2013年3月に、山中俊広が大阪市此花区に開いたギャラリースペース「the three konohana(ザ・スリー・コノハナ)」。従来の限られた現代美術コミュニティ内の関係にとどまらず「第三者」を迎え入れ、次代の現代美術のあり方を考えるというコンセプトで運営してきた。
開廊10周年を迎える2023年は記念企画を複数計画しているが、第1弾として、加賀城健と加藤巧による2人展「Haste Makes Waste」を開催する。
同ギャラリーで定期的に作品を発表してきた2人だが、本展開催にあたって、お互いの作品および作品に使用する材料を渡し合い、それに各々の方法で応答した作品を制作。また、対話を通じて着想が広がった新作、相手方の作品と並置して同異点を探る作品などで展覧会を構成する。
開廊10周年、つまりギャラリー活動の10年を表現する展覧会をと考えた時に、私にはそれを総花的に回顧する選択はないと思った。この10年間、私はギャラリーの運営と並行しながら、キュレーターの肩書で様々な立場や枠組みの仕事を多数手掛けることとなり、ギャラリストとして美術、芸術/アート、作家、作品とどう向き合うかという私の価値観はどんどん変容した。そうした流れの中でこの10年を表現するならば、今のこの通過点でどういう芸術の見方を持っているのかを示すことが理にかなっていると思った。つまり今の自分を表現すること。
変化したことも多いが、一貫して持ち続けている価値観ももちろんある。今回の展覧会はどちらかというと後者を表現することかもしれない。加賀城健と加藤巧は、それぞれ弊廊で何度も発表を続けていると同時に、パブリックな環境を舞台とした企画でも協働しており、作品を作らずマネジメント職に専念する私の立場に理解を示すことができる作家でもある。さらに二人は、芸術系大学で教員職に従事していることも私と共通し、ギャラリー内での活動に留まらず、広い視野でいまの芸術・美術を捉えて議論ができる、対等な同志的存在であることは過言ではない。
この二人の作家に共通していることは、作家としての活動や作品表現の幅を広げながらも、その広がりを自らの特異点として押しだすことはなく、各々の領域の原点、つまり本質の追究に自らの主題を置いている。この点に私はこれまで強い共感と信頼を置いてきた。加賀城は染色、加藤は絵画、それぞれの領域の技法と材料を研究する姿勢が作品へと発展する過程は、共に作家としての最も強固な軸と言えよう。しかし、二人はそれらの要素を権威として自らにまとわせないように、自らの身体および制作行為の性質をも観察し、それらを作品へ反映させる姿勢を取る。自らの外にある表現・制作のための知識と、自らの中にある身体と思考を組み合わせ、それらをフラットにするためにいかに遠回りし、不便さを受け入れることを意識した作品制作をするところにも特筆すべき点があると考える。各々の領域にある技法や材料、歴史に由来する、動かしがたい権威的概念と、表現・制作の不自由さに着目し、それらに誠実に向き合う振る舞いから自由さを獲得していく態度には、いまの芸術の領域だけでなく社会にも説得力を持ったメッセージとして発せられる強さがあると私は思っている。
一方で、これだけ共通点が多くありながら、本展はむしろ両者の違いが現れることになるだろう。当初互いに制作思考への共感を持ってこの企画に臨んだ二人だったが、まずは作品や材料を交換して制作に取り組んだものの、それらを取扱うアプローチに共に戸惑い、制作が立ち止まった瞬間があった。この気づきがあった後に、本展に向けての各々の取り組み方に違いが広がったように私は感じた。急がば回れ。本展のタイトルはここでの出来事だけでなく、私たちが各々の活動の中で常に大切にしてきた態度として明解に示すものである。
本展は、加賀城と加藤の対話と応答から、全ての作品と展示が作られる。それを10年の活動を経たギャラリーの今を位置づける価値観の一つとして示すことに、私に躊躇はない。これまで多数の企画で私と協働を積み重ね、お互いのキャリアアップに寄与し合ってきた二人は、ここに私自らの価値観を肉付けすることに信頼を持って受容してくれるだろう。ここからギャラリーの次の10年を展望し、そしてさらにその先の世界に残され得る芸術とは何かを、これからも試行錯誤しながら考え続けていきたい。
the three konohana 代表・ディレクター 山中 俊広
(プレスリリースより)
加賀城 健(かがじょう けん)
1974年大阪府生まれ(現在石川県在住)、 2000年大阪芸術大学大学院芸術制作研究科修士課程修了。
現在、金沢美術工芸大学美術工芸学部工芸科教授。加藤 巧(かとう たくみ)
1984年愛知県生まれ(現在岐阜県在住)、 2010年大阪芸術大学美術学科卒業。
現在、名古屋造形大学、成安造形大学、京都市立芸術大学非常勤講師。
開廊10周年記念展 Vol.1 加賀城 健+加藤 巧「Haste Makes Waste」
会期:2023年4月28日(金)~6月18日(日)
会場:the three konohana
時間:12:00~19:00
休廊:月〜水曜
大阪市此花区梅香1-23-23-2F