おおさか創造千島財団の公募助成プログラムのうち、「創造活動助成forU30」は、大阪における創造活動を活発化するため、また大阪で活動する若手アーティスト、クリエイターを支援するため、活動資金の一部を助成金として交付するカテゴリだ。
このカテゴリでは、創造の場やプラットフォームの強化を目的とする「創造的場づくり助成」や、クリエイティブセンター大阪(名村造船所大阪工場跡地)の活用を目的とした「スペース助成」と異なり、作品制作などの創造活動そのものに助成。創造活動のジャンルや活動の形態は問わず、社会に新たな視点や価値観を提示し、「創造活動」の定義をも問い直すような意欲的なプロジェクトを重点的にサポートしている。
本稿では、2026年度「創造活動助成forU30」の採択者と、そのユニークな企画を紹介する。
田村久留美「(ゆっくりうごいているあいだ)プロジェクト」
田村久留美(たむら・くるみ)は、路上や公共空間でのパフォーマンスを表現手法とするアーティストだ。採択事業「(ゆっくりうごいているあいだ)プロジェクト」では、大阪市内の複数箇所で、制作した構造物を複数人でゆっくりと移動させることにより、物の設置や場所の占有として管理、制限できない状態を意図的に引き延ばす。
占用とは、一定の工作物、物件又は施設を設け、空間を独占的・継続的に使用することを言い、例えば、道路を占用することができる物件や工作物は、道路法で定められ、占用したいとするときは、道路管理者の許可を得る必要がある。しかしながら、工作物が人の手によりゆっくりと移動しているとき、道路本来の目的である、交通のために利用している状態となり、制限に抵触しない状態を維持する。
過去のプロジェクトでは、催し物で用いるテントを持って移動したり、「油売ってます」と書かれた背負子を持って移動し、街角に座って行き交う人々とコミュニケーションを取ったりしている。今回、田村は、ひとりでは到底動かせないほどの大きさの構造物、美術作品を納めるクレートのようなものを複数人で引きずるように動かすという。

公共空間及び公共性にかかる制度やルールを可視化する独創的な制作活動であるが、直接的な制度批判ではなく、制度の内部にとどまりながら、制度の運用の実際や公共空間の暗黙的合意を可視化し、その場にいる人々との偶発的交流も生み出す。
パフォーマンスの候補の場所として、天神橋筋商店街、梅田駅周辺、中之島駅周辺、心斎橋筋商店街、難波駅周辺、新世界周辺など、人が多く集まる場所が選ばれている。プロジェクトの成果は展覧会を開催し発表予定であるため、1年を通して今後の展開に注目していきたい。
田村久留美 / Kurumi Tamura
2000年早生まれ、香川県さぬき市出身。主に路上・公共空間でゲリラ的にパフォーマンスや企画を行う。路上・公共空間における制度やルール、ケアや権利といったものに興味をもち、人・モノ・場所などの関係性の中で生じるロマンス(心を奪われる素敵なハプニングのようなもの)を、ブリコラージュ的な手法(まったく違う物語をゆるやかにつなげてしまう様)によって作品として提示している。
https://www.instagram.com/kurumi_tamura/
西尾友希「octopus labo」
octopus labo(オクトパス・ラボ)は、女性を主役にした映画制作に個人で取り組んでいる映画監督・西尾友希(にしお・ゆき)によるプロジェクト。普段から俳優のみなどごく少人数、かつ短期間で制作し、発表もインターネット配信サービスを使用するなど、「映画制作は大人数のチームで行う大がかりなもの」という思い込みを良い意味で覆してくれる。
西尾は、「パートナーシップ制度」*をLGBTQ+の人々が家族に最も近づく制度であると考え、同制度が存在する大阪で、当事者のカップルを主役にした映画を制作する。また、大変うれしいことに、当財団が拠点とする北加賀屋のさまざまな場所でロケを行うことを計画しているとのことで、octopus laboのカメラを通した北加賀屋のまちの日常が映し出されるのもとても楽しみだ。ちなみに、この撮影も1週間程度で実施予定だという。重要なテーマを扱いながら、映画の有り様も変えていく、octopus laboに今後も注目していきたい。
