されていったら、こんなにわくわくすることはない。こうしたメッセージをこのgraf studioを通して伝えていきたいと思っている。」(服部滋樹『ようこそようこそはじまりのデザイン』学芸出版社、2013年、p.143)

さて、いったい彼は今、どんなことにわくわくしているのだろうか。

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奈良県天理市  撮影:秋山まどか 画像提供:graf

——エネルギー事業をはじめるそうですね!

準備をはじめて、もう4年になるから、話したいこと山積みやわ〜! 今日は入口にあたる話になるから、今後「あれからどうなった?」と逐一聞いてな(笑)。

——ぜひ! 「入口」ということは、まだまだ進行中ですか?

そう。エネルギーと聞くと、形のないものを想像するかもしれないけど、エネルギーも資源を加工することでつくり出される「モノ」で。だから、プロダクトを開発するときと同じように、「入口(=資源/計画)」と、「真ん中(=加工/プロセス)」と、「出口(=製品/流通)」がある。今は、「入口」から「真ん中」の段階かな。

——なるほど。では、まずは「入口」からですね。服部さんたちが、エネルギー事業に携わることになったきっかけについて教えてください。

grafが20周年を迎えた頃、設立当初に僕らが「こんなことができたら、おもしろいな」と思って実践してきたことって、いまでは当たり前になっていることが多いなと気づきました。異業種が集まって仕事を生み出すこと、家具と体験を掛け合わせて工房やショップにカフェを併設すること、デザインとアートの領域横断など……、当時は目新しかったけど、今ではよく見かけるようになったよね? そうして振り返るなかで、次の20年をバックキャスト的に考えてみようと思ったんです。

ちょうどその頃、奈良・天理市のブランディングを手がけることになって。大阪・箕面市出身の市長・並河健さんと意気投合し、彼が引越した天理の山岳エリアの古民家改修もお手伝いしていた。そんななか、山岳エリアの小中学校の統廃合が決まって、廃校をどう利活用しようかという話に。

天理市は、緑豊かな美しい地域。農業生産量は県内1位。そういう地域にある廃校なので、よくある“ものづくり学校”ではなく、より先進的な農業やものづくりを学べる場所にしたい。そしたら、この地域の資源を生かして、電力を自給自足するオフグリッドな暮らしのためのエネルギー事業じゃない?ということで、エネルギーについて学びはじめることになったわけですよ。

せっかく天理の美しい自然のなかでつくるなら、やっぱり環境負荷が低いエネルギー産業がいい。だけど、廃校があるエリアは水資源が少ないから、水力も風力も難しかった。それで選んだのが、バイオマス。それから4年間、大阪・高槻市にあるバイオチャー研究所に通って、「バイオマス発電」の勉強と開発を続けてきました。

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grafが手がける天理市のブランディング・プロジェクト「めぐみ めぐる てんり」公式サイト  https://megumimegurutenri.com/

——高槻にそんな場所があるんですね!

バイオチャー研究所で知ったのは、地域で排出される間伐材や放置林の竹、収穫した後のトマトの枝や籾殻で排出される農業残渣も、燃やして炭化させれば資源になるってこと。それから、通常それらの有機物をゴミとして燃やすときには大量の化学燃料を使うことになるんだけど、燃やすときに有機物の重ね方を工夫すると、マッチ1本でもちゃんと炭化させることができる。この、もっともシンプルな「バイオチャー(=炭に変えること)」のかたちで、廃校跡にプラント(発電設備)をつくろうと考えたんです。

——廃校が、バイオマス発電所に生まれ変わる?

それが、ちょっと違うねん(笑)。僕らのプランは、発電所に建て替えるんじゃなくて、「可動式の発電設備」を開発すること。これ、ちょっとわくわくするよな? 今まさに、2トントラックに積んで運べるサイズの発電プラントをつくってるんやけど、おそらく可動式は日本初。バイオチャー研究所のみなさんがコロナ禍で試行錯誤するうちに実現した技術で、煤煙を出さない密閉式の燃焼設備にお湯を沸かす装置を着けて、エネルギーに変換させていく。これで、たくさんの技術者を動員しなくても、ユニットを並べるだけで地域の世帯数に合わせた必要な分の電力(それとお湯)を生産できるようになる。

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“クラフトエナジー”ユニットを設置予定の旧福住中学校

——バイオチャー研究所の方々が開発した最先端の技術。それを服部さんはどう活用する予定ですか?

