谷町六丁目のギャラリー、+1artにて、美術家・今井祝雄の展覧会「おとだま」が開催される。
今井は1946年大阪市生まれ。大阪市立工芸高校在学中から吉原治良に師事し、具体美術協会に参加した。1966年に第10回シェル美術賞一等賞を受賞して以降、国内外の展覧会に多数出品。1970年代からは写真やビデオ、サウンドによる作品も制作している。
今回展示する作品の素材となったのは、段ボール箱2箱分のオープンリールの録音テープ。1960〜70年代のジャズやロックが録音されており、30年ほど倉庫で眠っていたものだという。
今井は、このリールからテープを引っ張り出し球状に丸める作業を、コロナ禍の2020年3月から始めた。約5ヶ月に及んだ作業で丸められたテープはリール108巻分。直径250mm、重量10kgとなった球体=「おとだま」が、リールを収めた台座の上に設置され展示される。
おとだま〇まるくまんまる
段ボール箱2箱にびっしりと詰められたオープンリールの録音テープは、一時代のある若者が自ら聴いては録音した青春期の痕跡である。それぞれのケースに手書きされた曲名やミュージシャンのメモには、音楽に疎い私の知る曲も少なくなかった。
私はそれらをリールからテープを引っ張り出し、ときにカビを拭いながら球状に丸めていった。最初はピンポン玉ほどから、テニスボール大になり、やがて大きいスイカ大にまで、最後は机の上で転がしながら巻き付けていった。ほどけないよう時々両面テープで固定しながらの単純な作業の5か月余り、テレビでは連日、コロナ禍による自粛が呼びかけられ、それはまだ続いている。
重量10キロになった球体を横目に、2020年の私の3行日誌から、その進行過程を抜きだしてみた。・3月31日:オーディオ・オープンリールテープの“音だんご”を制作し始めた。
・4月 1日:直径10センチ以上になった。
・4月 7日:大きくなるにつれ、重さも増し、やりづらくなる。
・4月10日:制作というより「デイリーポートレイト」と併行する日課のようになった。
・4月12日:テープ19本目。直径が大きくなるにつれ、サイズの変化は判りにくくなっている。
・4月20日:TVやUチューブを視聴しながら…
・4月21日:“音だんご”が大きくなってきて…「おとだま」にしようか。
・4月29日:「おとだま」制作が連日続いて指の皮がすべすべになる。
・5月 1日:45個のテープ完了。巻きつける時に無意識ながら歯をくいしばるのか、マウスピースをつけなければと思いつつ忘れる。
・5月 6日:52巻目…薄手のゴム手袋をはめて作業する。
・5月10日:59巻目。大体一日2巻のペースだが、手袋をしていても手が疲れる。
・5月11日:61巻目。100巻ほどを目標に、カビをクリーニングして…
・5月14日:65巻目…手袋での作業は使い勝手がいい
・5月17日:70巻目。手や腕がダルくなるのでボチボチと。
・5月18日:71巻目。かなり重くなってきた。
・5月19日:73巻目。大きさよりも重量的に100巻がテープの在庫を含め限界の見通し。
・5月23日:79巻目、重くなったので、巻きつけるのに力がいる。
・5月25日:81巻目、手がパンパンなので今日はよそうと思うが、机に向かうとついつい巻きつけ作業になってしまう。
・5月26日:82巻目、ほぼ一日、無理しないで1巻完了。
・5月28日:小さい突起は金槌で(球形を保つべく)修正後に巻きつけることに。
・5月29日:85巻目…ゴム手袋を買うが、暑いので外すと汗で手がびっしょり。
・6月 6日:90巻目に取りかえるが、手がパンパンになり、リールの整理にかかる。
・6月 6日:90巻目の途中、リールを(収める)スモークのアクリルボックスの台座をプラン。
・6月12日:制作は急がないのに、つい完成を見たくて手を出してしまう。新しい手袋で93巻目に。108巻までもう少し。
・6月13日:93巻目後半。大きく重くなるほど作業がむづかしくなる。
・6月22日:手がパンパンなので「おとだま」制作休み。
・7月 7日:99巻目。かなり重くなり、力仕事になってきた。
・7月23日:104巻目にかかったところで、白い手袋が破れ…
・7月31日:ラストの108巻中ほどまで。手がつかれるが早く完了したい。
・8月 4日:修正を終え完了。写真にとり、リール入りの台座の図面にかかる。
・9月 1日:台座が届いて、早速に空リール108個収納、ぴったり。数えきれない人たちが耳にしたに違いないさまざまな曲が録音されたこのおびただしいテープは、メディアの変遷で再生が困難となったいま、記憶の音の塊となって現前する。
2021年 今井祝雄
会期:2022年3月30日(水)~4月16日(土)
会場:+1art
時間:12:00~19:00 ※最終日は17:00まで
休廊:日〜火曜
関連イベント
対談『メディアの変遷とサウンド』
日時:4月2日(土)18:00~
出演:今井祝雄、 森下明彦(メディア・アーティスト/美術・音楽・パノラマ愛好家)
参加費:500円(1ドリンク付) ※事前予約制 https://ws.formzu.net/fgen/S82233447/同時期開催
聞一鮪・村上ルミ 二人展「甘口の太陽」
会期:3月30日(水)~4月9日(土)
会場:+2
時間:13:00~19:00
休廊:日〜火曜
大阪市中央区谷町6-4-40