はるかな宇宙を旅してきた隕石が、今ここに在ります。 気の遠くなるような時の経過を想像しながら隕石を見つめ、そっと触れていると、名状し難い不思議な気分に包まれるのです。また、ソーラーカーに乗って風を切っているときにも同様のことを感じます。思い返してみると、宇宙がこのように身近になるときが幾度となくありました。例えば、自然の事象にレンズを向け、長時間露光や二重撮影の反復をしているときにもしばしば生じ、宇宙は至近距離にあるのだと気づかせてくれます。—
野村仁「自然は時間と共に真の姿をあらわすか」より
展覧会図録『野村仁 変化する相―時・場・身』(2009、国立新美術館、p.14)–
現代美術家・野村仁(1945-2023)の個展を開催します。本展では、宇宙から飛来した隕石をYS-11の尾翼に載せ、地上に迎え入れる大型作品《軟着陸する隕石’97》(1991-1997)をメインに、野村の彫刻制作を貫く「コスミック・センシビリティー」の意識を代表作の数々とともに紹介します。
重力や時間とともに変化する物質の様相をカメラで捉え、野村は1960年末より写真を主要な彫刻作品とする制作をスタートさせました。70年代半ばには天体の動きにレンズを向け、以来、身の回りの事象や生の営みが崇高でダイナミックな自然の秩序に基づく関係性に関心を深めていきます。扱う素材やメディアも多様化し、宇宙の起源、生命の誕生、地上生物の進化過程といったスケールで「時」を記述し、物の成り立ちや現象の背後にある「モト」を照射する独自の空間表現を探求していきました。
80年代に入り、隕石を初めて入手した野村は、「そのかたちが面壁の達磨と衣を広げ風に向かって歩く釈迦に見えた」ことから、果てしない時間と空間とともに現れる宇宙の造形力の存在に気づきます。その思考と意識のもとに生まれる新たな創造の拡がりを“コスミック・センシビリティー”と呼び、90年代より隕鉄を用いた作品を発表。小隕石を肖像や事物に見立て、ユニーク彫刻として大理石に載せ提示する作品や、DNA模型と組み合わせた作品などを手がけました。
アートコートギャラリーは約20年に渡り、野村仁の先進的な活動発表の場となり、制作のエネルギーを間近で見る機会に恵まれました。「物質と生命を貫く大切な何か」を捉え、夜に浮かぶ星や月の光のように、宇宙を身近に知覚できる数多くの作品を生み出し続けた野村仁を再び見つめ、旅立ちから1年となる時を本展で皆様と過ごすことができれば幸いです。(プレスリリースより)
会期:2024年9月21日(土)〜10月26日(土)
会場:ARTCOURT Gallery
時間:11:00~18:00 ※土曜は~17:00
休廊:日・月曜
関連イベント
お月見トーク「野村仁とコスミック・センシビリティー」
日時:10月17日(木)18:00〜19:30
ゲスト:名和晃平(彫刻家、Sandwich Inc.主宰)
聞き手:牧口千夏(京都国立近代美術館 主任研究員)
定員:20 名 ※要予約 info@artcourtgallery.com–
同時期開催
今井祝雄「皮膜のうちそと」
会場:ARTCOURT Gallery 小展示室
大阪市北区天満橋1-8-5
OAPアートコート1F