十三のシアターセブンにて、新旧の現代タイアーティストの映像4作品をオムニバス上映する「コミュニティ/タイの/ポストコロナの」が開催される。
海外のアーティストを受け入れトークや展示などを企画する大阪のアートハブ・TRA-TRAVELが主催。キュレーターはグライウート・チュルポンサトーン。
現代美術の領域における映像作品は、美術か映画かを判断するのが難しい、両義的な作品が多く存在する。タイでも同様の状況で、映画監督が美術館やギャラリーで作品を発表することもよくあるという。
今回の上映は、映画/アートという線引きなく映像芸術を鑑賞する機会を持ちたいとの趣旨で企画された。
上映される作品のテーマは、生/性、死、労働、移民、孤独など、タイ固有の文化背景を照射しながらも、広く現代社会の普遍的な問題に接続されている。キュレーターがポスト・コロナ時代に投げかける「新たなコミュニティの意味」に耳を傾け、私たち自身を取り巻く「コミュニティ」について再度想像してみたい。
なお、主催者より、キュレーターのチュルポンサトーン、アーティストのプラパット・ジワランサンへのインタビューが届いたので、以下に掲載する。インタビュアーはTRA-TRAVELのQenji Yoshida。
Qenji Yoshida(以下QY):本イベントのタイトルは「コミュニティ」とされていますが、もう少し詳しくその点について聞かせていただけますか?タイでは2014年に軍事クーデターがあり現在も軍事政権は進行中で、また深南部ではたびたび紛争があるなど断片的なニュースは日本にも届いていますが、タイやグローバルな視点から「コミュニティ」とはどのようなものとお考えですか?
グライウート・チュルポンサトーン(以下 GC):コミュニティという言葉自体、多くの方の琴線に触れるもので、また多くの捉え方を持っています。
まず第一に、コロナウイルスやソーシャルディスタンスのため、私たちは他者と分かち合う「コミュニティ」について考える機会が増えました。それは、国家やグローバルなコミュニティという感覚についてもです。
二つ目に、タイの場合、コロナウイルス感染症のアウトブレイクの始まりに、政府の対応に抗議するために市民が集い、タイ史上最大規模のデモ行進が行われましたが、そこには強い共同体意識が息づいていると言えます。
三つ目の例としては、自国から離れて暮らす人々のコミュニティについても考えています。例えば、移民労働者として抑圧された状態で労働するため、現地コミュニティに依存する必要があるケースなどです。QY:たしかに。コロナウイルスのアウトブレイク以前・以後とではコミュニティは、言葉にまだなっていない変化も含めて、その捉え方が変わったと多くの方が感じていると思います。
GC:そうですね。コロナという疫病は、私たちに他人から距離を置くことを促しながら、それでもコミュニティの一員となることを促すので、自分の立ち位置は何なのかを常に考えさせられますよね。共同体の一員になりたいのか、それとも孤立を求めるのか。
QY:この現代タイアーティストの映像作品オムニバスは、来日するプラパット・ジワランサンさん(※1)の他2名のアーティストの作品を選ばれていますが、どのような意図で選ばれたのでしょうか?
GC:アラヤー・ラートチャムルーンスックは、ビデオアーティストのパイオニアで、世界的にも著名で日本でも知っている方も多いと思いますが、彼女は1990年代からホームビデオを使い映像作品を開始しました。プラパット・ジワランサンはタイ国内外で活動していますが2010年代からビデオ作品を制作しており、より映画的な表現を行っています。ジャンジラ・シリプニョットは、今も美大生で、ビデオというメディアを探求し始めたばかり故の独自な手探りを感じるものです。
彼・彼女らは当然 、人としても世代としてもコミュニティの捉え方や向き合い方が異なります。そのような約20年ずつ世代を跨ぐ3名のアーティストを紹介したいと考えました。
QY:プラパットさんは来日予定ですが、今回上演される『Ploy』はシンガポールの移民労働者を描いた物語ですが、過去にも移民をテーマにした作品を継続的に制作されています。なぜ「移民」をテーマにされているのでしょう?
プラパット・ジワランサン:そのテーマは、私の経験から得たものです。過去4年間、私はアジア各地で滞在制作する機会に恵まれました。そこでいつも、その国に住むタイ人の話を聞くのですが、彼・彼女らは私のような”滞在制作を行うアーティスト”とは全く異なる状況で暮らしています。違法に入国してきた方もいましたし、強制送還された方もいます。合法的に入国したものの、労働者として搾取された方もいました。それらの物語は、タイという国家あるいはコミュニティからしばしば排除されてきたタイ人の物語であり、私はそのような移民の経験を映画として収めたいと考えています。
QY:本企画ですが、日本の観客にどう鑑賞してほしいでしょうか?
GC:現在の世界はグローバルに繋がっていますが、コロナにより国を越えたオンラインのディスカッションやミーティング、様々な企画は、むしろ機会が増えました。当然日本もグローバル社会の一員でありますし、日本は移民労働者の人気国のひとつでもあります。
タイという固有の文化や前提を日本の観客に紹介したいというよりも、日本の観客へ隣人であるアーティストがもたらすメッセージを共有し、あわよくば何かを考える切っ掛けになれば嬉しく思います。※1 本インタビュー後、体調不良により訪日はキャンセルとなりました。イベント当日のアーティストトークはオンラインで行われます。
「コミュニティ/タイの/ポストコロナの」
タイの現代アーティストの映像作品オムニバス日時:2022年10月16日(日) (1)13:00〜 (2)17:00〜
会場:シアターセブン
アーティスト・上映作品:
アラヤー・ラートチャムルーンスック『クラス』(2005/タイ/カラー/16分/ステレオ/PG-12作品)、『月の裏切り』(2012/タイ/カラー/12分/ステレオ)
プラパット・ジワランサン『プロイ』(2020/タイ/カラー/51分/ステレオ)
ジャンジラ・シリプニョット『無常の海に浮かぶ』(2021/タイ/カラー/11分/ステレオ)*各回、上映後リモートトーク予定。
登壇予定(オンラインでの出演):
プラパット・ジワランサン(『プロイ』監督/アーティスト)
グライウート・チュルポンサトーン(キュレーター)料金:一般1,800円、会員1,000円(要会員証提示)、学生1,000円(要証明書提示)
主催:TRA-TRAVEL
共催:シアターセブン
助成:大阪市
大阪市淀川区十三本町1-7-27
サンポードシティ5F