「paperC」を運営するおおさか創造千島財団が、拠点としている大阪・北加賀屋のまちの変遷や、主宰する取り組みを紹介する本コンテンツ。第3回は、本財団が毎年実施している公募助成プログラムについて、すでに実施された2024年度・2025年度の採択事業とあわせてご紹介。
今年も公募助成プログラムの募集がスタートした。おおさか創造千島財団の公募助成事業は、「創造活動助成 for U30」「スペース助成」、並びに「創造的場づくり助成」から成る。2011年の財団設立以来実施してきた、財団の根幹を成す事業のひとつだ。本記事では、近年のプロジェクト事例を紹介。応募にあたってのよくある質問も記事末尾にまとめているので、応募のきっかけになればと思う。
創造活動助成 for U30
「創造活動助成 for U30」は、大阪における創造活動を活発化するため、また大阪で活動する30歳以下(申請時、団体の場合は、代表者と構成メンバーの概ね半数以上が30歳以下)の若手アーティスト、クリエイターを支援するために、活動資金の一部を交付するもので、普段から大阪を活動拠点とするアーティスト、クリエイターはもとより、大阪府外に拠点を構える方でも、大阪での活動を計画している場合は、その活動費が対象となる。ジャンルや活動の形態は問わず、社会に新たな視点や価値観を提示し、「創造活動」の定義をも問い直すような意欲的な活動を重点的にサポートしたいと考えている。毎年、30万円を3件の事業に助成する予定だ。
このプログラムのねらい通り、これまで演劇、美術、ファッション、建築などさまざまなジャンルの創造活動に支援を行うことができている。さらに、大阪府外を拠点とするアーティスト、クリエイターが助成を利用して大阪府下で活動を行うことにより、波及効果が生まれることも喜ばしい点だ。
2025年度採択事業のひとつが、大阪府藤井寺市土師ノ里を拠点とするアーティスト・ラン・スペース「デラハジリ」が行う「HAJINOSATO AIR 2025 ~Embodiment and conviction~」だ。ウズベキスタンから、Kerimova Olga、Grigoryants Anna gennadevnaの2名のアーティストを迎え、滞在制作と成果発表展を行った。当初は1カ月間の滞在を目指していたが、ビザの制約等で2週間の滞在となったものの、デラハジリを主宰するアーティスト・下浦萌香の丁寧なコーディネートに加え、土師ノ里の地域の住民による温かいサポートにより、充実したリサーチと展示が実現された。
Kerimova Olgaは、8歳の子どもを育てる母親として、地域の「ママカフェ」に赴き、国が違えど共通する個の時間の問題についてヒアリングし、食パンのスライスとジャムや調味料のペーストを素材に、統計を表すユニークな展示を行った。紙に印刷されれば無味乾燥ともいえるグラフは、かけがえのない自分自身の時間が表現されたジャムの甘い香りや、辛いと思う時間に塗られた豆板醤の辛い香りが混ざり合い、一言では表せない現実を表現する。ウズベキスタンに帰国後も、さらなるリサーチを重ね、作品を発展させる予定とのことだ。

Grigoryants Anna gennadevnaは、ウズベキスタンの魔除けと、日本のお守りの概念を融合させ、デラハジリの空間でインスタレーションを行った。来日前にウズベキスタンのバザールで購入した伝統的な柄のシルク地で自ら制作したもののほか、土師ノ里で入手した素材でつくったものや、ワークショップ参加者がつくったものが混在し空間を彩る。この魔除けは通常、なかには何も入っていないが、日本のお守りにならい、「願いごと」がなかに入れられているという。

さらに注目すべきは、デラハジリを主宰する下浦萌香が地域で築いたネットワークだ。筆者の訪問時も、常連客で賑わっており、OlgaとAnnaの持参したウズベキスタンのお茶とお菓子を囲み交流が生まれていた。プロジェクトのために参集するのではなく、自然に人が集まる空間をつくり、また土師ノ里のほかのユニークなスペースを運営する人々とも交流を欠かさない下浦からは今後も目が離せない。
また、北加賀屋にある千鳥文化ホールでは、2026年2月2日(月)~16日(月)まで、同じくU-30の採択者であるアーティスト/映像作家・小林颯による展覧会「Apperatus #1」を予定している。新今宮周辺のアジア系移民に関するリサーチを行いながら、自転車型の装置を制作。本展では、パフォーマンスとともに発表予定だ。
スペース助成
「スペース助成」は、造船所跡地を改装したスペース「クリエイティブセンター大阪(CCO)」のなかの象徴的なスペースを、創造活動の舞台として無償で提供し、さらに活動資金も100万円交付するもので、産業遺産という特殊なポテンシャルをもつ当施設の新たな魅力を引き出すような活動を期待している。
2024年度は、1998年の発足以来、大阪・京都を拠点にインドネシアの民族楽器・ジャワガムランを用いた表現活動を行う音楽グループ「マルガサリ」が採択された。スペース助成の本来の対象エリアは、CCOの事務所棟の3階「Free Space」及び4階「Drafting room」、あるいは木津川沿いの旧ドック(船渠)周辺であるが、マルガサリのプランは、4階「Drafting room」に加え旧ドックの水面をステージとして利用するものであった。当方にとっては初めての提案であったが、現代美術家の黒川岳がステージの制作を担うという舞台美術面での意欲的なコラボレーションの在り方を高く評価し、実証実験を含めて安全を十分に担保することを前提として採択に至った。
公演の始まりは、4階「Drafting room」を会場に、マルガサリのメンバーによるジャワガムランの演奏に加え、音楽家/ダンサーのヨハネス・スボウォの舞踊、音文化研究者の柳沢英輔によるベトナムのゴング楽団の演奏が、遮る柱のない空間を縦横無尽に展開。スピーカーやアンプのない、アコースティックな演奏ながら、心地よい音色が空間いっぱいに響きわたり、グルーブ感が生まれていた。