また、映画制作に助成を行うのは当財団としても2回目であり、幅広い分野で活動する制作者に公募助成プログラムを活用いただけていること、大変ありがたい。
*「大阪府パートナーシップ宣誓証明制度」について
大阪府では、性の多様性が尊重され、全ての人が自分らしく生きることができる社会の実現をめざし、性的指向及び性自認の多様性に関する府民の理解の増進に関する条例を、令和元年10月に施行し、性の多様性に関する理解の増進に向けた取組を進めています。
こうした取組の一環として、令和2年1月22日より、性的マイノリティ当事者の方を対象にした「大阪府パートナーシップ宣誓証明制度」を実施しています。
大阪府パートナーシップ宣誓証明制度とは
性的マイノリティ当事者の方が、お互いを人生のパートナーとすることを宣誓された事実を、大阪府として公に証明する制度です。
下記の要件を満たし、宣誓された方へ「パートナーシップ宣誓書受領証」を交付しています。
なお、大阪府内では、下記の自治体において同様の制度が実施されています。
※下記の自治体にお住まいの方は、各自治体にてお手続きください。(詳細は各自治体にお問合せください。)
【制度実施自治体】 ※令和8年4月1日時点
大阪市、堺市、豊中市、池田市、吹田市、貝塚市、枚方市、茨木市、泉佐野市、富田林市、松原市、大東市、箕面市、交野市、大阪狭山市
大阪府Webサイトより引用 https://www.pref.osaka.lg.jp/o070020/jinken/sogi_partnership/index.html
西尾友希 / Yuki Nishio
1995年生まれ。大阪府出身。京都造形芸術大学映画学科俳優コース卒業。女性を主役にした映画を制作している。「octopus labo」という名の企画で、女優2人だけで映画を撮る手法で作品をつくるなど、自由な発想で映画をつくり出している。女性同士の救済、傷からの再生、終わりからの始まり、友愛や偏愛や愛憎など、多様な人間同士の関係性と愛を描いている。代表作は『深夜高速』『運命の女』など。
https://yukinishiofilm.my.canva.site/yukinishiofilm/
小林楓太「Osaka City-Voice Archive」
小林楓太(こばやし・ふうた)は、「都市音の定点録音と文字起こし」という手法で表現活動を行うアーティストだ。これまで、日本の400カ所以上で「30分間の定点録音と、聞こえた言葉の逐次的文字起こし」を行ってきた。特徴的なのは、都市空間のなかに飛び交う「人の声」に注目し、定点録音をさらに文字起こしすることで、その発話にある声量、声色などのニュアンスをそぎ落としていくことだ。このプロセス——小林自身の耳と手を通して、最も適切な表現が丁寧に選ばれ、発話者個人への紐づきを失いながらも、「街の声」として可視化されていく。さらにその声は、紙への印刷のみならず、オーガンジーに刺繍され、インスタレーション作品となるなど、さまざまに変化していく。
小林は、当財団の助成を受けて「Osaka City-Voice Archive」と題し、これまでの個人的実践から一般参加者を募っての集団による同時多発的記録へと活動を拡張し、「都市の環境音としての言葉」をアーカイブするプロジェクトを大阪からスタート。また、大阪を拠点とする編集・出版社であるLLCインセクツと協働し、ビジネス街(船場)、観光地(新世界)、歓楽街(十三)、巨大ターミナル(梅田)、静寂の歓楽街(早朝の天満)など、音の性質がまったく異なるエリア・時間帯を選定したのち、月一のペースで順に記録していこうとしている。成果は、記録集の出版、そしてインスタレーション展示となる予定。
小林の手法を通した大阪のまちは、どのような表情を見せるのか、今からとても楽しみだ。
小林楓太 / Futa Kobayashi
2001年長野県生まれ。東京都立大学建築学科卒業、京都市立芸術大学大学院プロダクトデザイン専攻修了。街中に立ち続け、定点録音した音のなかから、「人の声」だけを抽出し文字に起こす——という、独自の手法をもとに表現活動を行う。現在までに全国各地、約400地点で記録を重ね、それは続いている。
https://www.instagram.com/fu_ha_kaededesu/
















