桜ノ宮のアートコートギャラリー開廊20周年記念展(Vol.3)として、今井祝雄の個展「今井祝雄の音」が開催。
今井は1946年大阪府生まれ。高校在学中から個展を開催するなど精力的に活動、卒業後の1965年には具体美術協会会員となり、1972年の解散まで全ての具体美術展に参加した。
具体時代の代表作は白いレリーフ状の造形作品だったが、具体解散後の1972〜76年にかけては、心臓音とさまざまな音響メディアを素材とする表現を展開する。今井を含む美術家3名(倉貫徹、村岡三郎)の心臓音を大阪の都心、道頓堀と御堂筋の交差点に位置するビルの屋上からスピーカーで流した《この偶然の共同行為を一つの事件として……》(1972)や、面合わせに吊り下げられた2基のスピーカーから、異なる時期に録音した作家の2つの心臓音が響き合うインスタレーション《Two Heartbeats of Mine》(1976)、ドーム空間の暗闇の中、心臓音が6/8拍子を刻むメトロノームの音へと移行し、拍子に合わせて客席の鑑賞者を作家がストロボ撮影するパフォーマンス《八分の六拍子》(1976)など、音を媒体として自己と他者、作品と鑑賞者の境界を曖昧にするような、実験精神に富んだ実践を繰り広げた。
本展では、これらの1970年代の作品群を、今井と長年の親交のあるアーティスト・藤本由紀夫から技術面・構想面での協力を得て、資料とともに網羅的に展示する。また、カセットテープと録音された音声を視覚的・身体的に鑑賞するための最新のインスタレーションも発表し、その多彩な表現営為を「音」という切り口から紹介する。
初めてロックコンサートに行った際、音が足元から身体を伝わってくるのに驚いた。音は耳だけではなく、触覚として体験できることを知った。またレコードを聴きながらスピーカーを見ていると、音の振動がスピーカーのコーン紙の動きによって作られていることから、音は視覚としても体験できるということを知った。どちらも中学生の頃であった。
その後、音響機器や電子機器を使うことにより新しい表現を試みる電子音楽やミュージック・コンクレートの存在を知り、将来の方向を漠然と描くようになった。ただ音楽という情緒的な表現には少しばかり違和感があった。音を思考の道具として哲学的に考察するようなことはできないかと思っていたが、私の脳内では具体的な方法が浮かばなかった。
電子音楽を勉強するために大学に入学し、しばらく経過したある日「美術手帖」のページを捲っていたら、大阪の中心地、難波のど真ん中の道路に向かって心臓音を流しているアーティスト達がいることを知った。今井祝雄との初めての出会いであった。藤本由紀夫(本展協力者)
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新作 《音声の庭》 について
私たちの会話において発される音声の数々。そのほとんどは記憶の彼方に消え去り、ときに記憶の中に沈潜していく。だがそれを録音するとき、そこには再生することを目的とした記録の意思が働いている。監視カメラと同様に電話でさえも。
とはいえ、一度は再生されても、あるいは全く再生されることなく、データとして何らかのメディアの中に封印されるも多くは廃棄されていく。いっぽうで、記録されない会話とその音声の行方は?
そんな興味から、2022年秋より機会を得た12人(組)と個別に交わした会話を、再生しないことを前提にカセットテープに 録音した。今回の展覧会では、音声をメディアの痕跡として視覚的かつ体験的な場を設えたいと思う。今井祝雄
(プレスリリースより)
会期:2023年5月13日(土)~6月24日(土)
会場:アートコートギャラリー
時間:11:00~18:00、土曜は~17:00
休廊:日・月曜
関連イベント
レセプション
日時:5月20日(土)15:30〜17:00
※同日に開催される「対談|今井祝雄 × 藤本由紀夫」は定員に達したため申込受付終了
大阪市北区天満橋1-8-5
OAPアートコート1F