公演は旧ドックへと舞台を移し、ライフジャケットを身に着けた出演者たちは、大小ユニークな形状の水上ステージに乗り、漂いながら舞い、あるいは演奏する。風に流れ、水面や壁面に反響する音の「ふるえ」や「ゆらぎ」は、この場所ならではの条件を生かしたサイトスペシフィックな公演となった。


2025年度は、2026年3月19日(木)~23日(月)に、劇団kondabaによる公演「kondaba港」が上演される。kondabaは、2018年に大阪の劇団・維新派の解散時のメンバーによって結成され、現在のメンバーは石原菜々子と金子仁司。本公演は、音楽に北加賀屋を拠点に活動する日野浩志郎を迎え、CCO事務所棟3階のFree Spaceを会場に実施される。メンバーの出身地である東京及び岐阜、現在の活動拠点である大阪を個人史的視点からリサーチし、近現代の工業・産業・インフラの地図を立ち上げることをテーマとした意欲的な公演だ。
創造的場づくり助成
「創造的場づくり助成」は、先の2つの助成プログラムと異なり、直接創造活動を支援するのではなく、アーティスト・クリエイターやその活動を支える人が育つ「場」、さまざまなジャンルで活動するアート関係者同士・関係者以外をつないでいく有形・無形の「場」をつくる「場づくり」に対して活動資金を交付するものだ。さらに、このプログラムは、大阪府内に物理的な拠点がある、もしくはこれから設けることを前提とする、有形の場への支援である「大阪府内の創造拠点形成・活動支援助成」と、インターネットを活用した無形の場への支援「ネットワーキング助成」に分かれる。「ネットワーキング助成」については、大阪府外を拠点とする個人や団体からの申請も受け付けている。当プログラムの予算は200万円で、それを4~5件の事業に分配することを想定している。
2025年度の「大阪府内の創造拠点形成・活動支援助成」に採択された、「ΛΛ(読み:ミミ)」は中津を拠点に、大人向けのタイポグラフィー・ワークショップ、子ども向けの美術教室、感覚過敏を持つ子ども及び大人への合理的配慮を講じた美術自習室を運営している。幅広い企画のなかで、筆者はタイポグラフィー・ワークショップの上級編、かつ成果物の発表を行う最終回を見学させていただいた。
参加者はデザインのプロフェッショナルの方から、自身の関心分野で本を作りたいと考えている方までさまざまであったが、約1時間半の作業時間の間、集中して作業に取り組んでいた。また、会場内の何気ない机の配置や幅なども、作業のしやすさや話しやすさを考慮して空間設計されているとのことだった。2026年1月には、子ども向け美術教室の参加者による作品展も予定されている。



「ネットワーキング助成」では、札幌を拠点とするトーチによる、「ポッドキャストを起点とした、アートとテクノロジーの越境的ネットワーク形成」事業が採択された。トーチは、メディア・アート分野の知見を生かし、イベント及びメディア運営や出版などの事業を展開する団体であるが、メディア・アートの分野における情報流通量の不足という問題意識に対し、アートとテクノロジーをテーマにした対話型ポッドキャスト「録音の肉声」と同タイトルの展覧会を通じた状況改善を図る。
ポッドキャストは、4月から1年を通して毎週配信している。ささやかながら芸術・文化の分野で助成を行う側である筆者をはじめ、さまざまな立場・キャリアの方が出演し、カジュアルながら時代の要求に即したテーマを追求している。ぜひ一度聞いてみてはいかがだろうか。
以上、昨年度及び本年度の採択事例を紹介したが、いずれのプログラムでもジャンルは問わず、意欲的な事業を2026年1月12日(月・祝)まで募集している。
>>> 2026年度公募助成詳細
https://chishima-foundation.com/information

応募にあたってのよくある質問集
Q. 開催場所や招聘者が未確定です。具体的な名前を書く必要がありますか?
A. 交渉中であっても、具体的な名称が書かれている方が良いです。Q. ほかの助成金も申請予定なのですが、申請書に記載した方が良いですか?
A. はい。申請予定の助成金、及び見込み額で構いませんので金額についても記載してください。複数の助成金を申請する等により、資金の確保に努めていることは、事業の実現性に関する評価においてもポジティブな要素になります。Q. CCO(クリエイティブセンター大阪)の助成対象外のスペースも使用することはできるのか(パルティッタやブラックチャンバーなど)?
A. 主催者の自己負担で借りていただく事は可能です。空き状況や費用については、CCOに直接お問合せ下さい。Q. クリエイティブセンターの下見に行きたい。
A. 施設の見学をご希望の方は、CCO(クリエイティブセンター大阪)へ直接ご連絡ください。
クリエイティブセンター大阪 問い合わせメール = cco@namura.ccQ. 大阪府内のギャラリーやスペースを借りて展覧会やイベントを開催することを計画している。「創造的場づくり助成」で申請することは可能か?
A. その展覧会が今後継続的に同じ枠組みで開催されるなど、有形の「場」として機能すること、もしくは、オンラインを使用したネットワーク形成の取組みが必要です。創造活動の発表の場としての展覧会やイベントだけでなく、幅広いネットワーク形成に役立つ場としての役割を考察し、申請書に盛り込んでいただきたいと思います。



