
心斎橋のルイ・ヴィトン メゾン大阪御堂筋の5階に2021年2月にオープンしたアートスペース「エスパス ルイ・ヴィトン大阪」にて、ドイツ人アーティスト、ゲルハルト・リヒター(1932~)を紹介する展覧会「Abstrakt」が開催される。
東京、 ミュンヘン、 ヴェネツィア、 北京、 ソウルなど世界各地のエスパス ルイ・ヴィトンで展開される「Hors-les-murs (壁を越えて)」プログラムの一環として企画された本展では、 フォンダシオン ルイ・ヴィトン(ルイ・ヴィトンが設立した、20世紀の作品に特化した芸術機関)の所蔵作品の中からリヒターの抽象作品18点を特別に選び出し、 30年以上にわたる創作活動をたどる。 そのうちの2作品、 《940-4 Abstraktes Bild (アブストラクト・ペインティング)》と《941-7 Abstraktes Bild (アブストラクト・ペインティング)》(2015年)は、今回が初公開となる。

ドイツの画家、ゲルハルト・リヒターは、旧ドイツ民主共和国の一部であるドレスデン近郊のノイシュタットに誕生。第2次世界大戦中はライヒェナウ(現ポーランドのボガティニア)で育ち、その後、チェコとの国境近くにあるヴァルタースドルフに移り住みました。劇場画家として働いた後、1951年にドレスデン(ドイツ)の美術大学(Hochschule für Bildende Künste)に通いはじめ、文化統制が敷かれた当時の極めてアカデミックな教育を受けました。壁画を専攻し(当時、数件の注文を受ける)、1956年に学業を終えた5年後、東ドイツを逃れてデュッセルドルフへ向かいました。デュッセルドルフ美術アカデミーで抽象画家カール・オットー・ゲッツの下で学びながら、ジグマー・ポルケとコンラート・リュークと親交を結び、共に1963年に廃店舗で初の展覧会を開催。さらに2回目の展覧会「Living with Pop: A Demonstration for Capitalist Realism(ポップと共に生きる──資本主義リアリズムのデモンストレーション)」を手掛けました。
リヒターは、1960年代初めに、初期の展覧会で主張した「資本主義リアリズム」の精神に則って、絵画と芸術の目的を問い質すために、写真を用いるようになります。第2次世界大戦の経験は彼にとって消えない印象を残し、写真は、政治と歴史が個人的領域に直接的影響を及ぼす主題に向き合うために必要な距離感をもたらしてくれるように思えました。キャリア全体を通じて、新聞・雑誌の写真、および愛する者の写真や家族写真を含む、自身で撮った写真を描き写しています。また並行して、カラフルなグリッドや、アクションペインティング、モノクロームを組み合わせた抽象形式を編み出してきました。
リヒターの最初の抽象作品は1960年代中頃に遡りますが、今日にいたるまで抽象作品と具象作品を交互に制作し続けています。1971年まで、リヒターによる色の使用は稀か、もしくは控えめでしたが、1979年以降、色使いは惜しみなく、人目を引くものとなり、1980年代全体を通じてより鮮明になった快楽原理に明らかに主導されるようになりました。さまざまな道具(あらゆるサイズの絵筆、パレットナイフ、ブラシ)を用いて多彩なテクスチャーも生み出してきました。これは豊かさの第一印象をもたらす一方、各作品に厳格な構造を見出すのに長い時間は要しません。例えば《Möhre(ニンジン)》(1984年)では、作品は灰色で強調された鮮やかな黄色の線で表現された軸を中心に展開されます。それを囲む3つの色彩ゾーン(灰色、赤、黄)は、それぞれが独特のテクスチャーを備えています。
リヒターは、自身の初期のキャリア、並びに──皮肉な距離感をとりつつも──絵画史、ロマンティックで崇高なテーマ、幾何学的でリリカルな抽象を意欲的に見直します。リヒターが大切にする具象と抽象の共存は、並列的なアプローチというよりむしろ、ミザナビーム(紋中紋、入れ子構造)として立ち現れます。引っ掻いた表面や、透明な層を通して垣間見える写真要素を通じて素材の深みが広がる一方、雰囲気や自然の要素、ファーストネームを暗示する題名を通じて、精神的な深みが具現化されます。単純化や概念化とはかけ離れた、この一生をかけた探求は、消し去ることとヴェールを剥ぐことの間で逡巡の極みに達します。
(Webサイトより)
会期:2021年11月19日(金)〜2022年
4月17日(日)5月15日(日)まで会期延長
*休館日はルイ・ヴィトン メゾン 大阪御堂筋に準じる。会場:エスパス ルイ・ヴィトン大阪
時間:12:00〜20:00
料金:入場無料
問合:0120-00-1854 contact_jp@louisvuitton.com
エスパス ルイ・ヴィトン大阪
大阪市中央区心斎橋筋2-8-16
ルイ・ヴィトン メゾン 大阪御堂筋 5F