地域のなかでエネルギーを生産できることはもちろんやけど、僕が一番大切にしたかったのは、その設備がエネルギーについて学べる形になっていること。だから、シルバーの鉄の塊だったプラントを、仕組みがひと目でわかるような、子どもでもとっつきやすいデザインにしていった。このプラントを使った教育プログラムを、天理の廃校で実施予定。2022年の秋くらいの実用化を目指していて、最近、このエネルギー事業を「クラフトエナジー」って名づけたとこ。

——クラフトエナジー……?

僕、各国のクラフトビールを飲み歩いてきたんやけど、ビールってどれも同じフォームなのに、場所が変われば味も変わるやん? それって、土地そのもののポテンシャルを引き出してるってことだと思ってて。僕たちのプラントもいろんな場所に運んで、地域それぞれの資源からエネルギーをつくるから、クラフトビールみたいやな、ってことで、「クラフトエナジー」に(笑)。

これからのものづくりは、廃棄物の行き先も考えなきゃいけない。そこで、僕らのプラントを使うと、ものづくりで排出されるゴミを電力の資源として消費できるようになる。あとは、製品の素材がどこから来てるかを把握すれば、トレーサビリティもはっきりするので、ものづくりの付加価値にもなる。そういう意味でも「クラフトエナジー」。木工はもちろん、織物や染色——たとえばデニムつくってる人とかも、ものづくりに関わる人はみんな有機物を排出するから、エネルギーの生産者になれる。それをみんなで束ねて売電して、たくさんの人に自然エネルギーを購入してもらえたらいいな。「うちは、grafのエネルギーを使ってます」って。

——「学べる形にしたい」というのが服部さんらしいですね。

蒸気機関は、蒸気が出るから動いていることが体感できるし、石炭っていうエネルギーのもとになるものも見える。原発の場合は……、プロセスも素材も見えにくいよね。でも、物事のはじまりを知ってることは重要なこと。プラントを見て、有機物が燃えて炭になってエネルギーが生まれることがわかれば、電気も、地球の恩恵だと理解できるはずで。今は相手が見えないから、恩恵もクソもないわけなんやけど。

以前デザインした「Sphelar Lantan」っていうソーラー・ランタンは、「電気が勝手に点く」と思っている自分たちの身体記憶を歪めたくて、砂時計の形にしました。ひっくり返す動作をすることで電気が点くから、「電気を点ける」という行為自体に意識的になる。その延長で、今度は「電気もつくられているんだ」って認識してもらいたいと思ったわけ。ものが生まれるプロセスを見て「つくる」とは、どういうことかを知ることで、どう使っていくかを考えていく——そんな教育プログラムをつくりたいなと考えているところ。

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クラフトエナジーユニットの環境設計イメージ。ただユニットを設置するのではなく、周囲の環境も一緒に設計するという意味で「環境設計」としている

——最後に、今後の展望をもう少しだけ教えてください!

街中の電線がなくなって、ガソリン車もなくなって、どんどんエネルギーが見えなくなっていく。それと同時に、これからは、ものをつくるためにはエネルギーからつくらないといけない社会がやってくるはず。僕は、オフグリッドでなんにも束縛されずにつくり、自分の知恵を使って生きることができるって、可能性に満ちてることだと思っていて。ボーイスカウトみたいやけどさ、知恵を持ってるだけで強くなれるやん。便利な道具を持つのと同様に、知恵を持つと背筋がのびて、困難に負けへんぞってイメージが湧くよね!

2022年2月9日(水)、オンラインにて収録

服部さんの「最近気になる○○」

 

①社会=マスクの向こう側

科学が発達して、人の想像力が低下したって言われてるけど、最近、マスクをしながら会話することで、人の想像力が鍛えられてるって可能性もあるなと思っていて。相手の表情とか、言葉のニュアンスとかを読み取るために、僕らはいつもマスクの向こう側を想像してんねんな。Behind The Maskって(笑)。この曲をYMOがリリースしたのも、もう40年前なんやなぁ。

 

②私生活=なぜか誕生日に成長する子ども

子どもって不思議なもんで、自分の誕生日を迎える前後に急激に成長する。下の子が先日1歳になったんやけど、2本足で歩くのがめちゃくちゃ早くなった。もう、歩く気満々で、何回タンコブつくってもトライすんねんな。あんまり急だからこっちが追いつけなくて、あ、靴買うの忘れてたなって。

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