「芸術文化を、大阪から考える」といった際に、まずは大阪、ひいては都市について改めて考えたいと思いました。これはコロナ禍で、わたしたちの暮らしを成り立たせている社会の仕組みや経済について再考するときが来ていると実感したからです。プラネタリー・アーバニゼーション(地球の都市化)という言葉もありますが、わたしたちはロジスティクスというスムーズな流れによって、常に有形無形の商品を消費し続けることで、あるいはリモートを加速させるコミュニケーション技術によって、物理的な出会いがもたらす関係性や、使ったり食べたりしているものの連関への想像力が奪われているようにも思えます。その異様とも言えるスムーズさのなかに、どのように亀裂やひっかかりを見つけ出していくのか。そこから、文化や芸術が醸造されるのだと思います。  今回の特集では、猪瀬浩平さんとの対談では、私たちの生き方や、コロナ禍において顕在化した感染させる/させないの二元論に回収される違和感と、リモートによるコミュニケーションによってこぼれ落ちる「巷」的なひっかかりについての大切な視座と経験を、有家俊之さんにはロジスティクスと反対側にあるものの調達とその楽しみとおいしさを教えていただきました。また、北川眞也さんとの対談で都市のパースペクティブとそのなかで行われている実践をお聞きしながら、いかに私たちは行動できるのかというヒントを与えていただき、合わせて、櫻田和也さんとともに大阪という都市を成り立たせている住之江の物流拠点、港湾地帯をフィールドワークすることで改めて私たちの暮らす都市を実感することができました。一見、つながらないようなこれらの経験や知見は、どこでもすぐにつながれる現在において、私たちに物事を編み直す想像力を与えてくれます。今回、対談やフィールドワークをともにした4者は、みなアーティストだと思います。 家成俊勝 Toshikatsu Ienari ー 建築家。1974年兵庫県生まれ。2004年、赤代武志とdot architectsを共同設立。京都芸術大学教授。アート、オルタナティブメディア、建築、地域研究、NPOなどが集まるコーポ北加賀屋を拠点に活動。
Original Research
2020.10.14
#PHOTO#COLUMN#大阪市

お面によって構築されるトライブの記録

井上嘉和
文: 井上嘉和 [写真家]
お面によって構築されるトライブの記録
©︎Yoshikazu Inoue

僕はカメラマンを生業としながら、ダンボールでお面を制作するというライフワークを持っている。お面をつくり、被り、人と共有する一連の行為を『ダンボル』と名付け、その記録を続けている。

 

最初はほんの思いつきだった。

いつものように写真屋で仕事をしながら、ふと「今日は節分か」と気づいた。
当時、まだ小さかった息子ふたりのことを思い出し、「鬼のお面を被って帰ったらびっくりするかな?」という、どこの親でも考えるような思いつきを実行に移すことにした。
倉庫に行ってダンボールの空き箱を見つけ、頭が入ることを確認し、「これでいいや」と、赤い画用紙を貼り付け、目の位置に穴を開ける。口はギザギザに切り抜く。
あとは頭頂部に円錐形に丸めた画用紙を着け、角に見立てれば完成。
多分2時間くらいの作業だったと思う。

我ながらなかなかの出来栄えに満足しながら、お面を抱えて家路に着く。
途中、妻に電話し、鬼のお面を被って帰るから、豆まきの用意をしておくように、と伝えた。

ピンポーン。インターホンを鳴らしてなかの様子をうかがうと、

ガチャガチャ。「誰ですかー?」と息子の声がする。

バーン! 勢いよく扉を開けて玄関に飛び込めば、「ぎゃー!!」と悲鳴を上げて逃げ出す息子たち。それを見て爆笑する妻。
お面を取った僕を見てホッとした息子たちは、安堵と同時に僕に豆をぶつけだす。

こんな感じではじまった家庭内イベントが毎年の恒例となり、お面をつくっては豆を浴び続けて、もう10年になる。

お面によって構築されるトライブの記録
©︎Yoshikazu Inoue

なぜ僕はダンボールお面づくりに夢中になったのだろうか。

僕はまず、つくることに対するハードルをできる限り低くした。
美術とか作品としてではなく、子どもたちと遊ぶおもちゃを手づくりする。そんなレベルで創作している。
だから、素材は身近に余っているダンボールでいい。
色を塗るのは大変だし、ダンボールそのもののディティールが好きなので塗らない。
接着もできるだけ早く固定できるように、ボンドではなくグルーガンを使う。

そして、お面は被ったときに没入感の強いフルフェイス型に限る。
被って遊ぶのができるだけ楽しくなるよう、遊んでいるときに簡単に外れないように自分の顔に合わせながらピッタリのサイズでつくっていく。
そうやってできたお面を被ることで、何者でもない一匹の怪物になったようで、大変気分がいい。
少し暴れてみると次第に気恥ずかしさは薄れ、どんどん大袈裟な動きになっていく。

お面によって構築されるトライブの記録
©︎Yoshikazu Inoue
お面によって構築されるトライブの記録
©︎Yoshikazu Inoue
お面によって構築されるトライブの記録
©︎Yoshikazu Inoue
お面によって構築されるトライブの記録
©︎Yoshikazu Inoue

この楽しさを共有できないかと声をかけていただき、これまでに何度か親子で行うワークショップを開催してきた。

ワークショップをやればやるほど、いろいろなことが発見できてとても面白い。
僕自身がつくる過程を楽しめるように抽出した工夫が、ほかの人にとっての「僕にも、私にもできるかも!」というワクワク感につながっているように思う。

最初は、僕と同じ立場の大人が、子どもを驚かせるためにお面をつくる、という趣旨でワークショップをはじめた。
数回行ううちに、「子どもも一緒に行っていいですか?」という質問があった。
もちろん断る理由もなく参加してもらったところ、親子でひとつの作業に取り組む様子がとても楽しそうに見える。
自分の家族を思い返してみると、家庭内で親子一緒に作業することは、意外と少ないのかもしれない。同じ空間で過ごしていても、家族で別々のことをやっている。
これは親子でつくる方がいいんじゃないかと思えてきた。

お面によって構築されるトライブの記録
©︎Yoshikazu Inoue
お面によって構築されるトライブの記録
©︎Yoshikazu Inoue

そんな感じで、親子でのワークショップに切り替えて数回繰り返すと、やはりこの問題が浮かび上がる。怪我、火傷。
カッターナイフやハサミなどの刃物、高熱になるグルーガンといった文房具は、便利な反面、やはり怪我などのリスクがついてまわる。それが小さい子どもとなると尚更だ。
僕の制作方法では、ダンボールを短冊状に切ったものを大量に使うのだが、子どもも参加するワークショップでは、各自で切り出すのをやめて、こちらでまとめて用意することにした。
これだけでカッターナイフでの怪我が格段に減った。

あとはグルーガンだが、これは僕自身、いつも指先に火傷をつくりながらやっているような状態で、回避するのがなかなか難しい。
つくるのに熱中してくると、ついつい熱くなったボンドを触ってしまい、痛い目をみる。
今のところの予防策としては、ワークショップ中に繰り返し注意を呼びかけ、危険な文房具を使っているという意識を喚起する方法しか思いついていない。

だけど、僕自身としては、こういった怪我のリスクを伴う作業を親子で行うことこそ、このワークショップの裏テーマだと思っている。
何もしなければ被ることのないリスクを負うことで、親はより子どもの行動を見守り、子どもは親の言動に注意深く耳を傾ける。
そうしてリスクを回避する行動を探っていきながら、このワークショップを通じて親子の信頼関係を構築し、育てることができれば大成功だと思っている。

お面によって構築されるトライブの記録
©︎Yoshikazu Inoue
お面によって構築されるトライブの記録
©︎Yoshikazu Inoue

最近はダンボールでいろいろとつくる人が増えてきて、それを見るのも楽しいのだけど、やっぱり僕には“お面をつくって被りたい”という欲求が根元にあって、ダンボールはたまたま相性のいい素材だったに過ぎないということにも改めて気づかされる。
お面は自分のなかにある何らかの欲求を形にしているように思う。

ヒーローや怪獣のお面をつくる子どもたちの場合は、強くありたいという気持ちの表れのように感じるし、アクセサリーや三つ編みなどの髪型をしたお面をつくる子どもたちには、可愛いくあろうとする気持ちを感じる。
お面制作にはそういった自分の欲求を恥ずかしげもなく表現できる何かがある。

お面によって構築されるトライブの記録
©︎Yoshikazu Inoue
お面によって構築されるトライブの記録
©︎Yoshikazu Inoue
お面によって構築されるトライブの記録
©︎Yoshikazu Inoue

それから、なぜ人はお面を被ると普段とは違った行動をはじめるのだろう。

まず、顔を隠すことの匿名性が気を許し、妙な行動に駆り立てる。
そして、ワークショップでは、周りもみんなお面を被っているという妙な連帯感が安心感を生み、言葉を使わずにジェスチャーやオノマトペを使ってお互いにコンタクトを取りはじめる。

普段は、こういった原始的な行動を理性で抑えているのだろうが、欲望のままに表現されたお面を被ると理性が薄れ、大人も子どもも原始的な行動に駆り立てられる。そんな誘惑がお面にはある。
むしろ、普段の様子からは想像できない原始的な行動は、お面そのものが動いているのではないかと錯覚してしまうほどだ。
お面を被った者たちのトライブ化は、年齢や性差を超えた楽しい時間を共有する。

このように、僕が何気なくはじめたダンボールお面の制作は、家族の関係を考えさせ、その家族を礎として新しいトライブを構築している。
僕は、ダンボールお面の制作、被る行為、そしてそのトライブ化する現象を『ダンボル』と名付けた。
今後もその現象を記録し続けていきたい。

お面によって構築されるトライブの記録
©︎Yoshikazu Inoue
お面によって構築されるトライブの記録
©︎Yoshikazu Inoue
お面によって構築されるトライブの記録
©︎Yoshikazu Inoue

井上嘉和 / Yoshikazu Inoue[写真家]
1976年生まれ。1997年頃から関西の身近なバンドたちのライブ写真を撮りはじめる。ライブ撮影を続けながら雑誌、メディア、広告媒体でも活動を広げる。
2010年から劇団維新派のオフィシャルカメラマンとなり、それ以降数々の舞台撮影を行う。2015年に株式会社 井上写真事務所を設立し、活動の幅を広げながら継続してライブ、舞台に拘った撮影を続けている。また撮影活動とは別に家族のためにはじめたダンボールでお面をつくる活動「ダンボル」がSNSで話題となり、展示やワークショップなどを行いTVやメディアに取り上げられる。
https://www.photoinoue.com/

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